第5話 現れた仲間

 グラースの事件から何週間か経ったある日、ユウキが出勤する為、車のエンジンをかけようとしたのだが、エンジンは掛からなかった。やむなく、その日は近くのバス停まで歩く事になり、ステラが途中まで送ってくれた。

 ユウキが思い切って彼女の手を握ると、嫌がる事は無かった。

「キスしたい」

 ユウキが調子に乗って言うと、

「えっ、馬鹿を言うな。皆が見ているではないか……」

 彼女は、照れを隠すようにユウキを睨んで、その手を振りほどき、さっさと帰ってしまった。


 その日に限り、ユウキは残業で遅くなり、夜道を一人歩いて帰っていた。家まで、あと一息という所まで来ると、街灯が途切れ、月の光だけが頼りとなった。

 誰かに後をつけられているような気配がしたユウキが、背筋が寒くなるのを覚えながら、小走りに駆け出そうとした、その時、いきなり彼の左腕を誰かが掴んだ。

 ビクッとして、ユウキが慌てて振り払おうとしたが、相手の力は半端ではなかった。見ると二メートルはあろうかという大男だった。ユウキが振り向きざまに、渾身の右回し蹴りを頭部に放つと、大男は、それをスッとかわして、ユウキの足を掴むなり、グイっと投げ上げた。ユウキは、その勢いのまま後方に一回転し、着地しながら攻撃態勢を取ろうと顔を上げた時には、既に大男の巨体が眼前に迫っていた。「やられる!」そう思った瞬間、黒い影が現れ、大男の前に立ちはだかった。


 月の光の中で、二つの影が交差して、「ドスッ! ドコッ!」拳が炸裂する鈍い音が響くと、大男の方がドサッと倒れた。

「ユウキ、大丈夫なの?」

 ステラの声が闇に響くと、逃げようとした大男が立ち止まり、何やら口走った。すると、ステラが「エッ!」と大男を振り返り「サルガスなの?」と、駆け寄った。

 二人は、訳の分からぬ言葉で何やら話していたが、ステラが荒い息ずかいをしながらユウキに言った。

「彼は私の仲間よ。心配いらないわ」

 その言葉に、ユウキは力が抜けたように座り込んでしまった。大男が、すまなかったねというようにユウキの手を取り立ち上がらせた。

 ステラの方を見ると、いつの間に現れたのか、もう一人の男と抱き合って再会を喜んでいた。

「ユウキ、家に来てもらっていいわね?」

 ステラが近づいて来て言うとユウキは快諾し、四人は、暗い道を彼の家に向かった。



 居間に通して明るい所で見ると、二人とも例のスーツを着ており、身体は頑健で、怖いほどに目は鋭く、百戦錬磨の兵士を思わせた。大きい方はワイルドで、もう一人は知的な雰囲気だった。

「日本語を入れたから、言語モードを合わせてみて」

 ステラが促して、二人が腕時計のようなものを操作すると、会話が可能となった。

 彼らは、今まで連絡出来なかったのは、通信機が壊れてしまった為だと説明して、この街へは、グラースのニュースを見て来たのだと話した。

 ステラは、彼らをユウキに紹介した。大きい方がサルガス、知的な方が隊長のレグルスで、いずれもステラの親衛隊だという。

「この人は、この星でお世話になっているユウキよ」

 ステラに紹介されて、ユウキは二人と握手を交わした。

「ステラ様が、お世話になり有難う御座います」

 レグルスがユウキに頭を下げた。

「とんでもない、私の方こそ家事をして頂いて助かっています」

「ほう、ステラ様が家事ですか? それに、話し方まで女性らしくなって」

 レグルスが、訝し気にステラを見た。

「私だって、家事ぐらいできる。そんな目で見るな」

 ステラが、照れ隠しをするように男言葉になった。

「お二人はどういう関係なんですか?」

 仲の良さそうな二人を見て、サルガスが聞いた。

「夫婦だ」

「えっ!」

「と、いっても、偽装だがな」

「それで、一年も一緒に暮らして、何もなかったのですか?」

 レグルスが執拗に聞いてくる。

「それは……」

「いえ、私達は、戦いの連続で、恋愛すらできないステラ様が不憫だったのです。貴女に愛する人が出来たなら、どれほど嬉しいか」

 レグルスの慈顔が、ステラを包んだ。

「ありがとうレグルス。ユウキの前で言うのも何だが、私は、地球に落下した時に記憶を無くしてしまったんだ。二人で暮らす内に愛情が芽生えたのは確かなのだが、記憶が戻ってみると、自分の気持ちが分からなくなってしまって……」

 ステラが、ユウキの顔をチラ見しながら言った。

「この世界に、偶然は無いと言いますから、今回の貴方達の不思議な出会いも、きっと意味があるはずです。お二人で良く話し合えば、縺れた糸も解けるかもしれませんよ」

 レグルスの言葉に、ステラとユウキが頷いた。


 宇宙での戦いでは、多くの犠牲者が出たようで、ステラ達は涙ぐんで、早くこの戦いを終わらせなければと誓い合っていた。

 次に、この街に来たロボットの事へと話は変わった。敵の正体は恐らく彼らの艦を襲った新型ロボットのグラースだと意見は一致した。

 サソリ型のロボット、スコーピオンがシールドを破り、もう一体の破壊型ロボット、グラースが、艦内に入って破壊活動を行った為、ステラ達の戦艦は破壊されたのだった。


 彼らの戦闘スーツには、シールドという防御装置がついていて、少々の攻撃ではダメージを受ける事は無いのだが、今回の敵、グラースのビーム砲は、それを超える破壊力があるというのだ。彼らの話に、ついていけないユウキが心配そうに聞いた。

「そんな敵に、たった三人で勝算はあるんですか?」

「三人? 四人でしょ」

 当然だというように、サルガスが口をはさんだ。

「彼はダメ! 戦闘訓練も受けていない平凡な人よ。巻き込まないで!」

 ステラが、顔色を変えて彼らを牽制した。

「そうは言っても、ユウキ殿は既に抜き差しならぬところまで関わっています。予備のスーツがありますから、今からでも訓練は始められますが、ユウキ殿の気持ちはどうですか?」

 レグルスが、ユウキに鋭い目を向けた。

「ステラの力になれるなら、やらせてください!」

「ほんとにいいの。戦士になるという事は、命を捨てるという事なのよ」

「ステラの為なら、命だって捨てて見せるさ」

「……」

 ステラは、ユウキに危ない事をしてほしくなかった。だが、自分と一緒にいれば、危険は何時やってくるか分からない。スーツが使えるようになれば、最低限の対策になる事は間違いなかった。

「分かったわ。そこまで言うなら、ユウキに戦闘訓練を受けてもらいましょう。それで、スーツはどのタイプなの?」

「もしもの時にと、博士が持たせてくれたニュータイプのものです。私達もまだ性能を確認出来ていませんし、ユウキ殿に合わせ言語の更新も必要ですので、しばらく待って下さい」

 レグルスの話に、ステラは意外な顔をした。

「そんなものが在ったの、知らなかったわ。グラースは、まだ太平洋のどこかに隠れているはず、ともかく準備を急ぎましょう」


 当面、レグルスとサルガスも二階に住むことになり、グラース撃退への準備に入った。

 二、三日して彼らは、新型スーツのテストも兼ねて、グラースの探索に出掛けた。ステラも、時間があると戦闘訓練をしてくると、何処かへ出掛けた。グラースやサルガスと戦った時、戦闘能力が減退している事に気づいたからだ。

 ユウキも戦闘訓練に備え体力作りを開始していて、それぞれに、戦いへの準備に余念がなかった。

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