4話 スフィア編ー 合気


 サラマンドは、スフィアの薄汚い毛皮服と、ベットリ長い髪を見て、


「汚いな?」


 次に裸足を見て、


「原始人の子供か?」


「サラマンド… お前の方が汚い」


 スフィアの声で女だと気づいたサラマンドは、たまらずプッっと笑った後、


「造反雑兵共! まだ幼いが、お前達にお似合いの女がいたぞ!」


 続いて、大きな馬に乗るサラマンドは スフィアを睨みつけ、


「どけ邪魔だ!」


 スフィアに突進。


 衝突の瞬間!


 馬はサラマンドごと、高く空中に舞う。


 兵士たちは、

「えええー!?」


 首から変な落ち方をした馬は、


「ヒッ…ヒ」


 動かなくなった。


 空中で態勢を整え、上手く着地したサラマンドは駄目になった馬をチラッと見た後に、驚いたようにスフィアを見つめた。


「なんだ! 今の技は!?」


「今から殺す敵に情報は教えない」


「なに?」


 スフィアは拳を合わせ指をボキボキと鳴らし始めた。


 見ているアナ帝国の兵士たちは、

「あの原始人の子、強い!」

「馬がぶっとんだ!」

「しかし、相手はアナ帝国有数の猛将サラマンド」

「子供では無理だろうな」

「しかも、サラマンドの野郎はステゴジラとかいう聖剣まで手にしているし」


 サラマンドは指を鳴らすスフィアに、


「ガキだが強いのは分かる、だがこの星には上位聖騎士の様に上には上の化物がいる、しかも俺には…」


 サラマンドは腰の鞘から聖剣『ステラジアン』を抜き、光り輝く刃を見て、


「俺には天からの授かりモノもある!」


 スフィアはステラジアンを指さし、


「それはワタシのモノだ」


 その言葉でサラマンドは、

 聖剣→アモン→飛ばされた大馬→合気。


 心で、


(ガキは、アモンと繋がりのある人物? そうか…12年前にアモンが誘拐したという赤子がコレか? なら、今の動きはアモンから英才教育を受けている)


 と悟り… サラマンドは不戦も視野に入れ…


「なんなら、この聖剣は返すぞ」


「もういい、お前を殺すのに、それは関係ないもん」


「なぜ戦う必要があるのだ?」



 スフィアは凍り付くような眼差しで、


「お前は戦人いくさびとでありながら闘争を放棄した…とても嫌なモノを見た…それが殺す理由」


「ガキが何を言ってやがる…意味わからん」

 

「それと犬もだ… おまえは食べるために命を奪われた犬を粗末に扱った」


 なんの恐怖心も見せずに歩み寄って来る不気味な存在に、


「完全にイカれている…」


 闘争ではなく逃走を!




 全力疾走! そして飛び!


 シュルルル~~~っと、

 急な勾配な山を下る、

 木を避け、伸びた草をかきわけ走る、

 川を泳いで渡る、

 茂みをバサバサ踏み潰しながら駆け抜ける。

 


 かなりの距離に達し、


「はぁはぁはあ~…」と息を切らした後、大声で!


「狂った原始人スフィアめ! 今度、会ったら首を切り落とす!」


 周りを確認もしてなかったサラマンドの近くに!


 レナ国の兵が10名いた!


「お前は誰だ!?」

「アナの将だな!?」


 その一瞬! 先手、電光石火で切り掛かったサラマンドの『ステラジアン』が、

 レナの精鋭兵4人の首を落とす。




「ひ!!」


 その衝撃的な光景に、タヌキのオブジェの付いた白い兜を被り、マントと銀の鎧を着けた若い女は腰が抜けた。


 精鋭兵5人が、タヌキのオブジェ兜の女を守るために前に立ち、


「ミスティ様! お逃げください!」


 タヌキ兜の女は、


「腰が…腰がぁぁ…」


 背を向け逃げようとするが、腰が抜けて、なかなか進まない。


 サラマンドは、逃げようとするタヌキ兜の女のマントに『レナおうけの うつくしきばら ミスティ』と、たどたどしく書かれているのを見て、


「王家の女か? まだ10代半ばくらいか? 一門とはいえ…自分で自分のマントに汚い字で、こんな恥ずかしい事を書く女まで将にするとはレナ国も落ちるところまで落ちたもんだ…」


 直後、カーン、カーン、カーンと5人の兵とサラマンドは剣を重ね合う。



 5分後、


 サラマンドは新たに増えた5つの死体を他所に、輝く『ステラジアン』を見つめ、


「これ凄いな…さて…お次は…」


 ずっと震えて見ていたタヌキ兜の女は、

 命乞いせず覚悟を決め、剣を構え、襲い掛かる、


「すわりゃああぁ!!」


 サラマンドは向かってくる剣をステラジアンで軽く弾き飛ばした。

 丸腰のタヌキ兜女は強く睨みながら、

「ぐっくそ! ころせ!」


 サラマンドは、ガチっと首をワシ摑みにして持ち上げる…

 タヌキ兜の女は苦しそうに…


「いきがぁぁぐぅががぁぁ…ぁ…」


「レナ王家の女め、今、俺を監視する者もいない、だからお前は人質にもしない、これからたっぷりと心身とも痛めつけてなぶり殺してやる」


「げどう…ぅぅが」


「あの狂ったガキは闘争とか言ってたが、戦争で大事なのは残虐性よ」



  ≪ そこまで ≫



「なっ?」


 サラマンドが後ろを振り向くと、顏と体中、血だらけのスフィアがいた。


 驚きの目で、問う。


「おまえ? どうして?」


「なにがだよ?」


「その血は?」


「お前の兵を殺してきた」


「なっっなんだと?」


「お前の言う通り雑兵だった。 30人ほど殺したら逃げ出した愚か者共だったよ」


「…なぜここに? 辿り着けた?」


 ≪アホ― アホ―》


 上空にカラスが飛んでいる。


「カラスが案内してくれた。 追って殺すのをお前にするか、雑兵共にするか迷ったけど…お前にした」


「なぜ? こっちは俺一人だぞ。 あっちはたくさんだ?」


「そのステラジアンもあるし、お前の方がまだ強そうだし…」


 サラマンドはポイっと、タヌキ兜の女を投げた。


「うわ!」

 と腰を打ったタヌキ兜の女は、腰をさすりながらスフィアに!



「逃げて! 原始人! ころされるわ!」



 サラマンドは覚悟を決めたように…


「名前を聞いてなかったな?」


「スフィア」


「スフィアか? その年で精鋭200だと? 大馬おおうまを投げ飛ばすだと? …いずれ、とてつもない存在になるだろうな」


 聖剣『ステラジアン』を構え、


「正直、勝てる気がしねえ…」


「ここで確実に死ぬんだ、武人ならせめて戦って死ね」


 促されるように! サラマンドはスフィアの首に高速の一撃を!


 しかし、12歳のスフィアはその一瞬の軌道を冷静に見切って避け、剣を持つ手を摑み、手首と肘関節を極めながらサラマンドを押し倒した。 極められたままの右手から剣は離れ、仰向けにされたサラマンドの首にぐっと強く…スフィアの右前腕が入っている。


「息が? が…」


「弱いな人間って? それに、とても醜い…しね」


「やめっ・・・ぉ  ・・  ・  ・    ・



 サラマンドは絶命した。

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