3話 スフィア編ー 人間


 人間の声が聞こえる…


「犬が5匹もいる!」


「肉が喰えるぅ!」


「火を起こせ!」


 ≪ガルルル! バゥ!≫


「痛っ! ちっ」


 ズバ!


≪ キャン! ≫

 

「人様に噛み付きやがったぞ! この犬! この犬のせいで他の犬に逃げられちまった!」


 バコと音が聞こえた。


 スフィアの頭の上のカラスは、


「アホ…」


 切ない鳴き声を。

 スフィアは、落ち着いた表情で、


「悲しむな…犬は家族を守るために立派に闘った… それに闘い敗れ喰われるのは悪くない最期だ」


 また声が聞こえた。


「うお! 蛇だ! うじゃうじゃいやがる!」


「毒蛇かもしれん! 火を付けろ! ゆっくり眠れんわ!」


 すぐに、煙が上がり始めた、


 カラスは切ない表情で、


「アッホ~…」


 スフィアはコメカミに血管を浮かばせ、奥歯を噛み締めながら、


「ぐぐ…数も大きさも優位の中、家に火を放つだと…? なんという卑劣」



 また声が聞こえる。


「剣が落ちてたぞ!!」


「錆びた剣だろ?」


「これ凄いぞ…ほら」


「うわ? 奇麗だな? すごいなコレ? 軽くて重い…柄に何か彫ってある『ステラジアン』?…よく知らんが凄いのは分かる」


「俺が拾ったんだ返せよ!」


「分かった分かった」


《何事だ!?》


「サラマンド将軍!?」


《ん? 貸してみろ》


「はい…」


《なんという事だ…これはレナの聖剣だ》


「本当ですか?」


《 赤子を誘拐して消えた、哀れな不老長寿の聖騎士アモンの聖剣 》


ビューン!! ビューン!!! と聞こえ、


《素晴らしい…アモンは聖剣を更なる領域に高めたか? 長年、こもってカスタマイズしていたらしいが》


「サラマンド将軍…返してください…」


《心配するな。 戦が終われば、お前達にもちゃんと俸禄がでるからな》


「そういう問題じゃありません! オレが拾ったんだ! 返してください!」


《貴様! 下っ端のくせ! 口を慎め!》


「いやだ!」

 直後、

 ビューン! 

 …トン

 と音が…


《さすが究極の聖剣『ステラジアン』 この聖剣と俺との相性は最高だ…あ? その雑兵の体も首も、そこの沼にでも捨てておけ》


 雲行きが変わったようだ。


《なんだ? お前たち? 捨てろと言っておるのだ!》


「ふざけるな! アンタに決死隊に選ばれた上に! 仲間を沼に捨てろだと!」


「その剣も仲間が拾ったのに、殺してお前の横取りか!」



《 お前たち…将の俺にお前だと? 雑兵の分際で俺に歯向かう気か?》



「くっ…いまの剣裁き…見えたか?」


「速すぎて見えなかった」



《俺の異名を知っているよな? 『首刈りのサラマンド』》



「歯向かうなんて無理だ…1000以上の首を刈ってきた猛将だし」


《バカかお前は? そこまで小盛りするな3000だよ、さてと、こんな素晴らしい宝も手に入ったし…》


 ヒヒーンと馬の鳴き声がした。


《俺もう帝都に帰るわ》


「俺たちは? 戦はどうするんだ?」


《もう、おまえらと戦なんて馬鹿らしくてできん あ? 将軍には、お前らは少数精鋭で戦するのが怖くなって造反したと伝えておいてやるよ》


「そんな!」


 すぐに、馬のトントントントンと地を踏みしめる音が聞こえた。


「俺たちの犬の肉が!? あの馬ションベンまでかけやがった!」


《ははは、この廃村で200人 仲良く暮らすがよい、オレは帝都に帰って、美味い酒と肉でも喰らうわ。さらばだ》


 馬に乗り去ろうとした猛将サラマンドの前に…


 人間の前に初めてスフィアが立つ。


 その時、12歳。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る