中編
学校の校門が近づいてきた。
「おい!見ろよ!『学校の女神』がいるぞ!」
健人が見る先を見てみると、そこには一人の女子生徒がいた。彼女の名前は水谷亜美。サラサラして黒く照り輝いた髪の毛、スッとした鼻に二重のパッチリとした目、さらにそのスタイルの良さに誰にでも気さくに話しかけるその性格が彼女を女神たらしめている。
「ああ、水谷さんか」
「おいおい、鳴海、お前彼女を見て何とも思わないのか?」
「いや、可愛いとは思うぞ」
「違う違う、彼女にしたいとか、連絡先欲しいとか、キスしたいとか」
「いや、思わないな」
「何で?」
「俺なんかが無理っていう感じの諦めかな。俺なんか顔も良くないし、運動神経も普通、頭も良いとは言えないしコミュ力も高くない、性格も良いとは言えない。こんな俺と連絡先を交換したりするんだったら他のもっと良い男と交換した方が水谷さんにとっても良いと思うし、まずその前に、俺と水谷さんが関わる機会がない。」
「まあ、そうだけど。そこまで自分を卑下することは無いんじゃね?」
「自分に期待して裏切られる方が辛いだろ」
「まあ、お前がそう思っているのならなんとも言わんが」
「そうしとけそうしとけ」
「しっかし女神様は恋人の一人や二人いるのかなねー。全然そういう噂聞かないわ。鳴海は何か知らないか?」
「お前の方が情報通なのに、そのお前で知らないなら俺が知るわけないだろ」
「それもそうか。ごめんごめん!」
いつも通り、そんなに重要じゃないことを延々と話している。この日常が心地いい。
「健人、鳴海、おはよう」
「優香先輩!おはようございます!」
「おはようございます」
俺たちに挨拶してきたのは中学校の時からの俺たちの先輩である竹内優香先輩だ。彼女もまたその可愛いというより美しい容姿で人気だ。
「おっす!健人!」
「おはよー!健人君!」
「おお!みんなおはよう!」
見ての通り健人は人気者だ。なんだかんだ言って学年で5本の指に入るぐらい人気がある。だから朝の登校の時間にはみんな健人と挨拶を交わしたりしている。俺と挨拶を交わそうとする人はほとんどいない。なので俺は健人が挨拶しているうちにコソコソと教室へ向かう。
「おっ!鳴海君おっはよー!」
彼女の名前は渡辺裕子。身長も低く、その元気な性格が小動物みたいで可愛いと学校の一部で人気だ。こんな俺にも気さくに話しかけてくれる。
「おはよう」
いつも通り挨拶をして自分の席へ向かう。
「朝のSTを始めます」
そして、学校が始まる。
★☆★☆★
「これで帰りのSTを終わります。皆さん、さようなら」
こうして今日も学校が終わった。
「ねえねえ、放課後どうする?」
「カラオケ行かない?」
「行く行く!」
「早く部活行こーぜー!」
「あとちょっとだから待てよ!」
みんな放課後に何をするか話している。こいつらは人生を楽しんでいるんだろう。彼らには彼らなりの物語があって、その主人公が自分だとでも思っているのだろう。
「あっ、村上君」
「何ですか?先生」
「今時間空いてる?もう一人の美化委員会の椎名花梨さんが部活動の活動があって仕事の手伝いをしてもらえなくて、村上君にお願いできないかな?」
椎名花梨とはうちの学校の陸上部のエース。県大会の常連で、今年こそは全国大会に行けるかとみんなから期待されている。
「そういうことですか。自分で良ければいいですよ」
「ありがとう」
「じゃあ先生について来て。今から多目的ホールのワックスがけをするから」
マジか。一人でいいって言ってたから結構楽な仕事だと思っていたけど、ワックスがけって言ったら結構時間がかかるしきついし。手伝うって言ったからもう断れないし。
「了解です。ちゃっちゃと終わらせちゃいましょう」
なので俺は二つ返事でその仕事を引き受けた。早く終わりますようにと、心の中で祈りながら。
☆★☆★☆
「よし、これでラスト」
「終わりー!ありがとね、村上君」
「いえいえ、どういたしまして」
ワックスがけにはかなり時間がかかり、もう日はほとんど沈んで辺は薄暗くなっている。さらに運の悪いことに雨も降ってきてしまっている。
「もう暗くなってきたから早く帰りな。こんな時間まで付き合わせてごめんね」
「どうせ暇だったんで。じゃあ今度のテストの俺の点数5点ぐらい上げといてください」
「そんなことしないからな」
「冗談ですよ、冗談」
「はいはい。分かったから早く帰れ」
「あっ、自分、教室に置き傘が置いてあるのでそれを取りに行ってから帰ります。先生、さようなら」
「分かった分かった。さようなら」
そう言って俺は先生に背を向けて走り出した。早く取りに行って早く帰らなければいけない。今日健人に聞いた話を思い出し、そんな焦燥に駆られて。
教室に行って室内に誰もいないことを確認し、安心して自分の机へ向かう。机の左側にかかっている折りたたみ傘を手に持つ。
「ねえ」
そんな俺の背後で女の人の声が響く。
金縛りにあったような、恐怖で体が動かない。冷や汗が額をつたる。
「ねえ、こっち向いて」
覚悟を決め手をグッとにぎり、恐る恐る振り向くとそこには不気味な『何か』…
ではなく学年の女神がいた。
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