第2話 持つべき物は悪友

「そんなに落ち込むなって」

月曜日の朝、机に突っ伏している僕に

前の席の高橋君が話しかけてくる。

「誰だって人生一度は失恋するもんさ。今のうちにに経験出来て良かったじゃないか。」

「…はあ」

「そうため息ばっかつくなって、いいじゃねーか。お前には嫁がいるんだから。」

「………」

こりゃ重症だな、と高橋。

今の僕には冗談につっこむ元気はない。

「だいたいお前、告白して振られたとかじゃないんだろ?玉砕覚悟で告白すりゃいいのによ。」

「あきと君、悟君どうしたの?」 

高橋に声をかけたのは、花沢あかり。

高橋の彼女らしい。僕と高橋が仲良くなったことで自然と話すようになった。

「失恋したらしいんだよ、こいつが」

「え?失恋って、篠原さんに振られたの?」

「振られたというか、どうも篠原さんに彼氏ができたらしい。」

「…………は?彼氏?え?」

「隣のクラスの柳沢らしいぞ、噂の彼氏君は」

「……それ誰から聞いた?」

「俺は部活の後輩から聞いた。学年を超えて噂されるって凄いよな。」

「そうなんだ…。悟君。」

耳もとで声がした。僕が顔を上げると、花沢の顔が目の前にあった。

一瞬、ドキッとした。

花沢あかりは美人である。

女子にしては背が高く、キリッとした顔つきに、若干だが鋭い目つき。綺麗な黒髪を短く切っており、その黒髪に乗ったヘアピンが彼女の美しさを際立たせていた。

誰が見ても美人である彼女だが、


「悟。多分だけど柳沢君が振られてても、悟にはチャンスはなかったと思うよ。だからあんまり落ち込まないで。」


と今のように言動に少し不思議なところがあり、たまにだが殺意が芽生える。


「もうホームルームだ。2人ともバイバイ」


自分の席に戻る花沢を、黙って見送る。


「…あかりがすまんな」

「………」

「まあ、いつまでもくよくよするなってのは、俺も同意見だけどな。」

「………」

「あーーー!もう!めんどくさいなーもう!

なんだよお前どうした?そんなにショックだったのか?ご縁がなかったんだよきっと。

ほら、紹介してやるから、な?

こう見えて俺も結構モテるからな。

俺主催でお前の為に合コン開いてやっから」

「彼女は、違うと思ったんだ」

「…え?」

僕が吐き出すように言うと、高橋は変な声を出した。

なんだよ、喋って欲しいんじゃなかったのかよ。

「彼女は、間違っても柳沢みたいな、ゴミみたいな奴を好きになったりしないと思ったんだ。」

「ゴミってお前…」

「違うか?」

高橋が黙る。柳沢悠人は、悪い意味で有名なのだ。甘いルックスを持ち、部活が始まってまだ三週間もたたないうちにサッカー部のレギュラーメンバーになった彼は、校内一のイケメンとしてその名を轟かしていた。

しかし、同じ中学だった高橋は彼の本性を知っていた。彼は超がつくクズだった。

嫌いな奴がいると学校に来なくなるまでいじめ、好きな女子ができると脅迫してでも自分の物にしようとしていたらしい。

「あいつは猫かぶるのが得意なんだよ。

篠原だって気付てないんだろ。あいつの本性に。しょうがないだろうが…」

「わかってるよそんな事。」

「じゃあ何がそんなに気に食わないんだ?」

僕は前を見る。彼女、篠原かえでがいるであろう教室の方を。


「付き合って欲しくなかったんだ。」


僕は、そういった。














「しょうがねーなー。あんまり教えたくなかったんだが…」



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