第13 第四章 攻防マキシム星系 (2)
第四章 攻防マキシム星系
(2)
マキシム星系内ルテル星系方面跳躍点から一隻の哨戒艦が現れ、パッシブモードで星系内をスイープし始めると同時に、おびただしい数の艦艇が跳躍点から現れた。ホタル哨戒艦一九二隻に続き、ヘルメース級航宙駆逐艦一九二隻、ワイナー級航宙軽巡航艦一二八隻、アテナ級航宙重巡航艦六四隻、ポセイドン級航宙巡航戦艦四八隻、これらに守られるようにタイタン級高速補給艦二四隻、輸送艦三〇隻、工作艦三〇隻、特設艦二四隻、そして一際大型の艦艇が現れた。アルテミス級航宙母艦三二隻、アガメムノン級航宙戦艦三二隻のプロキシマ星系航宙軍第八艦隊だ。それに続いて同数の第九艦隊が現れた。総勢一五九二隻である。
「レーダー管制、アクティブ型誘導機雷無いか」
「ありません」
「ウォルフ星系が設置した監視衛星無いか」
「あります。伴星アルファ方向四元に有ります」
「敵艦隊の位置は」
「恒星マキシムよりプロキシマ星系方面跳躍点の中間に二個艦隊が布陣しています」
「軽巡航艦の主砲で監視衛星を破壊しろ」
「はっ」
第九艦隊司令官でルテル星系防衛艦隊の総司令官であるリュー・ジェイソン中将は、レーダー管制官からの情報に指示を出した。
「敵艦隊は、我々が来ることを考えていなかったのだろうか」
第八艦隊カール・ゴードン中将の跳躍点に入る前の言葉を思い出しながら、その言葉を聞いたジェイソンは、
「ウォルフ星系の目的は、マキシム星系の領有にあるのだろう。その為には、我プロキシマ星系軍と対峙しなければならない。我々は、シリウス星系軍のことも有り、ルテル星系を離れることがないと考えたのかもしれない。いずれにしろ、我々にとっては好都合だ。監視衛星からの連絡が途絶えて我々が来たことは、もうすぐわかるだろう。敵との戦闘になる前に第三艦隊、第四艦隊の居場所をしり、第三艦隊キャンベル中将と連絡を取りたい。哨戒艦を伴星アルファ、マキシム恒星、伴星アルファ方向に進宙させて調べることにしよう」
「輸送艦隊が監視衛星に捉えられていないだと」
ウォルフ星系軍マキシム星系攻略部隊第二艦隊司令官アドリアン・コンサドール中将は、第二艦隊旗艦ゲンゾール艦長ベッサーノ・コチェレート大佐を通して通信管制官からの報告を聞くと、自分に怒る様に怒鳴った。
「どういう事だ」
3D映像に映る第三艦隊司令官グルゾラ・ボルノスコフ少将に聞くと
「分かりません。予定では既にマキシム星系内に入り、通信が入っているはずですが、ルテル星系方面跳躍点に置いた監視衛星から星系内に到着した連絡が入っていません」
「何かの理由で遅れているのだろう。先のプロキシマ星系軍との戦闘の後の補給で、補給物資も五割を切っている。ここは、・・・」
「コンサドール総司令官、緊急情報です。監視衛星からの通信が途絶えました」
「コンサドール総司令官、ルテル星系方面跳躍点から艦隊が出現しました。質量換算のみですが、二個艦隊相当です」
話の途中で、通信管制官とレーダー管制官から入った情報にコンサドール中将とボルノスコフ少将は、言葉を一瞬失った。
「何だと。どこの艦隊だ。輸送艦隊ではないのか」
「まだ、五光時ある為、光学レーダーでは、捉えられません」
「ボルノスコフ少将、跳躍点に現れた艦隊が、プロキシマ星系なのか、シリウス星系なのか、分からないが、ここは、跳躍点方面に向けて進駐し、戦闘隊形を取ることにする。進宙位置は、ここだ」
コンサドール中将は、ボルノスコフ少将の3Dと自分の前にある球体レーダーの伴星アルファとマキシム恒星の中間点を示した。
マキシム星系は、恒星を公転する三つの惑星とその外側を取り巻く小惑星帯がある。そしてこの小惑星帯とカイパーベルトの間に広大な宙域があり、その宙域にマキシム恒星を挟んで伴星アルファと伴星ベータが、非常にゆっくりとした自転で位置している。コンサドール中将の示した位置は、この小惑星帯と伴星アルファの中間点だった。
「ここの位置ならば、現れた艦隊がプロキシマ星系軍で有っても我が軍の両脇に展開出来ない。我が軍は、プロキシマ星系軍に対して二個艦隊の重深陣で臨む。重深陣は、個々の艦隊を構成する一〇分艦隊で五つの陣営を構成する。二個艦隊で一〇の陣営構成となる。一つの陣営で砲火を集中させた後、すぐに後方に回り補給を受ける。その間に次の陣営が前に出て、敵艦隊に砲火を集中する。敵艦隊には休む暇も与えずに攻撃することが出来る」
コンサドール中将の説明に、これならば勝ちはしないが、損害も少なく、次の戦術に展開していけると考えたボルノスコフ少将は、
「総司令官、了解しました。艦隊を一八〇度回頭し、標準戦闘隊形で伴星アルファとマキシム恒星の間まで進駐し、重深陣隊形に変更します」
「補給艦は、一分艦隊を付け、後方に布陣させておけ」
「はっ」
ウォルフ星系航宙軍式敬礼を行ったボルノスコフ少将は、3D映像から消えた。
マキシム星系内ルテル星系方面跳躍点に現れたプロキシマ星系軍第八艦隊と第九艦隊は、跳躍点付近に敷設された監視衛星を破壊すると哨戒艦をマキシム星系内に展開した。
第八艦隊司令官ゴードン中将は、
「ジェイソン、哨戒艦からの報告でウォルフ星系軍は、伴星アルファとマキシム恒星の間に布陣するようだ。どう思う」
「ゴードン総司令官。敵は重深陣を敷いて、負けない戦闘の中で機を見て、新たな戦術を考えているのかもしれない」
「新たな戦術」
「重心陣を引けば、我が軍からは、ウォルフ星系軍全体が見えない。我々が、ウォルフ星系軍と対峙している間に、我が軍の後背に艦隊を展開し、挟み撃ちにするという事が考えられる。もしくは、シリウス星系軍か、自軍の増援を待つとも考えられる」
第九艦隊司令官ジェイソン中将の考えに、手を顎に持って行って擦るようにして考えると
「なるほど、確かに一理ある。それを我が軍が使わせてもらおう。ウォルフ星系軍正面には我第八艦隊だけで進宙する。但し二個艦隊がいるように見せかけるため、レーダーを欺瞞するダミー艦を展開させよう。そして用心している振りを見せながらカイパーベルトの内側までゆっくりと進宙する。その間にジェイソン中将の第九艦隊は、カイパーベルトの外側を時計方向に周り、伴星アルファの影を利用してウォルフ星系軍の後背に布陣してくれ。それを合図に第八艦隊は、ウォルフ星系軍に第一級戦闘隊形のまま全速で突進し、攻撃を仕掛ける。ウォルフ星系軍が第八艦隊と交戦を始めた段階で、第九艦隊は敵艦隊の後背から攻撃をしかけてくれ。彼らが布陣した宙域は、展開するのも大変だろう。更にウォルフ星系軍が、交戦が不利と誘った段階で、伴星ベータ方向を少し開ける。退路がある様に見せかける。その正面に先の戦闘で疲弊したとはいえ、まだ一個艦隊以上の戦力を有している第三艦隊と第四艦隊を突入させる。ウォルフ星系軍は、前後左右に逃げ場がない。完全に殲滅させることが出来るだろう」
それを聞いたジェイソン中将は、
「第三艦隊マイク・キャンベル中将と連絡が取れたのか」
「ああ、先程、哨戒艦から連絡が入った。ガイル・アッテンボロー中将も健在だ。二人には、この後、この作戦を説明しよう。」
ゴードン中将の説明にジェイソンは、目の前の3Dに映る男の経歴を改めて思い出した。
第八艦隊はルテル星系方面跳躍点からカイパーベルトまでの二光時、通常二〇時間で進宙できる距離を三五時間かけて進宙した。ダミー戦闘艦を配置しながら、如何にも左右後方を気にしながら恐る恐る進んでいる様にだ。
ウォルフ星系軍第二艦隊アドリアン・コンサドール中将は、第二艦隊旗艦ゲンゾール艦長ベッサーノ・コチェレート大佐にスコープビジョンに映る、プロキシマ星系軍の進宙の姿に
「艦長、プロキシマ星系軍と言うのは、噂では、強力な軍隊と聞いていたが、いやはや、あの姿は、まるで赤子が、ハイハイしながら来るようなものだ。先の戦闘も不甲斐ないと思ったが、今回は、策を弄せずに一挙に正面から敵艦隊を潰してしまおう」
総司令官の言葉に一筋の不安を思いながらも、艦長が総司令官の方針に口出すことはない。俺の仕事はあくまで、この第二艦隊旗艦ゲンゾールの操艦だ。そう考えて、敢えて総司令官席の方は振り向かずにいた。
プロキシマ星系軍がカイパーベルトを超えると
「総司令官、敵艦隊、カイパーベルトを超えました」
スコープビジョンの光学映像が徐々に鮮明になってくると
「総司令官、正面敵艦隊は一個艦隊。後はダミー戦闘艦です」
レーダー管制官の言葉にコンサドールは、スコープビジョンに集中すると
「騙された」
この言葉と同時に
「ミサイル来ます」
プロキシマ星系軍は、カイパーベルトを超える直前、一隻当たり二〇発の中距離ミサイルを装備する航宙重巡航艦六四隻と同じ装備を持つ軽巡航艦六四隻から二五六〇発のミサイルを、時間差を置いて二度発射した。目標は固定宙域の為、単純な飛行経路で飛んで行った。
「アンチミサイル発射、アンチミサイル網レーダー網射出」
この言葉は少し遅かった。正面に布陣する航宙駆逐艦に中距離ミサイルが当ると全長二五〇メートル、全幅、全高五〇メートルの航宙駆逐艦に巨大な穴が開いた。運悪く核融合エンジンを直撃された艦は、その場で爆発し、一瞬にしてデブリと化した。航宙駆逐艦だけではない。航宙軽巡航艦、航宙重巡航艦も同様の被害が出ていた。
「ミサイル第二射来ます」
今度は、アンチミサイルとパルスレーザー砲で防げたが、重深陣を敷いていた為、前方に配置していた艦に被害が出た。この状況にウォルフ星系軍総司令官コンサドール中将は、
「前面に配置していた艦を後退させろ。第二陣を前に出して応戦するんだ」
この時であった。最初に前方に布陣していた、第一陣を両脇から後方に下らせて第二陣を前に出し、攻撃しようしていたウォルフ星系軍に、プロキシマ星系軍第八艦隊から発射された荷電粒子エネルギーが殺到した。
下ろうとしていた第一陣と前に出ようとした第二陣は、主砲を撃てないままに荷電粒子エネルギーを浴びた。
全艦が前方にシールドを展開しているとはいえ、駆逐艦、軽巡航艦のシールドでは、重巡航艦以上の主砲から放たれた荷電粒子エネルギーは受け止めることが出来ず、発砲スチロールに真っ赤に焼けた鉄の棒を突き刺すように艦中央を突き抜けると、そのまま爆発し一瞬にしてデブリと化した。乗員は痛みを感じることもなく消えて行った。
「プロキシマ星系軍、来ます」
「こちらも応戦しろ。全重深陣を上方向に展開、全砲門を敵艦隊に向けて撃て」
ウォルフ星系軍は一〇段に及ぶ重深陣を敷き、プロキシマ星系軍に対峙して来た。その各分艦隊を階段状に上に展開したのであった。これは第八艦隊ゴードン中将も予想していなかった。縦の厚みを持つ荷電粒子エネルギーが正面から殺到した。
前面に展開する航宙駆逐艦、航宙軽巡航艦は言うに及ばず、左右後方に展開している航宙巡航戦艦、航宙母艦までが攻撃を受けた。
正面だけでなく、上からの攻撃に第八艦隊は、主砲を上に向ける時間もなく攻撃を少なからず被害を出した。
「強襲を食らって、一時混乱したが、こちらは二個艦隊、向こうは一個艦隊。今までの損失を晴らしてくれる」
ウォルフ星系軍も前進を開始した時であった。
「我が軍後背に敵艦隊出現、一個艦隊です」
「何。どこに居たのだ」
コンサドールは、スコープビジョン後方に映る巨大な伴星アルファを見ると
「こいつの影か」
独り言の様に言うと
「ボルノスコフ少将。補給艦を艦隊の内側に入れて補給艦を防御する体制にしろ」
「後方に艦影」
「高エネルギー波、後方より来ます」
レーダー管制官と攻撃管制官のほぼ同時の報告が終わる直前に、プロキシマ星系第九艦隊ヘルメース級航宙駆逐艦一九二隻、ワイナー級航宙軽巡航艦一二八隻、アテナ級航宙重巡航艦六四隻、ポセイドン級航宙巡航戦艦四八隻、アルテミス級航宙母艦三二隻、アガメムノン級航宙戦艦三二隻から放たれた荷電粒子エネルギーが、ウォルフ星系第二艦隊と第三艦隊が敷いた、階段状一〇段に及ぶ分艦隊のそれぞれの後方に殺到した。
ウォルフ星系軍は、前面にシールドを集中したため、後方は、全くの無防備で有った。更に後方に下らせていた補給艦隊を一撃で殲滅させた。
「第三艦隊補給部隊全滅です」
ボルノスコフ少将は、握りしめた手から暖かいものが滴るのを感じた。敵が一個艦隊だと分かった時点で後背にも監視を強化すればよかったのだ。頭の中でコンサドール中将の失態を恨みながらも前方の艦隊の攻撃に集中していた時で有った。
司令官席に座っていたボルノスコフ中将の体が、一瞬浮いたと思った瞬間、思い切り右横の壁に体がぶつけられ、そのまま意識を失った。意識を失う瞬間、見えるはずのない第三艦隊旗艦ヤブラキの艦体が膨らみ爆発するのを見た気がした。
「第三艦隊旗艦ヤブラキル轟沈」
「何だと」
レーダー管制官からの報告に司令官デスクいっぱいに広がるスクリーンから艦隊状況を表すパネルにタッチすると旗艦ヤブラキルは、ロストの文字のみが映し出されていた。
「第三艦隊、被害甚大。第一〇分艦隊、第九分艦隊、第八分艦隊と連絡が取れません」
ウォルフ星系軍は、一艦隊を一〇分艦隊に分け、二分艦隊を一陣として二個艦隊で一〇陣の重深陣を敷いていたが、プロキシマ星系第八艦隊の猛攻に全陣形が前方攻撃出来るように、階段状に最後方を最上段にする陣形に替えていた。
そこをプロキシマ星系第九艦隊は、下から上に主砲を向ける隊形で砲火を集中した。結果として、二〇に及ぶ分艦隊の後方に配置している航宙戦艦、航宙母艦、航宙巡航戦艦などの核融合エンジンを狙い撃ちすることになった。例え航宙戦艦でも後部推進ノズル部分から核融合炉に通じる部分は、ほぼ無防備であり、ここを狙われたら、航宙駆逐艦のレールキャノンの一斉射で撃破される。
「第三艦隊第七分艦隊、第六分艦隊連絡途絶」
「第二艦隊第一〇分艦隊連絡途絶」
あまりの被害に言葉を失ってコンサドール中将に第二艦隊旗艦長ゲンゾール大佐は、
「総司令官、このままでは全滅です。司令を」
この時、プロキシマ星系第八艦隊の右翼の陣形が乱れ、穴が開き始めていた。
「敵右翼に退路」
レーダー管制官と航法管制官からの連絡にゲンゾール大佐は、コンサドール中将に向かって、
「総司令官」
とやや怒鳴るような言葉に、
「全艦、敵艦隊右翼に砲火を集中し、突破しろ」
コンサドール中将の言葉に艦数を六割近くに減らされたウォルフ星系軍が、敵右翼に向けて、突進した。
スコープビジョンに映し出されたウォルフ艦隊の行動を見ながらプロキシマ星系軍第八艦隊ゴードン中将は
「ジェイソン中将、ウォルフ星系軍は、罠にかかった。我々は、陣形を整え少し時間を置く。第三艦隊、第四艦隊が伴星ベータの陰から出現し、ウォルフ星系軍に攻撃を仕掛けた段階で、我々も全速で進宙し、ウォルフ星系軍の後背を突く。今の間にミサイル、エネルギーの補充を済ませてくれ」
「分かった」
第九艦隊司令官ジェイソン中将は、3D映像からゴードン総司令官の姿が消えると、今度の戦いは、後背を突くばかりだ。おかげで我艦隊の被害は、ほとんどない。良い事だが、報奨は、ゴードン総司令官だけだな。そう考えると、ヘッドセットからマイクを口元に持って来て
「全艦に告げる。第九艦隊司令官ジェイソン中将だ。全艦、ミサイル、エネルギーの補給を至急行うように。命令あり次第、戦闘を再開する」
ジェイソンの命令で分艦隊毎に補給艦隊に向けて移動を開始し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます