第12 第四章 攻防マキシム星系 (1)
第四章 攻防マキシム星系
(1)
ルテル星系でシリウス星系軍と交戦した第三艦隊、第四艦隊と入れ替えるようにルテル星系に来た、第八艦隊司令官マキシム星系防御隊長カール・ゴードン中将と第九艦隊司令官マキシム星系防御隊リュー・ジェイソン中将は、マキシム星系の第三艦隊マイケル・キャンベル中将からの連絡に言葉を失っていた。
「第三艦隊と第四艦隊がマキシム星系でウォルフ星系軍と交戦して敗れただと。だからあの時言ったのだ。我々がマキシム星系を守っていた方が安全だと。しかし情けない。何をやっているんだ。あの連中は」
声を荒げるジェイソン中将に
「冷静になれ。ウォルフ星系軍は、ここルテル星系を通らねばマキシム星系に行けなかったはずだ。我々の哨戒艦のレーダー網には一切掛からなかったぞ。この星系のウォルフ星系方面跳躍点には有人監視衛星の他、常時我艦隊の哨戒艦が目を光らせていた。それをすり抜けてこの星系の外縁部大きく迂回してマキシム星系に行ったとすると、ルテル星系でも同じことになっていたのかも知れん」
ゴードン中将の言葉に
「やつらはこの星系に入る前からステルスモードにしたのか。信じられない」
ステルスモードは、光学色彩やレーダー反射は元より熱量、質量や重力波異常など色々な走査から姿を隠す為、戦闘艦から発生する諸々の人口的、物理的な存在を示す印を全て消す。どのような方法でルテル星系の全方位に敷いた監視体制を通り過ごしたのかジェイソン中将は信じられない面持ちでいた。
「ジェイソン。とにかくこのままにするわけにはいくまい。プロキシマ星系まで行くことはないにしろ、プロキシマ星系方面跳躍点付近を押さえられたら、大変なことになる。我々もマキシム星系に向かい、ウォルフ星系軍を追いだす必要がある」
「しかし、ゴードン。シリウス星系はどうする。我々がこの星系からマキシム星系に行けば、やつらが、ここに来るかもしれないぞ。ルテル星系航宙軍だけでは、とても対抗出来まい。それにマキシム星系から追い出すと言っても、やつらはこの星系を通らなければウォルフ星系に戻れない」
「なあにここまで追いかけて来て、やつらの星系に追い出せば良いさ。シリウス星系軍は、あれだけの損害をこうむったのだ。プロキシマ外務省情報部からの報告では、再攻勢をかけるまで後三ヶ月は必要だと聞いている」
ゴードン中将の言葉に少し考えた後、ジェイソン中将は頷くと
「分かった。シリウス星系方面跳躍点とウォルフ星系方面跳躍点の監視強化をルテル星系航宙軍に任せて、我々はマキシム星系に行こう。仲間を助けにな。だが、今マキシム星系がどのようになっているか分からない。第三艦隊、第四艦隊が四散し、ウォルフ星系軍が恒星付近宙域とプロキシマ星系方面跳躍点付近を抑えていることを前提に動くとしよう。アレンバーグ総参謀長閣下とヘンセン作戦本部長閣下には、私の方から意見として具申する。却下されることはないだろう。すぐにマキシム星系に向かう準備をしてくれ」
「分かった」
ジェイソンは、プロキシマ星系航宙軍式敬礼をすると3Dの映像から消えた。
カール・ゴードン中将もリュー・ジェイソン中将も経験豊富な軍人ではあったが、猪突猛進な人間ではない。じっくりと戦術を考える戦術家で有った。
マキシム星系がウォルフ星系軍に落ちたことは、プロキシマ星系やマキシム星系に跳躍点を持つエリダヌス星系を驚愕させた。
エリダヌス星系外務大臣エンゲージ・シドニーは、エリダヌス星系政府代表レイモン・ダイヤビーズの執務室に他の要人と共に集まっていた。
「ダイヤビーズ代表、我星系からもすぐにマキシム星系に跳躍し、我星系方面の跳躍点の
防御に当たるべきです」
「シドニー外務大臣、ウォルフ星系と我星系との間には、敵対関係になる要素は何もない。
ここは下手に軍を動かさず、様子を見た方が良いのではないか」
「アイランド内務大臣、そのような流暢な事を言って、マキシム星系から我が星系に攻め込まれたら如何しますか。既に先の戦闘では、我星系はプロキシマ星系に付くことに決め、
マキシム星系まで出動したではないか。マリアテレーゼ王女を通じてプロキシマ王からも協力依頼の親書を貰い、我星系も快諾したではないか」
「あの時はあの時です。情勢は常に動くものです。時世を見ずに軽率な動きをしては、我星系の命運も動かすことになりかねません。ここは状況を見るべきです」
「しかし、それでは、今後プロキシマ星系から裏切りの汚名を着せられるかもしれませぞ」
「その時は、その時の方便もあるでしょう」
「方便だと・・」
シドニーは、アイランド内務大臣のあまりにも及び腰、いやこれは意図的な出撃停止工作と分かる態度に、はらわたが煮える思いを隠しながら、次の発言をしようとした時であった。
「シドニー外務大臣、アイランド内務大臣。二人の主張それぞれに理解できる。・・シドニー外務大臣の言葉に聞き入れる事多いが、アイルランド内務大臣のように、ここは悪戯に軍を動かさず、状況を見極めてから動くのが、我星系にとって得策ではないだろうか」
「しかし、レイン副代表・・」
シドニーの言葉を切る様にレイン副代表は
「ここは皆さんの意思で結論を出すと言う事でどうでしょう」
内務大臣カート・アイランド、副代表カトレア・レインの他、複数の評議員が、出動反対側に回った為、エリダヌス星系は、自星系内マキシム星系方面跳躍点付近のみ、監視を強化することで、マキシム星系の軍を出動させることは、出来なかった。
マキシム星系でウォルフ星系に後背を突かれ、壊滅的な打撃を被ったマイケル・キャンベル中将率いるプロキシマ星系第三艦隊とガイル・アッテンボロー率いる第四艦隊は、マキシマ星系内伴星ベータのマキシマ恒星の反対側で、集結しつつあった。
「アッテンボロー中将、被害艦の状況収集は出来たか」
「キャンベル中将、戦闘艦の喪失は三割に留まりましたが、後背を突かれたため、補給艦、工作艦の被害が七割に達しています。艦の修復どころか、食事もままならない状況です」
「そうか、我第三艦隊も戦闘艦の四割を失い、補給艦、工作艦は八割を失った。状況は同じだ。既にプロキシマ本星には、救援を依頼している。ウォルフ星系軍は、伴星アルファとプロキシマ恒星の間に布陣してプロキシマ星系方面跳躍点に進宙する構えを見せている。こちらに来ることはなかろう。両艦隊の物資、特に食料は、一か月を切っている。兵士には申し訳ないが、切り詰めて、味方が来るまで我慢するよう伝えてくれ」
「食料の件については、既に補給部隊に伝えてあります。ここまではたどり着けましたが、今後の航宙が不可能な艦が、残存艦の三割に達しています。味方を待つにしても、航宙不可能な艦から航宙可能な艦へ乗員を移動させれば、万一、ウォルフ星系軍が来ても対処可能です。補給艦の動きも少なくて済みます。小破の艦は、残存物資で修復可能です。すぐに対応しては、如何でしょうか」
アッテンボロー中将の言葉にキャンベルは、確かにこの男の言う通りだ。本来自分から言うべきことだったが。今は、つまらない感傷より、現状対処が、重要だ。そう思うと
「アッテンボロー中将の言う通りだ。すぐに艦隊内に通達してくれ」
話が終わったと思っていたキャンベルは、アッテンボローが、3D映像から消えない事に不思議な思いで
「アッテンボロー中将、他に何かあるか」
「キャンベル中将、ウォルフ星系軍は、どうやってルテル星系を介してマキシム星系にこれたのでしょうか。ルテル星系には、我星系の第八艦隊、第九艦隊が駐留しています。まさか、あの二艦隊を撃破して無傷のままにここに来れたとは、信じられないのですが」
キャンベルは、一瞬躊躇すると
「確かに。第八艦隊率いるカール・ゴードン中将、第九艦隊率いるリュー・ジェイソン中将は、我星系でも猛将で知られている。ウォルフ星系軍が無傷とは考えられない」
キャンベルの言葉に
「あの二艦隊に気付かれないままに、この星系にくる方法が、ウォルフ星系軍には有るのでしょうか」
「今は、分からないが、いずれ分かる時が来るだろう。今は、艦隊の保全に努めよう」
その言葉にアッテンボローは、プロキシマ星系航宙軍式敬礼をすると3D映像から消えた。
「ボルノスコフ少将、後背から攻撃を仕掛け、補給艦、工作艦を叩いたのは、正解だったな。プロキシマの奴ら、逃げるばかりでろくに交戦もしないで伴星ベータの蔭へ逃げて行った。あの被害なら、我々の後背を脅かすことはなかろう」
「はっ、あれだけの補給艦と工作艦を沈めておけば、万一再度、攻勢に出た場合、補給もままならず、全滅するのは見えています。もう攻撃してくることはないと考えます」
コンサドール中将は、顎を引きながら
「その通りだな。ウォルフ本星には、マキシム星系内のプロキシマ星系軍を撃破したことを連絡済みだ。この後は予定の計画に従い、マキシマ恒星とプロキシマ星系方面跳躍点の間に布陣し、首都星からプロキシマ星系に対して行う交渉を待つとする。我々に対する補給艦は、既にウォルフ星系を出ているはずだ」
「ルテル星系の進宙しているプロキシマ星系軍はいかがいたしますか。後背から攻撃を仕掛けてくることはないでしょうか」
「我軍が、優勢になった段階で、シリウス星系には連絡済みだ。彼の艦隊が動き出した段階で、シリウス星系軍がルテル星系に進宙してプロキシマ星系軍を引き付ける。こちらに来る余裕はないだろう。今のうちに先の戦闘で消耗したミサイル、エネルギーの補充を行っておいてくれ」
「はっ、了解しました」
ボルノスコフ少将の姿が3D映像から消えると、コンサドールは、自艦隊の補給状況を司令官席の前にあるデスクのスクリーンで見ていた」
その頃、ルテル星系に駐留していたカール・ゴードン中将率いるプロキシマ星系第八艦隊とリュー・ジェイソン中将率いる第九艦隊は、ルテル星系内マキシマ星系方面跳躍点から一〇光分の位置にいた。
「ゴードン総司令官、レーダー管制官より報告です。マキシマ星系方面跳躍点より五光分の位置に艦影らしき反応あり」
「艦影らしきとはどういう意味だ」
「はっ、レーダーが跳躍点方向に進宙する艦影を捕えているのですが、スペクトル分析が曖昧で超深度光学レーダーでは、映像が映らない状況です」
「主席参謀、どう思う」
「ステルスモードで進宙しているのではないでしょうか」
「しかし、ステルスモードならば、スペクトル分析でも捉え切れないはずだ」
「理由は、分かりません。正体をはっきりさせる為、五百万キロまで近づき、重力波(グラビトンレーザー)を未確認艦に照射してみてはいかがでしょうか」
「重力波」
ゴードン中将は暗にどういう意味だと問い返すと
「はっ、重力波が当れば、艦影がスペクトル分析され、レーダーに明確に現れます。もし、味方艦であれば識別可能なはずです」
ゴードンは、一瞬だけ考えると
「分かった。すぐに第四分艦隊を向かわせろ」
「はっ」
それから三〇分後、レーダー管制官が、
「コンサドール司令官、ウォルフ星系軍の紋章です」
「全艦、主砲斉射」
重力波(グラビトンレーザー)で艦影を特定し、超深度光学レーダー範囲まで近づいた時、ウォルフ星系軍の紋章を付けた輸送艦二四隻とその護衛の艦軽巡航艦二隻、駆逐艦八隻に対して、プロキシマ星系軍軽巡航艦八隻と駆逐艦二四隻は、一斉に主砲を発射した。ウォルフ星系軍は、輸送艦の航宙速度に合わせている為、プロキシマ星系軍から見れば、ほぼ停止目標を撃つようなものだ。
ウォルフ星系軍は、重力波を受けた段階で、感知されていたことは、分かっていたが、輸送艦を護送しているため、単純に右舷回頭出来ず艦の側弦を晒したままであった。そこにプロキシマ星系軍からの攻撃を受けたのであった。
右側面に布陣していた軽巡航艦一隻と駆逐艦四隻は、一瞬にして右側弦に大穴を開けられ、その場で爆沈した。プロキシマ星系軍の六射に亘る攻撃でウォルフ星系軍輸送艦二四隻全艦が、停止もしくは撃破されたところに、プロキシマ星系軍第八艦隊と第九艦隊の本隊が到着した。
「ゴードン総司令官、レーダーに反応していたのは、ウォルフ星系軍補給艦隊でした。本艦隊を待っているとマキシム星系方面跳躍点に逃げこまれてしまう為、敵艦と判明した段階で撃破しました」
先行させた第四分艦隊司令官ラミック・コンサドール少将の報告に
「コンサドール少将、よくやってくれた。取り逃がしたら、マキシム星系で補給待ちしているウォルフ星系軍を元気づけてしまっただろうからな」
ゴードン総司令官の返答にプロキシマ星系軍の敬礼をしてコンサドール少将の3D映像が消えると
「ジェイソン。隊形を第二級戦闘隊形にして、マキシム星系方面跳躍点に入る。マキシム星系内に入り次第、全攻撃管制システムをオンにして、パッシブモードで星系内をスイープ。ウォルフ星系軍の位置を突き止める。同時にキャンベル中将の第三艦隊とアッテンボロー中将の第四艦隊の位置も探し出す」
「了解したが、もし、マキシム星系跳躍点を抜けた宙域にウォルフ星系軍が布陣して、我々が出てくるのを待っていたら、どの様に対応する」
「相手の布陣次第だが。ウォルフ星系軍も二個艦隊を有している。攻撃に対応しつつ、全艦が跳躍点から出た段階で、一時跳躍点から、プロキシマ星系方面跳躍点とは反対方向に進宙して体制を整え、対応することにしよう」
「では、跳躍点突入前に攻撃管制システムをオンにしておくと言う事にしておいた方が良いのではないか」
ジェイソン中将の言葉に
「そうだな、そうしておくとするか」
少し覇気のないゴードン中将の言葉を気にしながらもジェイソンは、プロキシマ星系航宙軍式敬礼をすると3D映像から消えた。
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