第6話 第二章 嵐の前触れ (2)
第二章 嵐の前触れ
(2)
銀河標準歴GGC三〇四六年七月二五日
一〇日前にシリウス星系を出発した航宙重巡航艦バイアスを旗艦とする重巡航艦四隻、軽巡航艦八隻、駆逐艦一六隻のシリウス星系航宙軍マキシム星系方面強行偵察艦隊は、その姿をマキシム星系のルテル方面跳躍点より姿を現した。
「レーダー管制、パッシブモードにて走査最大。星系外縁部岩礁帯までの航路に監視衛星及び障害物無いか確認」
「航路管制、星系外縁部岩礁帯までの航路確認。正規航路は通れんぞ」
「航法管制、岩礁帯まで短距離ジャンプ可能か確認」
「攻撃管制、異常ないか」
「主推進機制御室、各部異状ないか」
「こちらレーダー管制、星系外縁部岩礁帯までに有人監視衛星二、無人監視衛星五、多量のデブリが浮遊」
「こちら航路管制、星系外縁部岩礁帯方向、直進不可。岩礁帯縦方向上下いずれかの位置まで、このまま移動し、その後岩礁帯方向に移動が可能になります」
「こちら航法管制、デブリが多く、短距離ジャンプ出来ません」
「こちら攻撃管制、システム正常です。三〇〇万キロ以内に攻撃対象物ありません」
「こちら主推進機制御室、全て正常に機能しています」
艦長と各管制官のやり取りを耳にしながら今回の強行偵察艦隊司令官ベノス・ゴンザレス少将は、マルチスペクトル分析と遠距離光学分析から映し出されるスコープビジョンを見ていた。
「これが、マキシム星系か」
ゴンザレスは、始めて見る星系の映像に見入っていた。ゴンザレスが乗る艦がいるルテル星系方面跳躍点から見ると、マキシム恒星を中心に三つの惑星が周回し、その外側を薄い岩礁帯が取り巻いている。更にその外側の左に伴星アルファ、右側に伴星ベータ、ルテル方面跳躍点から見てマキシム恒星の反対側に伴星シータが浮遊惑星として浮かんでいる。そしてそれを取り巻くようにカイパーベルト(星系と外宇宙を区切る大きな岩礁帯の輪)が存在している。独特の形態を持つ星系だ。
シリウス星系軍マキシム星系強行偵察艦隊は、そのカイパーベルトから二光時の位置に現れたのだった。
ベノス・ゴンザレスは、星系軍総参謀長モンティ・ゴンザレスの義弟である。艦政本部の仕事がほとんどであり、シリウス星系軍の中枢内でオフィスワークを主にこなしてきた。航宙経験といえば星系内の惑星間連絡艦に乗る位である。
今回は、統合作戦本部長ミル・ラムジーが、シリウス星系内に自身の息のかかった人間、それも今後シリウス星系内の自身の派閥構成に役に立つ人間として、星系軍総参謀長の義弟に目を付けた経緯がある。成功すれば役に立ち、失敗すれば、彼自身に責任を押付け、事あれば星系軍総参謀長を引き摺り落とし、自分がその地位に着けばよい程度に考えての起用だ。
「司令官、星系外縁部岩礁帯に近付く為に、監視衛星が配置されている通常航路は使用できません。正規航路を除く宙域は、デブリが多く、短距離ジャンプ(跳躍)も出来ない為、いったん岩礁帯の厚さと同じ下部ラインまで降下した後、時計回りに岩礁帯に近付きます。マキシム星系惑星公転軌道上から見えにくい伴星アルファの影の位置まで航宙し、そこから岩礁帯中央部まで上昇し、本宙域における作戦活動を開始したいと考えます」
艦長ランディ・マーモット大佐の言葉に振り向いて顔を見ながら
「宜しい」
それだけ言うと、またスコープビジョンに見入った。
艦長のマーモット大佐は、スコープビジョンを見る司令官の顔を横目でチラリと見ながら、こいつはシリウス星系軍艦政本部の中を義父のコネでぬくぬく育って来た人間だ。現場などどうでも良いのか。成功すれば自分の手柄、失敗すれば、我々の責任。だからこそ失敗する訳には行かない。肝心なところで口を出さねば良いが。
複雑な思いを心に描きながら艦長は、自分のデスクに埋め込まれ、やや斜めに迫り出して、人間の視覚に合う角度に取り付けられているスクリーンパネルを見ながら、星系間ジャンプ後に起こる不測事態の見落としが無いか状況を確認した。
この星系には、既にルテル星系を通して我々がこの星系に来たことは、プロキシマ星系から連絡が来ているはずだ。監視衛星だけではない、パッシブモードでスイープする哨戒艦も見逃す訳にはいかない。外延部に近付くまでは、何とかなるだろうが、その後だ。
スクリーンパネルに大きくなり始めてきた伴星アルファとその外側に厚く浮遊する岩礁帯を見ながら、艦長のマーモットは、確かプロキシマ星系航宙軍正規艦隊もプロキシマを七月一五日には、出動したと聞いている。連中には、見つからず今回の仕事を終わらしたいものだがな。
「艦長、後一時間で外縁部岩礁帯想定宙域に達します」
航路管制からの連絡にマーモット艦長は、ゴンザレス司令官に
「司令官、後一時間で外縁部想定宙域に達します」
その言葉にゴンザレスは、頷くとコムを口元に持ってきて
「強行偵察艦隊全艦に告ぐ。こちら総司令官ベノス・ゴンザレス少将だ。後一時間で作戦開始予定宙域に到着する。一五分後に全艦のレーダーをパッシブモードに切り替える。艦速は、〇.〇〇五光速とし、敵哨戒艦による推進エネルギーの熱量感知を押さえ込む。偵察作戦は、岩礁帯下部から中央部に到達する一時間一五分後に発動する。以上だ」
自分の言葉に酔いしれるように、ふーっと息を吹くと、自慢げな顔でマーモット艦長の顔を見た。
一時間後、スペクトル・スコープビジョンに入りきれない程、大きく映し出された岩礁帯と伴星アルファを前に見てゴンザレス少将は、口元のコムに向かって
「こちら総司令官ゴンザレス少将だ。今より作戦計画に従い、旗艦バイアスを含む重巡航艦四隻、軽巡航艦八隻、駆逐艦一六隻を二手に分け、AグループとBグループとする。Bグループは、岩礁帯下部から伴星アルファの右方向に進宙する。パッシブモードでルテル星系跳躍点方面から公転軌道までの間の監視衛星と防衛兵器の位置、及びマキシム星系航宙軍監視体制と配置を調査しろ。その後、伴星アルファを反時計回りに進宙し、Aグループと合流する。Aグループは岩礁帯最上部まで上昇後、伴星アルファの裏側を通る様に岩礁帯を抜け、伴星アルファの左前方及び公転軌道上までの監視衛星、防衛兵器の位置及びマキシム星系航宙軍監視体制と配置を調査する。Bグループとの合流は、伴星アルファを時計回りに進宙し、伴星アルファの衛星周回軌道上とする。合流時間は、今から五時間後だ。それまで我々の通信を敵に傍受されないように通信封鎖とする。今から一〇分後に作戦を開始する」
ゴンザレスは、一時間前より力が入らない声で指示を出すとコムを口元から上げた。総司令官のホッとした表情を見ながらマーモット艦長は、伴星アルファは、確かに地表は氷で
大気は、高速で吹き荒れている。普通の通信機器は役に立たないだろう。だが、この中に監視機器が設置されていないという保証はどこにもない。この人はどう考えているのだろうか。自分の懸念をそのままに、後で言われても仕方ない。考えを聞いてみるか。艦長席を立ち、右後ろにある総司令官席に向き直すと
「ゴンザレス総司令官。質問を許可頂けますでしょうか」
何だと言う顔をしながら
「質問を許可する。艦長、今回の調査で何か心配事でもあるのか」
「はっ、伴星アルファですが、地表は氷で覆われており、大気は時速三〇〇〇キロで流れています。この状況では、通常の監視機器、通信機器は使用不能と思われますが、両極点は、大気はそれ程強くなく、監視機器を置くことが可能です。今まで偵察艦隊は、極に近寄らない航路で来ましたが、万一と言うことも有ります。調査する必要があると考えます」
艦長の言葉にゴンザレスは、左手を顎に当てさするようなしながらスコープビジョンに映る伴星アルファ見ると、確かにな。カイパーベルトを上下に抜ければ両極まではいかないまでも、今隠れ蓑にしている岩礁がなくなる。監視装置がどのような位置仕掛けられているか分からないが、A、Bグループの姿、それも自然法則に従わない動きをする物体が現れれば、監視装置は反応するだろう。ここは艦長の考えを汲むか。
「艦長の意見を是とする。A、B両グループは岩礁帯の上下に分かれる前に、伴星アルファの両極に対してプローブを射出しろ。レーダーは、パッシブモードだ。相手の位置さえ分れば良い。向こうもこちらが分かるだろうが、プローブだけでは、相手がどこにいるかも分かるまい」
「総司令官。プローブが監視装置を発見した時点でプローブと同じ大きさの岩礁の姿をしたデコイを射出させ一時的にジャミングして、プローブを敵監視装置の索敵範囲内から出たところでジャミングを切れば、残るは、岩礁に化けたデコイだけです。相手が誤解したと欺瞞させることが出来ます。如何でしょうか」
「艦長。良い考えだ。艦長自身が、実行の指示を出してくれ」
そう言って、マーモット艦長の目を見た。
ゴンザレスは、艦長が監視装置調査の指示を出している顔を見ながら、これで良い。私が言えば、自分の考えを取ったと思われかねない。また失敗すればこいつの責任にすればいい。そう考えながら、指示を細かく的確に出していく声を聞きながら、スコープビジョンを見ていた。
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