第3話 第一章 プロキシマ・ケンタウリ (3)

第一章 プロキシマ・ケンタウリ

(3)


「ミチガサキ駐在大使、ガブリエル一等書記官との交渉は、上手く行ったか」

シリウス星系とウォルフ星系との間は、一.二光年。宇宙においては目と鼻の先にある近さだ。星系間連絡手段高異次元連絡網を使用すれば、タイムラグ無しに通信が可能な距離だ。シリウス星系評議会議長ジョンベール・ジュッテンベルグの言葉に姿勢だけはしっかりと保ち

「はっ、ガブリエル一等書記官は、我星系の動きを薄々気づいていたような口ぶりでした。プロキシマ星系領有域攻略戦の間、ルテル星系の領有権を条件にルテル星系を攻めさせ、プロキシマ星系軍の分断を図りたいと協力を依頼したところ、マキシム星系領有権の割譲を条件に出してきました」

「なんだと・・・。欲深い」

ミチガサキ駐在大使からの言葉に驚きながらも、あの男の事だ。こちらの足元を見てブラフしたのだろう。と思うと

「ウォルフ星系は、今回の件を聞いて、すぐに諜報活動に入るだろう。このシリウス星系、プロキシマ星系だけでなく、プロキシマ領有宙域の星系にもな。奴らの動きは、こちらも掴む必要がある。奴らがどの程度の情報を掴み、どの様な反応を見せるか、少し情報収集の時間を奴らに与えよう。その上で次の交渉に臨めばいい。ミチガサキ駐在大使は、子飼いの者を使い、ウォルフ星系政府がどこまで情報を掴めているか、入念に調査をしてくれ。連絡を待っている」

「分かりました。ジュッテンベルグ代表」

ミチガサキの言葉にジュッテンベルグは、通信を切った。映像が消えるとミチガサキは、すぐにデスクのスクリーンパネルの中央をクリックすると、映し出された男に向かって

「すぐに私の部屋に来てくれ」

それだけ言って、通信を一方的に切った。


標準時GGC三〇四六年六月一八日、

プロキシマ王カントゥーリス・アレクサンドル・プロキシマは、プロキシマ星系政府内にあるプロキシマ星系航宙軍統合作戦本部に主だった将帥を集めていた。

星系軍総参謀本部長カレラ・ヘンセン大将は、二〇人近い将官を一通り見まわした後、プロキシマ王に顔を戻すとカントゥーリスは、軽く頷いた。それを開始の合図と受け取った星系軍総参謀長ステファン・アレンバーグ大将は、

「プロキシマ王の御前にて諸提督に集まって貰ったのは、他でもない。シリウス星系が、プロキシマ王室第一王女マリアテレーゼ・アレクサンドル・プロキシマ様の婚姻を利用して我が星系と領有星域を手に入れようという悪事が表ざたになった。一か月前のことだ。シリウス星系は、在プロキシマ駐在大使カミラ・カラニシコフを通じて、根も葉もない作り話だとはねつけたが、各領有星域のから上がってくる情報を突きつけると、最後まで跳ね付ける振りをして、我星系を出て行った。その後、各星系の駐在大使より我星系外務大臣アキラ・コードウェルに集まって来た情報をまとめると、今後三か月以内にシリウス星系は、プロキシマ星系領有星域に攻勢をかけるという事が判明した」

ここまで話した後、アレンバーグ大将が諸提督を見まわすと少なからず驚く提督もいた。

アレンバーグは、テーブルの自分の前にあるスクリーンパネルにタッチすると提督達の座るテーブルの中央に三次元立体映像にしたプロキシマ星系、その先に領有星系宙域、マキシム星系、マキシム星系の右先にルテル星系、マキシム星系の左にエリダヌス星系が現れた。更にルテル星系の向こう側にシリウス星系その右にウォルフ星系を映し出した。

「我星系は、これに対抗すべく各領有星域に艦隊を送り、この攻勢を阻止すべく動くことに決定した。今から、各星系の防衛を担当する艦隊と総司令官を発表する。各艦隊司令官は、防衛星系航宙軍と協力しシリウス星系航宙軍を迎え撃ち、これを撃破しろ」

全員の顔が緊張で高揚している。

「ルテル星系防衛隊、第三艦隊司令官マイケル・キャンベル中将、第四艦隊司令官ガイル・アッテンボロー中将。ルテル星系防衛の総指揮は第三艦隊司令官マイケル・キャンベル中将に取ってもらう。マキシム星系防衛隊、第八艦隊司令官カール・ゴードン中将、第九艦隊司令官リュー・ジェイソン中将。マキシム星系防衛の総司令官はカール・ゴードン中将に取ってもらう。この他に万一の惑星上の防衛を考え、惑星規模攻撃軍団は、各艦隊指揮下に入る。更にこれだけの艦隊の兵站維持を各星系に任すわけには行かない為、マイク・ランドル中将を資材調達・兵站維持軍団司令官とし、マイク・ランドル中将の星系間輸送艦隊がミル・アンダーソン中将の星系間輸送護衛艦隊と協力し、各艦隊の維持の為の兵站を担当する。これだけの布陣でシリウス如きに破れるとは思わないが、戦場では、何が起きるか分からない。万一に備え、プロキシマ星系は、ガイル・ジョンベール中将の王室航宙軍艦隊が、星系内治安維持艦隊として活動してもらう」

一呼吸を置くと

「作戦発動は、一か月後の銀河歴標準時GGC三〇四六年七月一五日とする。各艦隊司令官は、艦隊の出動準備を急ぐように」

そこまで言うと各提督が、椅子を立ち上がり、プロキシマ王に敬礼した。プロキシマ王カントゥーリス・アレクサンドル・プロキシマは、低く響き渡る声で

「今回の事は予の望むに非ず。しかし、シリウスが、我星系の安寧を脅かすという愚策を弄するのであれば、これを打ち破り、彼の星系に城下の盟を誓わせようではないか。諸提督の奮闘に期待する」

各提督が声を揃える様に

「はっ」

と声を出すと、二人を残し他の将官は、回れ右をして航宙軍統合作戦本部の部屋を出て行った。

残った星系軍総参謀長ステファン・アレンバーグ大将と星系軍作戦本部長カレラ・ヘンセン大将に向かってプロキシマ王カントゥーリスは、

「ステファン、カレラ。今回の件、抜かりは無いであろうな」

「はっ」

頭を深々と下げた二人を見た後、プロキシマ王は、近衛兵に守られて部屋を後にした。星系軍作戦本部長カレラ・ヘンセン大将は、星系軍総参謀長ステファン・アレンバーグ大将を連れて自分の部屋星系軍作戦本部長室に戻りながら

「ステファン、なぜ、シリウスは我が星系に攻めて来る気になったのか。我が星系と彼らの軍事力、経済力を比較すれば、無謀とも思えるが」

「何か、我々には気づかない事があるのかもしれない。ウォルフ星系との関係も気になる。シリウス星系がウォルフ星系を味方に付け、側面から攻めてきた場合、ルテル星系が危うい。あそこが落ちれば、マキシム星系まで一気に攻め込むだろう」

「だからこそ、第三艦隊と第四艦隊の二艦隊を向かわせた。マイケル・キャンベル中将は攻守ともに優れた人間だ、ガイル・アッテンボロー中将の助けが有れば、問題はなかろう」

「そうだな。そうあってほしい」

やがて、星系軍総参謀長ステファン・アレンバーグ大将も同じビルにある自分の部屋に戻って行った。


プロキシマ王カントゥーリス・アレクサンドル・プロキシマは、第一王女マリアテレーゼ・アレクサンドル・プロキシマを前にして

「マリアテレーゼ、お前に頼みたいことがある」

何用と思いまながら彫が深く、しっかりとした顔つきの父を見ていると

「エリダヌス星系に行って貰いたい。私の名代としてだ。プロキシマ星系がシリウスを相手にしている間、マキシム星系内、エリダヌス星系方面跳躍点に艦隊を派遣し、シリウス星系ににらみを効かせてほしいのだ。エリダヌス星系が我が星系の味方に付いたことを知ればシリウス星系とは、戦わずして決着をつけられるかもしれない。シリウス星系軍の出動は二か月以上先と情報を得ている。お前が帰還するまでは何も起こらないだろう」

「分かりました。父上。いつ行けばよろしいのですか」

「済まぬが、準備出来次第すぐに発ってくれ。プロキシマ航宙軍恒星連絡艦アトリアで行きなさい」

「エリダヌス星系外務大臣エンゲージ・シドニーを通じてエリダヌス星系政府代表に予の言葉を渡してくれればよい。この親書に予の言葉が入っている」

そう言って、カントゥーリスは、デジタルパネルをマリアテレーゼに渡した。

「アレク・ジョンベール大佐。第一王女の身の安全頼んだぞ」

「ははっ、この身に代えて第一王女様の身の安全をお守り致します」

プロキシマ王からの直接の言葉に王室航宙軍アレク・ジョンベール大佐は、跪き深く頭を下げて言った。


標準時GGC三〇四六年六月二五日、

第一王女マリアテレーゼは、王室航宙軍アレク・ジョンベール大佐と共にプロキシマ航宙軍恒星連絡艦アトリアに乗り込み、護衛艦として軽巡航艦四隻、駆逐艦一二隻と共にエリダヌス星系に旅立った。プロキシマ星系からは、マキシム星系を介してエリダヌス星系まで行ける。跳躍点を利用したジャンプ航法を取れば、プロキシマ星系からエリダヌス星系まで二週間の行程だ。プロキシマ王カントゥーリスは、まだシリウス星系もすぐに動くわけでもない。それにエリダヌス星系は、シリウス星系からは遠い。これだけの護衛艦で十分だろうと考えていた。


「アレク、またクレアに会えるわ。父上の名代はとても重い仕事だけど、クレアに会えるのは、嬉しい」

嬉しそうに話す第一王女を見ながら、この使節団の動きがシリウスに漏れなければ良いがと、頭の中で考えながらも

「マリア様、プロキシマ王の名代としてエリダヌス星系に行くのです。心を引き締めて星系政府代表と会われますようお願いします」

「分かっているわ。そんな事」

二人の話をよそに恒星連絡艦アトリアの艦長コウメテウス大佐が

「第一王女様、後三〇分で跳躍点に入ります。ご自室に戻り、ジャンプ航法に備える様お願いします」

艦橋のオブザーバ席に座りながら、多元スペクトル・スコープビジョン(通称スコープビジョン)に映し出される宇宙の星々の映像を見ながら、アレクと話していたマリアテレーゼは、

「分かりました」

そう言うと、アレクと共に艦橋のドアを出て左方向の自動誘導路に乗った。

三〇分後、第一王女マリアテレーゼを乗せたプロキシマ航宙軍恒星連絡艦アトリアの周りを囲む様に護衛艦一六隻が配置された隊形で、プロキシマ星系からマキシム星系方面跳躍点に消えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る