第21話 勇者降臨

 宇宙戦艦の艦外モニターが映し出しているのは、星空に浮かぶ黒い影だった。

 それは――巨大な要塞。

 衛星サイズの竜の城。【アジ・ダカーハ】。

 そしてその周囲にいるのは――無数の竜牙兵たちだ。


「クソッ……!!」


 俺は拳を握り締める。


「どうするんですか!?」


 ベイが聞いてくる。

 ザナージは号令をかける。


「全艦砲門を開け。目標は前方の敵部隊。

 撃ち方始め!! 」

「撃てぇ!!」


 その声と同時に、数百のビームが放たれる。

それは、漆黒の竜牙兵たちをなぎ倒していく。だが――


 竜牙兵の群れの中から巨大なドラゴンが姿を現す。それは――竜牙兵たちと違い、より巨大な竜の骸骨のような姿をしていた。

 その姿はまさしく宇宙スカルドラゴンとでも言ったところか。

 宇宙スカルドラゴンたちが雄叫びをあげる。すると、周囲の竜たちも呼応するように声を上げる。そして、宇宙スカルドラゴンたちはこちらに向かってきた。


「主砲発射!! 」ザナージ卿が叫ぶ。

「了解!!」


 宇宙戦艦の艦首にある巨大な砲塔が光を放つ。

 その光が、宇宙スカルドラゴンの一体に直撃した。だが、それでも宇宙スカルドラゴンは止まらない。そのまま突っ込んでくる。


「宇宙戦闘機発進せよ!! 個別に叩け!!」


 ザナージが指示を出す。


「はっ!」「承知しました!」


 二人のトルーパーがブリッジから飛び出す。

 そして、他のトルーパーもそれぞれの武器を構え、飛び出した。


 宇宙戦闘機と宇宙スカルドラゴン、宇宙竜牙兵たちの宇宙戦が繰り広げられる。

 だが――


「くそっ」


 俺には、何もできない。

 宇宙船の操縦免許を持っていないからだ。そういうのは全て宇宙ドワーフのアーシュがやっていた。

 師匠がいたら。師匠の宇宙船、スターサファイア号がここにあったら!!


「勇者どの」


ベイが俺を呼ぶ。


「勇者どのは勇者どのの仕事を果たしてください」

「え?」


俺は振り返る。ベイは俺を見て微笑んでいた。


「勇者どのには勇者どののできることがあります。どうか私達を信じて待っていてください」


 そう言うと、ベイは他の仲間達とともに、戦場へと向かった。


「俺の……仕事……」


 俺は自分にできる事を考える。

 何かないか? 今の俺にできる事は――


 外を見ると、爆発が起きている。

 戦闘で次々と、敵が、味方が。


 俺の――俺がすべきこと……。

 だけど俺には、宇宙船を駆って戦う技術も無い。宇宙に出られない。

 そもそも宇宙勇者だと言っても、見習いでしかない。

 ただ師匠に拾われて、エーテル力が強いから合格しただけといっても――

 いや、待て。

 そうだ……!!


「ちょっと出てくる!!」

「おい、勇者!?」


 ザナージの言葉を無視して、俺は走った。



 数分後。

 俺は戦艦の機関部にいた。

 俺の――宇宙勇者のエーテル潜在力は高い。

 エーテル力が一定以上なければ、宇宙勇者として認められないからだ。

 そして、これらの宇宙魔導科学は、エーテル電池で動く。

 そこに、俺のエーテル力を注ぎ込めば――!!


 俺は自分のエーテル力を集中させる。

 師匠の地獄の特訓を思い出しながら。

 エーテル制御。心を静めろ。呼吸を操れ。全身を、そして宇宙を流れるエーテルをイメージしろ。

 戦艦のエネルギー炉が音を立てる。そして、俺の意識が流れ込むように、戦艦の力が高まっていく。


 いけるか……!?


 俺はエネルギータンクに手をかざす。

 そして流し込む。破壊してしまいわないよう、細心の注意を払いながら。



 戦艦全体が、震える。

 メーターが大きく動き、機関室そのものが大きく鳴動する。

 

「勇者どの!!」

「何を……これは」


 宇宙トルーパーが二人かけつけてくる。


「エーテルを……注入した。これで出力が上がれば……」


 俺は答える。


「なるほど……問題ないかと。

 ザナージ卿がブリッジで探しておりました」

「スタンガンぶちこんででも連れてこいと……」

「それは怖いな」


 俺は黙って従う事にした。



***


「何をした。出力が上がったぞ」


 ザナージがブリッジで言う。トルーパーは俺の行動を説明した。


「なるほどな、合点がいった」

「……問題だったか?」

「いや。十分だ」

 

 ザナージが笑う。


「これで全力でいれるというものだ!」


そして彼の号令の下に放たれた砲撃は、強力な破壊力を持って次々と宇宙に大輪の花を咲かせた。


「うわははははははははははは!!! 圧倒的ではないか!!! この調子で骨どもを一匹残らず粉々にせい!!! ぐわーっはっはっはっは!!!!!」


 ザナージが笑う。

 しかし――


「ぬうっ!?」


 ザナージ卿の指差す先を見ると、そこには――巨大な竜の骸骨がいた。


 宇宙スカルドラゴンは宙に浮かび、こちらを見下ろしていた。

 その周囲には、無数の竜牙兵が取り囲んでいた。

 そしてその咢が、戦艦に向けて開かれ、光が迸る。


 しまっ――


 たが。





「スターシュテルン……グリッター!!」




 エーテルを震わせ、宇宙空間に凛とした声が響く。


 幾つもの光が流星のように尾を引き、竜牙兵の砲撃を撃ち貫いて、そして巨大な竜牙兵すらも貫き砕いた。


「なんだこけは、何が起きている!! 援軍か!?」


 俺は、それに心当たりがあった。


「師匠……!!」


 そこには。

 宇宙船スターサファイア号の甲板に立ち、勇者の杖アエティルケインを振るう、本物の宇宙勇者の姿があった。

 その名は。


「宇宙勇者ユーリ・ルルール、ただいま到着!!

 ……頑張ったね、ショウゴ君」


 そして、彼女は優しく笑った。

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