第19話 大群
ファットマン邸を取り囲む、空に、陸に、大量の大小の宇宙竜牙兵たち。
「嘘だろおい!」
俺は叫ぶ。
いくらなんでも数が多すぎる。
だが――
「勇者どの! あれを!!」
宇宙トルーパーの一人が声を上げる。
そちらを見ると――
屋敷の前に、巨大な魔法陣が展開されていた。
「これは……」
俺は目を凝らす。
すると、その魔法陣から――大量の竜牙兵が召喚されていた。
「なんだと……」
「まさか……ファットマン卿はこの事態を想定して?」
俺とアルが呟く中――
竜牙兵は、ファットマン邸に向かってきた。
「くそっ!!」
俺は叫ぶ。
「勇者どの!」
ベイが叫ぶ。
「私達が時間を稼ぎます! その間に勇者殿は逃げてください!」
「なに!?」
「先程、情報を軍本部に送信しています。じきに増援が来る!!」
「頭の固いお偉いさんどもも、宇宙貴族の居住エリアが襲われてるってなったらいの一番に駆けつけてくるぜ!!」
ベイとアルが言いながら、銃を乱射する。
竜牙兵を近づけさせないつもりだ。
だが――
「逃げろと言われても、これは」
大量の竜牙兵たち。完全に包囲されている。
俺一人ならともかく、宇宙トルーパー達をおいて逃げるわけにはいかない。
俺は勇者の杖、アエテイルケインを握り、光刃を伸ばす。
「勇者殿!!」
「逃げるより、こっちの方が可能性は高そうだ」
「しかし――」
「あんたら二人とも強いだろう。だったら、持ちこたえられるはずだ、三人で!!」
俺の言葉に、宇宙トルーパーの二人は頷く。
そして――
俺達は戦闘を開始した。
***
「くっ……」
どれだけ倒した? わからない。だが……目の前には、まだまだ竜牙兵達が迫ってきている。
「はあっ……はあ……」
「勇者殿……」
ベイが肩で息をしている。
アルも疲れているようだ。無理もない。俺達が戦っている間、ずっと援護射撃をしていたのだから。
「くっ……」
だが、そんなことを言っている場合ではない。
俺はエーテルサイコキネシスを発動させる。
「ぐっ……!」
頭が割れるように痛い。
流石にエーテル力の使いすぎだ。
だが、ここで止める訳にもいかなかった。
「勇者どの……何を……?」
ベイが聞いてくる。だが答えられない。
俺は、エーテルサイコキネシスで、周囲の瓦礫を集め、固めていく。
そして。
「いけるかな」
俺が言った瞬間。
周囲を固められた瓦礫が、俺達の上空に集まり、一つの形を作っていく。
「なんだ!?」
宇宙トルーパー達が驚く。
俺が作ったのは――超巨大な岩の塊だ。
それを――
「はあああ!!」
俺はサイコキネシスでぶん投げた!!
飛んでいった巨大な岩は、そのまま竜牙兵たちの真上に落ちる。
そして――
轟音と共に、土砂が降り注いだ。
「やったのか!?」
アルが言う。
その言葉に、俺は首を横に振る。
「ダメだ! まだ来るぞ!!」
土煙の中から、新たな竜牙兵が向かってきていた。
だがもう遅い。
あれだけの衝撃を食らえば――
『……!!』
「ん?」
俺は違和感を感じた。何か変だ。
何だ? そう思った時。
『……!』
「しまった!」
俺は叫んだ。
次の瞬間。
俺がぶん投げた巨大隕石のような岩石の下から――
「オオオオォォォ!!!」
巨大な宇宙竜牙兵が現れた。
「マジかよ……」
思わずつぶやく。あんなの食らって無傷なのかよ……。
だが、それだけじゃない。
宇宙竜牙兵は俺達に突進してきた。
「ちいっ!」
俺は舌打ちする。まずい。今、俺のサイコキネシスは使えない。
この距離じゃ間に合わない。ベイとアルは……だめだ、疲労困憊している。
――なら!!
「うおおおっ!!」
俺はアエティルケインを両手に持ち、宇宙竜牙兵の攻撃を受け止めた。
「ぐうっ……!」
だが、パワーが違い過ぎる!!
俺は吹き飛ばされ、壁に激突した。
「ぐっ……!」
全身が痛い。骨が何本かいったかもしれない。だが。
「こんなところで……死ぬわけには……!」
俺は立ち上がる。
だが、俺の意思に反して、足がふらつく。
だめだ。立っていられない。膝をつく。
くっ……!
「勇者どの!!」「勇者どの!」
二人が駆け寄ってくる。
「大丈夫だ……それより……」
俺は二人に言う。
「あれを……!」
俺は宇宙竜牙兵を指す。
奴は再び、こちらに向かっていた。
「くそ……!」
俺は歯噛みする。なんて頑強さだ。
だが、あれだけダメージを与えれば、無生物である宇宙魔導兵器とはいえ、動きも鈍くなっているはず。
そう思いたいが……正直、自信がない。
あの宇宙竜牙兵は、あの巨体に見合わず、素早く動くことができるのだ。
『……!!』
宇宙竜牙兵が口を開く。
ビームが来るか! 俺は二人を突き飛ばす。だが、それは悪手だった。
「勇者どの!」
二人の叫び声が聞こえる。だが、それは一瞬のことだった。
宇宙竜牙兵の口から放たれたビームは、俺ではなく――宇宙トルーパー達のいる場所に直撃したのだ。
大爆発が起きる。
「……!」
その光景を見て、俺は理解する。あの宇宙竜牙兵は、わざと狙いを外したんだ!
あの二人は――死んだ。
俺のミスで。
俺は呆然と立ち尽くす。だが、すぐに我に返る。
今は落ち込んでいる場合じゃない!
俺は宇宙竜牙兵の方を見る。すると、宇宙竜牙兵は俺を見下ろしていた。
どうやら、次は俺の番らしい。
宇宙竜牙兵は拳を振り上げる。
俺は反射的に目を瞑る。だが――
「!」
痛みはない。俺は目を開ける。すると、そこには――
「大丈夫ですか、宇宙勇者様!」
そこには、宇宙トルーパーの一人が立っていた。
「どうしてここに……」
俺が聞くと、その男は言う。
「軍から連絡がありました。勇者様が危ないと」
なるほど。増援が来たらしいな。
そして――
「!!」
煙が晴れる。アルとベイも無事だ。
直撃は、他の宇宙トルーパーたちが電磁シールドで防いでいたようだ。「よかった……」俺はほっとする。これで、全員助かった。
「全軍一斉掃射!! 敵宇宙竜牙兵を殲滅せよ!!」
男が命令を出すと、一斉に砲撃が行われる。竜牙兵達が次々倒れていく。
すげえ火力だ。これが軍の力か。
「さすがは軍ですね」
俺の隣にいたベイが言う。
「あの程度の戦力でも、十分戦える」「ああ」
俺は答える。確かに、あの竜牙兵は大したことはない。だが、問題は――
転移の魔法陣から沸いてくる竜牙兵軍団。あれを、あの魔法陣をどうにかしないといけない。
だが、その心配はいらなかった。なぜならば――
「あれは――」
俺は上を見た。
そこには――巨大な宇宙船が浮いていた。
あれは――宇宙戦艦だ。
「援軍ですよ」
ベイが言う。
「あれは……」
俺が言うと、隣に宇宙トルーパーの一人がやってきて言う。
「あれは、我らの旗艦です」
「あんたたちは?」俺が尋ねると、その宇宙トルーパーは答えた。
「私は、銀河帝国宇宙軍第十三艦隊所属、エル・ファシル方面軍第六機動戦隊副長、アッテンボロー大尉であります」
俺は目の前の男――アッテンボローと握手をする。
「それで、アッテンボロー大尉」
俺は彼に尋ねた。
「あんたらの後ろにいるのは、誰なんだ?
アルとベイが報告を送ったからにしては、動きが速い。おかげで本当に助かったけど――
只者じゃない気がする」
「はい。それは――」
『私だ』
アッテンボローの持つデバイスから投影された立体映像通信。
そこには――
「あんたか」
覚えがある。
嫌味ぷんぷんの態度で、俺を手助けしてくれた男だ。
確か、騎士爵――
『ザナージ・ヴァハルーヒである』
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