第17話 ファットマン邸
俺たちは宇宙海賊の船を奪い――といううことにして――セントラルーンに帰還し、そして別行動を取った。
師匠はそのままアーラフを連行。
ヴァークとメイグーは別途宇宙遺跡へ。
俺はセントラルーンにある宇宙貴族たちの居住エリアへと向かった。
宇宙貴族たちの住むエリアは一言でいえば、理想郷のような文明社会だ。
科学が発達し、自然も多い。水も綺麗で、空にも宇宙馬車などの乗り物の交通も少なく、静か。
宇宙トルーパーが巡回警備を行い、治安も良い。
まるで物語に出てくるような理想郷――に見える。
だが、少なくとも――ここに居を構えている宇宙貴族の一人、ガリアード・ファットマンは、スノウを誘拐した悪党だ。
ここは悪党の巣窟、伏魔殿――そう思って挑まないといけない。
「交通許可証を見せろ」
俺が進むと、白い装甲服に身を包んだ銀河帝国の兵士、宇宙トルーパーが銃を構えて立ちはだかる。
「これで許可証になるか?」
俺は勇者の杖を見せる。
「宇宙勇者……の。
失礼しました」
宇宙トルーパーは銃を納める。が、警戒を完全に解いてはいないようだった。
「ここへは何用でしょうか」
「ある貴族に用がある。ガリアード・ファットマンの屋敷はどこにある」
「ファットマン卿……ですか。
失礼ですが、アポイントメントは」
「これだよ」
俺は歩きながら、立体映像を投影する。
『この宇宙エルフのお姫様を捕まえてくればいいのか?』
『ああ。報酬は弾む。仕事さえきちんとこなせばな』
『しかし、まさか宇宙貴族のガリアード様から人攫いの依頼とはねぇ』
『黙れ。その言葉を町に出すな』
『安心しな。ここには誰の盗聴も仕掛けられてねぇよ』
『……とにかく、仕事をしろ宇宙海賊。断っておくが、お前だけに依頼しているわけではない』
ガリアードとアーセラフの会話が流れる。これには宇宙トルーパーも動揺していた。
「本当なのでしょうか、これは。捏造という可能性は……」
「だから本人に確かめる。間違いだったらそれでいい」
まあ、間違いではないと確信しているが。
「あんたらも着いてきたらいい。そういう仕事だろう」
「はっ!」
俺の言葉に、宇宙トルーパー達は従う。
話が通じる人たちというのはいいなと思う、うん。
まあ実際、これで見過ごしたら責任問題にもなるだろうしな。軍人さんだし。
俺は宇宙トルーパーに案内され、ファットマン邸へとたどり着いた。
「なんだお前等は!」
今度は宇宙トルーパーではない、警備員達が銃を向けて威嚇してくる。
「軍務だ。ガリアード・ファットマンナ卿に評議員誘拐の容疑がかかっている」
そう宇宙トルーパーが言う。
いや、正式にそう決まったわけではないんだが。それとも、道中に容疑が固まったのだろうか。師匠もアーラフを連れて群本部に行ったわけだし。
「そ、そんなことは知らん!
ここは宇宙貴族の屋敷だぞ、正式なアポを……」
しかし、警備員は最後までいえなかった。
宇宙トルーパーの一人が、問答無用で警備員を撃ったのだ。
「なっ……!」
残った警備員が銃を構えるが、しかし襲い。宇宙トルーパーが残りの警備員も撃ち、警備員達はその場に倒れた。
「公務執行妨害だ。
安心しろ、スタンモードだ」
宇宙トルーパーはそう言う。うん、問答無用でおっかねぇ。ていうかよく俺、さっき撃たれなかったな……
「行きましょう、勇者どの」
「あ、はい」
思わず敬語になる俺だった。
「クソ貴族の雑兵どもがあ! 正規兵に勝てると思うな!」
「当たらねぇんだよ雑魚が! 宇宙温泉街の射的場からやり直してきな!!」
「……」
俺の出番はなかった。
たった二人の、装甲服とヘルメットで見分けもつかないような、量産型のような宇宙トルーパー二人に、宇宙貴族に雇われた私兵達は蹂躙されていた。
いや、俺の知ってる宇宙冒険者たちより遙かに手練れなんだけどこの二人。
今までほとんど百発百中で敵をやっつけてる。
隠れて不意打ちで接近戦を挑んできた私兵に対しても、見事な宇宙CQC(軍隊格闘術)で返り討ちにしていた。
まじで俺の出番ないです。
とりあえず気を取り直し、屋敷の廊下を進み、大きな扉をあける。
だが……やはり、そこにはもう私兵や使用人達以外はいなかった。
「どうやら一足遅かったようです」
「逃げたという事は、確定ですね」
宇宙トルーパー達が言う。一人は、軍部に連絡をとり、報告していた。
「勇者どの!」
何か手がかりはないかと適当にそこらをひっくりかえしていたら、宇宙トルーパーの一人が声を上げる。
「これは……」
そこには。
大量のデータが、立体映像で表示された。
俺には読めなかったりよくわからないものも多いが……
「兵器だ……」
宇宙トルーパーが言う。
「とんでもないことですよ勇者どの。
ここに羅列されているのは、宇宙兵器のデータ群です」
「わかるのかベイ」
「ああ、アル。
これは古代の兵器だ」
二人の名前は、アルフ・ァードとベイ・タールと言うらしい・
それはともかく、宇宙トルーパーのベイは説明する。
「勇者殿。
宇宙竜牙兵とは、古代の遺物であるマジックアイテムから作られる、宇宙ゴーレムの一種です。
魔術処理された竜の牙から生まれるというもので、下位のものなら今でも作ることは可能とされていますが……
ここに記されているのは、中級以上のものですね。
どうやらガリアード・ファットマンは……これらを手に入れて自分の軍隊をょ作ろうとしていたようです」
「ああ……見たことある。
ファットマンから依頼された遺跡調査の時に出くわした」
映されている。直立した蜥蜴の骨のような姿。
ガリアード・ファットマンはこれを求めていたというのか。だが、それにしては……
「むっ」
ベイが声を上げる。
そして投影されたのは、石版だった。
「古代宇宙語ですね。これは……」
「それなら読める」
俺は言う。つーか日本語だし。
つまりそれほど古いということか。
「ここに眠るのは、偉大なる竜の躯を改造して作り上げた、巨大兵器である……」
少なくとも、俺の生きていた時代ではなさそうではある。
俺の時代にい竜なんてコモドドラゴンとかぐらいだもの。
「惑星サイズの竜の骨を改造したこれを、ドラゴンボーンフォートレス、【アジ・ダカーハ】と誇称する。
これは無数の兵器ょ格納し、星を破壊する事すら可能だろう」
……なんともむちゃくちゃな。
惑星サイズって……
だが、次の碑文を読んだとき、俺は絶句した。
「兵器【アジ・ダカーハ】の起動には、ハイエルフの生命力が必要である。汚れを知らぬ乙女だとなお好ましい。その命を捧げることで、竜は蘇る……だと」
……。
ふざけている!
「勇者殿。ファットマン卿がスノウ議員をさらったというのは……」
「……ああ」
全ては。
この竜の骨に生け贄として捧げる為だった。
「くそっ!」
俺は壁を殴りつける。
その衝撃で、石碑の立体映像が消える。
「ファットマン……あいつ……!!」
「許せませんね」
俺の怒りに、宇宙トルーパー達も同調してくれる。
「ああ、ファットマン卿は重罪だ」
「ええ、必ず捕まえます」
その時――
「!!」
ファットマン邸が揺れ、地面から巨大な何かが現れる。
「こけは……宇宙ゴーレムか!!」
俺が叫ぶ。
現れたのは、十メートル程の身長の、二足歩行の巨人だった。
だが……その姿は、まるで――
「ドラゴン……」
ベイが呟く。
巨大な龍の骨だった。ドラゴンボーンゴーレム、といったところか。
そう。ちょうどそれと同じものを、先刻、データの中に見た。知る裂けていたそれは、
「宇宙竜牙兵……!!」
古代宇宙の魔導兵器だった。
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