第16話 犯人

「宇宙貴族ガリアード・ファットマンさ」


 その名前を宇宙海賊アーラフは告げた。


「なんだって!?」


 その名前を、俺たちは知っている。

 何度か会ったことがあるし、依頼もしてきた宇宙貴族だ。一体なんであいつが……!?

 あまりにも意外だった俺たちの反応をみて、アーラフは笑いながら言う。


「証拠もあるぜ」


 そう言って、アーラフは宇宙立体映像を映し出す。


『この宇宙エルフのお姫様を捕まえてくればいいのか?』

『ああ。報酬は弾む。仕事さえきちんとこなせばな』

『しかし、まさか宇宙貴族のガリアード様から人攫いの依頼とはねぇ』

『黙れ。その言葉を町に出すな』

『安心しな。ここには誰の盗聴も仕掛けられてねぇよ』

『……とにかく、仕事をしろ宇宙海賊。断っておくが、お前だけに依頼しているわけではない』


「……ってことだ。ちゃんと名前も引き出してるし……」


 立体映像の位置を変える。


「解像度もバッチリだ。ちゃんと貴族様のご尊顔、見えるぜぇ?」


 そこには確かに、あの宇宙貴族の顔があった。


「保険さ。何かの時のために、ってな」


 抜け目のない男だ。そのおかげで助かったけど。

 この映像があれば、証拠になる。貴族といえ、問いつめることができるだろう。


「しかし、なぜあの貴族が……」


 師匠が言う。


「さあな。貴族様の考える事はわかんねぇよ。

 ただ、計画に必要だとか言ってたぜ」

「計画……?」

「その内容までは聞いてねぇ。そいつを調べるのは勇者様や冒険者の仕事だろ? 海賊の仕事じゃねぇよ」

「……それもそうだな。

 でも助かったよ、アーラフさん。あんたのおかげで、スノウを助けられる」


 俺は頭を下げた。

 かつてスノウをさらおうとした相手だけど、それはそれだ。終わったことだし、大事なのは今だ。

 ようやく、スノウに……!


「じゃあさっそく屋敷に行かないと」


 師匠が言う。だが、アーラフがそれを制止した。


「セントラルーンの貴族街か? そっちはやろとけ

もぬけの空だと思うぜ」

「もぬけの空?」

「状況からの推測だがな。

 姫さんを手にしたなら……次に進むはずだ。計画とやらのな。

 別によ、屋敷で宇宙エロフとエロエロしたいだけのためにさらおうとしてめわけじゃねぇだろ?」

「確かに……。

 じゃあ、次って何だ?」

「さあな。そこまでは俺もしらねぇよ」


 アーラフの言葉に、俺たちは黙る。

 どうすれば……

 その時、


「もしかしたら……」


 メイグーが口にした。


「心当たりがあるのか、メイグー」

「ああ。

 ガリアードは宇宙冒険者に遺跡調査をさせていただろう。

 その中でひとつ……」


 メイグーが、端末から立体映像を出す。

 それは、確かに記憶にあった遺跡のひとつだった。


「途中で依頼を中止してきた遺跡があっただろう」

「ああ……」


 確かに覚えている。

 探索の途中で、探索切り上げの指令が来た。

 その後すぐに、参加した宇宙冒険者には大金が支払われた。


「おそらく、口止め料としてま意味もあったんだろう。

 宇宙貴族様も意外と間抜けなのかもしれないな」


 メイグーが笑う。


「つまり、そこに我々宇宙冒険者には見られたくない何かがあったということだ」

「なるほど……単なるお宝ってワケでもなさそーだな」


 メイグーの言葉にヴァークが同意する。

 確かにそうだ。

 道は見えた。


「……よし、手分けしよう」


 俺は言う。


「その遺跡と、ガリアードの屋敷。二手に別れて……」

「ボクはアーラフを連行するよ」


 師匠が言う。


「彼の証言を提出すれば、ガリアード・ファットマン卿の立場は一気に悪くなるからね。

 帝国軍に突き出して来るよ」

「ちゃんと脱獄の手引き頼むぜ?」


 アーラフが笑い長に言った。


「それは君の実力次第だよ。

 君程度なら簡単でしょ?

 それとも……手引きがないと脱獄できないのかな?」

「けっ。煽るねぇ、勇者の嬢ちゃん。

 まぁいいさ。嬢ちゃん以外にも脱獄のツテぐらいあるさ。

 裏社会の住人なめんなよ」

「舐めてないからこういう提案してるんだよ」


 師匠とアーラフが笑う。


「……最初から脱獄するために捕まるなら、なおさらな。

 ちょっとだけ時間くれたら根回しは出来らぁ。それくらいは頼むぜ勇者様」

「うん、わかった」


 話はまとまったようだ。

 じゃあ俺は……


「俺はこの証言を持って、屋敷に行くよ」


 コピーした、アーラフの持っていた映像証拠。

 俺はそれを手に取る。


「見習いとはいえ、宇宙勇者だしな。

 宇宙貴族の屋敷とはいえ、証拠さえあれば押し入る権限はあるだろう。

 ヴァークとメイグーは……遺跡の方に行ってくれるか?」


 俺は二人に向かって言う。


「おう」

「任せとけ」


 二人は快く応じてくれた。

 方針は決まった。


 俺はファットマン邸。

 師匠はアーラフを連れてセントラルーンの帝国軍本部。

 ヴァークとメイグーは宇宙遺跡。

 なお、アーラフの妹分であるオーラとサッサは脱獄に向けてのバックアップのために動くとのことだ。


 そして、ガリアード・ファットマンの企みを突き止め……

 スノウを……


 必ず、助け出す!!

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