第15話 宇宙海賊

 宇宙海賊の船から延びたアンカーが、貨物船を固定する。

 そして、貨物船を収納した。

 貨物船のハッチがあけられると,そこにはあの宇宙快速アーラフが立っていた。


「さて、まずは例を言わせてもらおうか」


 そう言って、アーラフは頭を下げてくる。


「……」


 予想外の展開に、俺たちは面食らった。



「この宙域には監視衛星もあってな、だいたい見てたぜ。

 妹たちが宇宙スライムに襲われてやべぇから慌てて飛び出したが間に合いそうもない……って時に、お前らのあの活躍だ。

 ああ、二人を助けてくれたのはしっかりと見たぜ。お前等は命の恩人だ」


 アーラフはそう言って、俺たちに酒を薦めてくる。


「毒は入ってねぇよ。なんなら回しのみしてもいいぜ」


 アーラフはそう笑う。

 その時、着替えたサッサとオルー=アが部屋に入ってきた。

 ちなみにサッサは今は女物の服装になっていた。

 オルー=アは俺を見て言う。


「改めて、礼を言わせてもらう、あなた」


 いや、誰があなただよ。


「おいおいおいおい、エルフの嬢ちゃんの次はうちの妹かよ、手ぇ早いんだな」

「いや手を出してないから」

「でも、私の裸を見た」

「いや、それは不可抗力で……」

「私の星では、家族以外で初めて裸を見せた異性には嫁がねばならないと言う鉄の掟がある……ということする。掟は大事。破ることは死を意味する。私とあなた、両方死ぬ」

「今、「ということにする」と言ったよね? でっち上げだろそれ!」

「何のことかわからない」


 疲れる……


「ああー、くっそ俺が見てたらなあ!」


 ヴァークが言い出す。うん、お前はちょっと黙ってて。


「そうなって場合は、その男だけ死んでた」

「ひどい!?」


「まあ痴情のもつれはそこまてにして」

「もつれてない。完全同意で事は進んでいる」

「進んでねえよ!?」


 ユーリ師匠の言葉に反論する留オルー=ア。いい加減にしてくれ頼むから。


「今、あなたがいったその「エルフの嬢ちゃん」の事なんだけど」


 ユーリ師匠がアーラフに向かって言う。


「彼女は行方不明になった。知らない?」

「知らねぇな」


 アーラフの返答は簡潔だった。


「俺は浚ってねぇ。海賊の誇りにかけて誓うぜ」

「そっか、わかったよ。でも、あなたはかつてスノウ姫を浚おうと、帝国の船を襲撃したね」

「ああ、高く売れると思ったんでね。あん時ゃあいい線までいつたが、嬢ちゃんとそこの小僧に邪魔されたがな。宇宙ゴーレム何体も失って大損だ。オルー=アも悲しがってたぜ」

「そっか、高く売れると思ったんだー」


 ユーリがうんうんとうなずく。


「誰に、売ろうとしたの?」


「はっ、そいつぁ言えねぇなァ」


 アーラフはにべもない。

 だけど、ユーリ師匠は続ける。


「そっか、言えない、か。

 人身売買の買い手はいくらでもあるよね。売る場所だって海賊ならたくさん知ってるだろうし、言ったところで問題ない、ボクたちが手を出せない場所だって在る。

 帝国に加盟してない場所とかもね。

 だけど、あなたはこう言った。「言えない」と。

 それはつまり、特定の個人に売るつもりだった、ってことかな。それも、名のある」

「……」


 アーラフの顔から、一瞬笑みが消える。だがすぐに軽薄な笑みが浮かんだ。


「あー、めざといねぇ、さすが勇者様だ。

 だがな、確かに言えねぇんだわ。取引相手の情報をホイホイ売っちまったら、海賊家業はやってられねぇ。

 裏の商売で大事なのはな、仁義と面子さ。

 仲間じねぇが。だからと言って簡単に売るわけにはいかねぇんだよ。ま、仲間や家族だったら死んでも売るつもりはねぇがな」


 そうやって酒を煽る。

 ……ん?

 仲間や家族は死んでも売らない。

 取引相手は簡単には売れない。

 それは、つまり。


「簡単じゃないけど、場合によっては売ることも考えるって事?」

「……さぁて、な」


 ていうか、売るつもり満々だこの海賊。

 ようするに今は、値の釣り上げ交渉に入ってきてるということは。うーわ、抜け目無いな。


「と言っても、ボク達って正式な依頼とか任務で動いてるわけじゃないんだよね……あまり大金は動かせないんだよ」

「オイオイオイオイオイ、大事な情報に金をケチるのかよ勇者様は。

 何なら宇宙エルフの星に行って、おたくの姫様を助ける情報があるのでって言えば大金動かせるんじゃねぇか?」

「宇超エルフの星は遠いんだよ。それにあそこ、宇宙共通の通過を使っていないというか、物々交換が主流らしいし」

「田舎だねぇ。んじゃどうすんよ」

「……んー、司法取引っての、どうかな?」

「……は?」


 ユーリ師匠が、なんかとんでもないこと言い出した気がする。


「司法取引だよ。

 証言と引き替えに、罪を減刑する取引。

 宇宙勇者にはそういうのも持ちかけること、出来るんだよね。

 あなたの数々の罪、減らせるよ」

「はっ」


 しかしアーラフは笑い飛ばす。


「そりゃあ、つまり捕まれって事じゃねぇか」


 その通りだ。師匠は何を言っているのだろう、取引にも何もなっていない。

 だがユーリ師匠はそのまま続ける。


「海賊ってさ、罪状が多く賞金が多いと、箔がつくよね」

「ああそうだ。だから司法取引なんて論外さ。賞金総額が減っちまう」


 そう答えるアーラフに対し、ユーリ師匠はにっこりと笑う。


「知ってる?

 ……宇宙監獄からの脱獄犯って、かかる賞金がすごいんだよ」


 ……

 何言い出すのこの宇宙勇者は!?

 いや確かに、俺の宇宙でも脱獄ってのはやばかったけどさ。映画の題材として定番になるほどに。

 その無茶な宇宙勇者の言葉に、アーラフはあっけにとられ、そして大笑いした。


「はーっはっはっは! オイオイオイオイオイ、お前正気かよ


「オレ達何も聞いてないから」

「海賊のアジトって面白いの多くてそれどころじゃないしなー」


 ヴァークとメイグーは聞かなかったことにしている。

 ですよねー。

 俺も何も効いてないし何言ってるかわかんねーや。


「まあ、あなたの持ってる情報の重さにもよるけどね」

「安心しな、この秘密はすげぇぜ。


 俺に宇宙エルフの姫様の誘拐を指示したのは……」

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