第13話 アステロイドベルト


「私はパス」


 アーシュが言った。


「雪エルフを探すために小惑星帯に行くのはいいけど、私の船でいかないんなら留守番しとくわ。文句があるわけじゃないの、ただのドワーフとしての矜持っていうか、まあそんなところ」


 どうやらへそを曲げているらしい。

 うむ、めんどくさい。

 しかし、まあ無理に連れていく事も無いだろう。


 そんなわけで、俺とユーリ師匠、ヴァークとメイグーはサッサの指定したドックへと到着した。


 そこにあったのは貨物船だった。


「よぉ」


 サッサが顔を出す。となりには女の子を連れていた。


「こっちは妹のオルー=ア、悪操縦士だ。挨拶しな」

「……」

「わりぃな、コイツ人見知りでよ。

 人数がところで、だ。

足りねぇようだが……」


 サッサが俺たちを見まわして言う。


「ごめんね、他の船に乗りたくないって駄々こねちゃって」

「あー、ドワーフだっけ、ならしゃあねぇか。あいつらタフなくせに機械関係はデリケートだからな」


 ユーリの言葉にサッサが苦笑する。その隣のオルアもこくこくと頷いていた。


「じゃあ乗れよ。

 海賊狩りの始まりだ」




 小さな貨物船に乗り込んだ俺たちは、サッサの指示通りにシートに座る。

 ドックから貨物船が出航する。

 大気圏外まで出ると、サッサは石を取り出す。魔石と呼ばれるも宇宙アイテムで、魔法が込められているものだ。

 俺もスターサファイア号で見たことがある。

 転移魔法が付与されているものだろう。

 これを宇宙船にセットして発動させることで、転移魔法航法が可能になるということだ。どうでもいいが魔法と航法で法が被ってしまっている。本当にどうでもいいことだが。

 石を渡されたオルアが石をカプセルに入れ、そして操縦席のコンソールにセットし、押し込む。

 船全体を微細な振動が包み、そして眼前に魔法陣が展開される。


「座標K022-TCR478、ゴリッタ星系西のアステロイドベルト。

 転移魔法陣展開確認、転移開始!」


 コクピットからの視界が白く染まり、そして貨物船は転移空間へと突入した。



「転移空間に入った、ベルト外していいぜ」


 サッサの言葉に俺たちはシートベルトを外す。

 転移空間とは、魔法で転移している最中の時空間だ。そのままだが。

 同じ星では転移魔法は一瞬で済むが、宇宙だと距離がとてつもなく遠いために瞬間転移でも時間がかかる。


「ゴリッタ星系西のアステロイドベルトまで宇宙標準時間で45分だ、それまでゆっくりしといてくれや」


 サッサが言うが、大きくない貨物船なので、ゆっくりと言われても困る。


「キミたちは、なんで海賊アーラフを追いかけているのかな」


 ユーリがサッサに聞いた。


「は? 賞金首を追っかけるのに理由がいるかよ」


 サッサはそう言う。ようするに金目当てという事か。


「だけどよ、それなら俺らに手伝ってもらわねぇ方がよくね? 分け前減るじゃんよ」


 ヴァークが言う。確かにそうだ。


「あー、いや。お前らなんかワケありじゃんか。だったらさ、そういうヤツらと手ぇ組めば分け前はこっちがふっかけても問題ねぇじゃん」


 ……確かにそうだ。

 だけど、こいつら確か「賞金は山分け」と提示しなかったっけ。

 俺の記憶違いだろうか。


「……?」


 ふと、視線を感じる。

 その方向を見たら、副操縦士のオルー=アだったか、彼女がこっちを見ていた。

 じっ、と。


「えーと、なに?」

「……」


 じっと見ている。

 もしかして、俺また何かやっちまってたか?」


 そう困惑していると、オルー=アがとことことこちらにやってくる。


「……それ」


 そう言って指さしたのは、勇者の杖だ。

 いったんユー師匠に、これは勇者のものだからと返したけど、拾ったなら所有権は俺にあると渡されたものだ。

 評議会でも、普通の冒険者や一版人なら買い取って回収するが、勇者ユーリの弟子(仮)なのだから持っててもいい、と許可されている。

 これが気になるのか。


「ああ、勇者の杖だよ」

「……勇者?」

「いや、俺は宇宙勇者じゃないけど、そこの師匠が宇宙勇者で、その弟子だから持ってるんだ」

「……珍しい。勇者が二人。

 しかも、かなり……古い、その杖、見たことない」


「評議会に見せたら、一万五千年以上前の型だって言ってたよ。

 幸いほとんど壊れてなかったからよかったけど。エネルギー切れだったしね」


 オルー=アの言葉に、ユーリが答える。


「……それは興味深い。博物館レベルの骨董品。

 ほしい」

「いやあげないよ」

「……ほしい」

「無理」

「残念」


 そういいながら俺の腰をすごく見つめるオルー=ア。


「男の腰をじっと見つめる女の子か、……エロいな」


 誰かこのヴァークを黙らせろ。


「……触って写真撮るだけでも、駄目?」

「まあそれくらいなら……」


 あのバカのセリフの後なので、ちょっと卑猥に聞こえてしまったが、俺は悪くないですよ。


「わりぃな、アイツ宇宙魔術師で、マジックアイテムのマニアだからよ」

「なるほど」


 おおおおお。と目を輝かせて勇者の杖を触っているオルー=ア。

 頼むから分解とかしないでくれよ。


「ボクのには興味ないの?」

「普通の勇者の杖は時々見かけるから。

 宇宙ブラックマーケットにも出回ってる。

 私は持ってないけど」


 そういやそういう話もあったっけ。高く売れるらしい。


「まあ仮に持ってても、勇者様の前で持ってまーす、とか言わねぇけどな。回収されちまう」


 サッサが言う。

 そうこうはなしてると、オルー=アが勇者の杖を持ってくる。


「……ありがとう。堪能した」


 ふー、と満足げに言うオルー=ア。堪能したらしい。


「よければまた見せてほしい」

「ああ、いいよ」


「……と、そろそろでるぞ」


 サッサが言う。


 転移空間をでると、そこは岩だらけの宇宙だった。

 小惑星地帯だ。


「ここにアーラフがいるのか!?」

「ああ、追跡ビーコンはずっとここを指してる、ここに奴のアジトがあるのは間違いね……っと!」


 小惑星が迫ってくる。船は急旋回してそれを回避。

 だが次々と大小の小惑星達が迫ってくる。これは酔いそうだ。

 まるで遊園地のアトラクションのようにひたすら揺れる。


「うわわわわっ!」


 何度か旋回した頃、後ろの方から派手な音がした。


「ちっ、後部コンテナに衝突! 貨物室にダメージが!

 お前等ちょっと行ってくれ」


 サッサがそう俺たちに向かって叫ぶ。


「私が、案内する」


 オルー=アがそう言って立つ。


「四人全員でお願い。それだけ人手がいりそう」

「……ああ、わかった」


 俺たちは後部の貨物室へと移動した。


「このコンテナに灰ってほしい」


 オルー=アがそう言う。俺たちはコンテナの扉をあけて中に入る。

 コンテナの明かりをつける。中は何も入っていない殺風景な感じだった。


「あれ? 壊れてないようだけど……」

「確かにそうだな」


 ヴァーク達が言う。


 すると、壁ににあるモニターに、オルー=アの映像が現れた。そこから指示を送るのだろう。


「……本当に申し訳ない」


 だが、オルー=アがの口からでたのは、そんな言葉だった。


「さよなら」


 次の瞬間、コンテナが揺れる。そして浮遊感。


「これは……!」


 コンテナにある窓から外が見えた。

 宇宙空間だ。


 そう。

 罠にはまった。最初から、あの二人は宇宙海賊アーラフとグルだったのだ。


 俺たちは、コンテナごと小惑星地帯に放り出された。





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