第10話 調印式


 銀河帝国は、建国から一万年を数えるという。正確には、10231年だそうだ。

 かつては侵略戦争に明け暮れていたが、今のリギューラ・カ・ヴェネディクトゥヌス97世が即位して三百年、融和政策を進めて平和なものだという。

 ……三百年、ねえ。

 まあエルフとかドワーフみたいなのがいるし、そういう長寿種族がいておかしくないけど、聞いたところでは皇帝は標準的な人間種族らしい。生命維持措置で延命しているとのことだ。

 かくて今も支配力を誇っている皇帝陛下だが、年に一度、帝国に帰属する勢力が集結して調印する式典がある。それが今回の調印式であり、それを経てスノウの宇宙エルフの連合は正式に銀河帝国の属国となる。

 スノウはこのためにこの星にやってきた。

 ……これが終わればどうなるなだろうな。

 元の星に帰るのだろうか。 

 そうなると、中々会えなくなるのかな。まあ通信は出来るから、そこまでってことはないだろうが。

 

「ショウゴ君、こっちこっち」


 ユーリ師匠が手を振る。隣にはアーシュもいた。

 俺は勇者ユーリの付き添いとして、式典に参加する。参加といっても隅っこに出席する程度だが。


「式典の料理って豪勢なのよね」


 アーシュは食事目当てらしい。

 たくさん食うからなこいつ。

 俺より礼儀もわきまえてるから、まさか宮廷料理をタッパーに積めて持って帰ることはしないと思うが。

 ……しないよな?


「しないわよ」


 しないらしい。

 俺が見た空のタッパーは気のせいだな。




 銀河帝国の皇城は、まさに象牙の塔というべき威容だった。

 SFの要塞とファンタジーの宮殿を足して何乗かんじだろうか。ただただ圧倒される。

 警備の兵士達はみな全身を白い装甲に身を包んでいる。

 それどころか明らかに巨大ロボットみたいなのもいるし。

 ユーリにきいたところ、あれは宇宙ゴーレムや、宇宙巨人らしい。


 参列者達も様々な人種がいた。

 人間種が多かったが、宇宙ドワーフ、宇宙ハーフリング、宇宙リザードマン、宇宙ライカンスロープ……様々だった。


「すげえなぁ……」


 なんというか、俺、田舎モノ丸出しである。


「あ、ショウゴさん!!」


 スノウの声が聞こえた。

 見ると、綺麗に着飾ったスノウの姿が。うーん、可愛いな。


「あら、雪エルフじゃない」


 アーシュが言う。

 彼女はスノの事を雪エルフとあだ名で呼んでいる。


「あ、アーシュさんも」


 スノウが言う。

 なんというか、初対面の頃のギスギスさが今の二人にはないように思える。

 それを聞いてみると、


「慣れたわ」

「慣れました」


 そんな答えが返ってきた。

 慣れたのか。


「そもそも、あれなんです。私たちと宇宙ドワーフって、たとえるならお互いを生理的に受け付けないってだけなんですよ。

 何か嫌なんです」

「そうよね。でもアレよ、犬嫌いとか猫嫌いとか虫嫌いでも、それが危険じゃないとわかって、しばらく近くにいたら慣れるでしょ」

「さすがにゴキブリ級じゃないですしね」

「ま、相手にもよるけど。少なくとも雪エルフはそこまで嫌いじゃないわよ、好きでもないけど」

「ええ、お互い我慢できますもんね、大人ですし」

「ふーん、大人ねぇ」


 そう言ってアーシュはスノウの胸元を見やる。


「どこ見て言ってるんですか? 実年齢じゃ私の方が上ですよ?」

「あーら生きた年月でしかマウント取れないのかしら? 年齢だけで考えたらあなた老婆になっちゃうわよ。142歳だっけ?」

「そういうそちらはおばさんですね。なまじ百歳越えよりも40歳って方が響きがなんというかヤバいですよね」

「まだ36なんだけど、数も数えられなくなったのかしらおばあちゃん?」

「うふふふふふ」

「おほほほほほ」


 ……。

 怖えぇよ。

 本当に仲良くなったんだよね?

 ユーリ師匠は姿消してるし。逃げたな。


「いや、仲がよろしいことで」


 そう声がかかる。

 誰だか知らないけど目玉がタピオカで出来てるのか?


 そう思って声の主を見たら、そこにいたのは豪華な衣服に身を包んだ金髪の壮年だった。


「……あなたは?」


「失礼。私はガリアード・ファットマン伯爵と申します。スノウ様と……君は確か、そうそう、ショウゴ殿でしたか。ザナージ殿から様相は聞いていましたので」


 ……どこかで聞いた名前だ。

 ああ、確かザナージって男が言っていた、俺たちにクエストの依頼をしたという貴族。

 ……イメージと違うな。なんというか、痩せている。

 ファットマンという名前なのになあ。まあ口に出して言うような事はしないが。


「直接では初めまして、ですねファットマン伯爵。

 改めまして、スノウです」

「知り合い?」

「はい。私たち北のエルフ星系連合が帝国に加わるためのお手伝いを色々としていただいたんです」

「へえ……」


 エルフマニアか何かだろうか。

 まあ、だとしてもスノウは渡さないけど。


「帝国の発展にエルフの力は欠かせませんからね。

 エルフの住む星からは貴重な資源が採れますから。そしてそれはエルフ達があまり必要としていない。それらを帝国が有効活用しつつ、対価を支払い共存発展していく。理想的な商売です。 

 いや、銀河企業連合も狙っていましたから、大変でしたよ」


 そう朗らかに笑うファットマン伯。

 ……なんだろう。

 さわやかなイケオジなのに、どうにも不審げに思えてしまう。

 ……俺の気のせいだろう。


「……と、そろそろいかねばなりませんな」


 ファットマン伯爵が言う。


「そうですね。ではショウゴさん、私はこれで。

 この調印式が終わったら私もショウゴさんたちと一緒に冒険に行ってみたいです」

「大丈夫なの?」

「はい。宇宙エルフには時間はたっぷりありますから」

「いや、帝国の方の……まあいいか。

 んじゃ、またな」

「はい、また」


 そしてスノウとファットマン伯爵は姿を消した。


 ……冒険か。

 スノウと宇宙を冒険出来たら楽しいだろうな。というか癒されるだろうな。

 修行と称して宇宙軍隊アリの巣に放り込まれたりとかしないだろうし。

 あれが知的生物でなかったら絶対死んでたぞ。

 まあそれしともかく、楽しみだな。

 弁当とかしっかり用意しないと。


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