第7話 訓練


 なんか気がつけば、この俺ショウゴ・アラタの人生はめまぐるしく変わっていた。

 気がついたら別の世界にいて、宇宙エルフの少女と出会い、宇宙海賊に殺されかけ、宇宙勇者の女の子に助けられた。

 そして連れて行かれた星で、宇宙冒険者として登録させられ、宇宙勇者たちによって乳揉み魔と呼ばれ、そして気がつけばユーリという女の子の弟子となっていた。

 そしてさらに、俺はどうやら、死んでいたらしいと判明した。

 今のこの俺は、スノウによって宇宙遺跡から召喚された、「異宇宙転生体」らしい。

 改めて鏡を見たら、黒い髪だった俺は灰色になり、肌もいくぶん白くなっていた。元の俺よりも色素が薄くなっている感じだった。

 これも転生の副作用なのだろうか。

 どうせ転生でいろいろと作用があるなら、この世界……いやこの宇宙の言葉も喋れるようにしてくれたらいいのに。

 そう。現在俺は、この宇宙の言葉を翻訳されてはいるものの、なんというか……

 洋画を字幕版で見ているように、目の前に文字が浮かぶ状態だった。便利だが不便である。

 結局、俺の言葉がわかるのはスノウのみ。

 このままじゃいけないよなあ。

 いけないといえば、はっきり言って今の俺は無一文である。

 師匠となったユーリがやたら張り切っていて、衣食住の面倒は見てくれるそうだが……

 スノウもスノウで、言葉はわかるのは自分だけだし、助けてもらった恩や召喚してしまった責任があるとかで、俺の面倒をみようとしてくれている。

 正直、うれしい。うれしいが……

 この変なモテモテ状態の幻想は、すぐに破壊されることになる。



 死ぬ。

 正直、死ぬわこれ。

 基礎体力づくりと言って、ひたすらグランドを走らされる。

 腕立て伏せ、腹筋、背筋、その他筋トレを繰り返させられる。


「さあ、こんなことじゃ勇者どころか一人前の冒険者にもなれないよ!!」


 はちまきにバットを持ちジャージを羽織ったユーリが言ってくる。

 ちなみに今俺は、訓練用のエーテル抑制ギブスをつけられている。これし今の設定では肉体的負荷は無いけれど、エーテル力によって肉体強化が行われるのを防ぐという話だ。

 宇宙海賊アーラフと、奴の繰り出した宇宙アイアンゴーレムと戦えてのも無意識にエーテル力によって肉体強化をしていたからだという。

 なので訓練ではそれを禁止、とのことだ。つまり俺は前の世界……前の人生そのままの、ごく普通の高校生でしかない。

 そんな状態で脳筋勇者っ娘のシゴキが来るのだ。

 それは筋トレだけではない。基礎トレーニングが終わった後は瞑想訓練、そして木剣使っての剣術訓練や、格闘訓練などが目白押しだ。

 重ねて言おう。


 しぬ。 


「隙ありぃ!!」


 ユーリのアエティルケインの一撃(非殺傷エーテルスタンモード)が、俺の胸を貫いた。

 そして俺の意識は、落ちた。





「大丈夫ですか?」


 字幕吹き替えではない、馴染みのある言葉がやさしく俺にむかってかけられる。

 目を覚ましたら、宇宙エルフのお姫様がいた。

 なんか知らないうちに死んでたらしい俺を召喚し、転生されてくれた俺の命の恩人とも言える美少女、スノウだ。

 ああ、癒されるなぁ……俺に必要なのは鬼師匠のシゴキなんかじゃない。可憐なエルフっ娘の優しい……


「一休みしたら、宇宙共通語の勉強ですよ?」


 どさどさどさっ、と本が山積み荷なる

 ……。

 いや、必要なのは可憐なエルフっ娘が手取り足取り優しく教えてくれる語学講座だ。

 たとえ以外とスパルタ教育だったとしても、ユーリのシゴキよりはマシですよ。マジで。

 ……まあ、ユーリの勇者訓練も大切なのはわかっているけれども。この宇宙で生きていくためには。

 なにせ、この宇宙は想像していた以上に混沌としているからだ。


 いろんな星に、モンスターが生息している。

 中には、星から星へと宇宙空間を飛び回って人を襲う侵略生物もいるという。

 宇宙人も千差万別で、平和的種族もいれば、とにかく戦うばかりの宇宙人もいるし、悪意の固まりもいる。さらには、悪意が無くむしろ善意に満ちあふれた好意的なのに、他者を取り込み消化吸収するのが生態や文化という宇宙生物もいるらしい。

 星単位でも争いもあるし、星系同士の戦争もある。

 まさしく混沌としている。


 今俺たちがいる銀河帝国は、宇宙皇帝リギューラ・カ・ヴェネディクトゥヌス97世が統治している一大星間国家連合らしい。

 他にもいくつかの星間連合が存在していて、戦争状態だったり、協定を結んでいたりと様々なようだ。

 スノウのいた宇宙エルフ星系連合も、銀河帝国に参加するためにスノウが代表としてやってきたということだ。

 まあ政治的なことはよくわからないけれど。

 いちおう俺も帝国臣民ということらしい。実感はいままところないけれど。

 とにかく、こんな混沌かつ殺伐とした世界で生きていくためには、体も鍛えて武術も身につけないといけないし、言葉だって覚えないといけない。

 ひうやって一人で生きていける力を身につけないと、いつまでたってもユーリとスノウの庇護下……つまりヒモみたいなものだ。

 さすがにそれはどうよ、と思うわけですよ。男の子として情けなさすぎる。いや、こんな美少女二人に世話なるとかそれはそれで男冥利に尽きるけど、どうせなら頼られた上でお世話されたいだろう。

 今の俺って、社会不適格者で弱者な迷子少年が女の子に面倒見てもらっているだけだよ? 本当にそれはどうよ。

 なので、しっかりと訓練と勉強しないといけないと自分でも思っている。

 それはそれとして、すごくキツいけど。 


「'&YF}D_%(SA(株)"$#|~_<< ……今私はなんと言いましたか?」

「……わかりません」


 道は遠い。




 勉強が終わってようやく解放された俺。

 ああ。風呂に入りたい。

 だけどこの星では、風呂に入るという習慣がないらしい。

 宇宙科学が発達しているので、体の汚れはレイシャワーとかいう殺菌光線のようなもので除去できるとか。なので洗濯という文化もないとか。

 ……味気ないなあ、と思う。

 ユーリ師匠曰く、入浴文化のある星や民族もあるということなので、風呂に入る機会はいずれあるとのことだが。

 でも日本人からしたら、いくら汚れは謎の科学できれいになると言われても、風呂には入りたいものである。


「……ふう」


 ベッドの上でため息をつく。

 俺が今いる部屋は、宇宙冒険者ギルドにある、宿舎だ。

 部屋代はユーリ師匠が払ってくれている。

 ……ヒモだなあ。俺。


 ちなみにユーリ師匠は勇者としてランクのいい部屋を支給されている。

 一緒に住むかと言われたが、全力で拒否しておいた。

 鬼師匠と言えど外見はかわいい女の子だ。しかもいろいろと無防備でもある。耐えられるかそんなの。

 そしてこういうのに限って、絶対に「据え膳」なんかではないのだ。わかってる。

 誘惑に負けたが最後、二度目の人生も終わっちまうわ。・


 スノウも同じようなことを言ったが勘弁してほしい。スノウはお姫様だぞ。下手したら俺の首と胴が宇宙泣き別れになってしまうわ。あの二人は本当にもういろいろと無防備だよ。

 お姫様なのに護衛とかいないし。いや、いたのか、ユーリ師匠が。

 ……ちょっとおかしい話ではある。帝国参加のための大使としてやってきた割には、警備がザルじゃないか? まあ、宇宙勇者のユーリがそれだけ一騎当千であるというだけかもしれないど。


 ……まあ、この宇宙の常識に疎い俺がいちいち考えることでもないんだろうけど。

 早くいろいろとみにつけないといけない。

 スノウと一緒にいられる時間も、限られているんだから、彼女を安心させられるように。


 ……それに、一人前の冒険者になれば、会いにもいけるし。

 俺は改めて誓いながら、睡魔にあらがえず、眠りに落ちていった。

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