第6話 勇者評議会
宇宙冒険者ギルド施設の最上階エリア。
そこに、宇宙勇者評議会議事堂は存在する。
すでに今回の話は簡単に通してある。
エレベーターの扉が開き、ボクとショウゴ君とスノウ姫が広間へと通された。
そこには、七つの席がある。
宇宙勇者最高位、七元徳と呼ばれる者たちの席だ。
本日出席しているのは四人。
禿げ上がった長い頭を持ち、白い髭を蓄えた老人、
【知恵】の勇者、ロード・ロヴァン。
まだ幼い少年の姿をしている、宇宙ハーフリングの青年、
【節制】の勇者、ロード・ガス。
白い前進甲冑に身を包み、その素顔を見た者はいないと言われ正体は様々な憶測がなされている騎士。
【正義】の勇者、ロード・ヴォリ=ジェイ。
宇宙司祭の地位も持つ柔和な微笑みを浮かべた壮年男性。
【信仰】の勇者、ロード・コールヴァン。
残りの三人は、それぞれの仕事があって出席できないと言うことだ。
「フーム、報告は聞いた」
ロード・ロヴァン老が発言する。
「スノウ姫、じゃな。フーム、長旅ご苦労であったわ。大変じゃったのう、フーム」
「あ、はい」
「そして、姫を救った勇敢な若者。
超古代宇宙語しか話せぬと……いうことじゃったな、どれ」
ロヴァン老が指を延ばし、宙に何かを描く。エーテル術だ。
次の瞬間、ショウゴ君の前に、文字が浮かんだ。
……映画の字幕のようなかんじで。
「翻訳魔術じゃ、フーム。音声翻訳ではないがの。
わしらには宇宙共通語で彼の前に文字が浮かび、彼の視点ではわしらの前に超古代宇宙語の字幕が、フーム。浮かんでおる。
これで姫に通訳してもらわずとも大丈夫じゃろう」
まあ、宇宙翻訳アプリも同じ機能があるんだけど。それを老はエーテル術で再現したわけだ。
「えっと、じゃあ私は……」
お役ごめんなのか、とスノウ姫がちょっと残念そうな顔を見せる。通訳、楽しかったのかな。
「いえ、問題ありません。
文字でわかるとはいえ、言葉が通じないというのは心寂しいもの。あなたは彼のそばで力添えをしてください」
そう言うのは、ロード・コールヴァン。
「いきなり追い出すのはさすがにどうかと思うしね、なんというか美しくない。大切なのは思いやりだよ」
ロード・ガスが言う。
「話を戻そう。
ショウゴと言ったな。貴殿の行動は評価に値する。
だが、問おう。
貴殿は、‘何’だ?」
ロード・ヴォリ=ジェイが言う。
「何と言われても……」
ショウゴ君が答えにつまる。
「スノウ姫の持っていたデバイスなどから、君の行動はある程度記録されている。
行動は何よりも雄弁だからね」
コールヴァンが言い、ホロディスプレイを操作する。
議事堂に映像が映し出される。
それは、ショウゴ君とスノウ姫の出会った時の出来事だった。
「これは……」
遺跡から、手が伸びて、スノウ姫の胸を、揉んでいた。
「……」
「……」
「……」
「揉んでる」
「揉んでるのう」
「揉んでるね」
「揉んでいるな」
しっかりと揉んでいた。
スノウ姫を見ると、胸を押さえて顔を赤くしていた。
うん、ああいうシーンを見せられちゃあねえ。
次に表示されたのは、ショウゴ君が海賊と戦う姿……
ではなくて。
「えっ」
ボクは思わず声を上げる。
二人をボクが救出したシーン。
ショウゴ君が、ボクの胸に顔を埋めていた。
「……」
そして次。
宇宙船スター・サファイア号のコクピットで、アーシュの胸を掴んで揉んでいるショウゴ君の姿。
「あと、ついでに」
冒険者ギルドでエーテル値の検査をしている時、計測装置を壊してしまい、その拍子にバランスを崩して倒れかかり、受付嬢さんの胸をしっかりと以下省略。
「揉みまくってるのう、フーム」
「揉みまくりだね」
「揉みまくっているな」
「揉みまくってますね」
「……揉マー、じゃな」
「揉マーか」
「揉マー……なるほど」
「揉マーですか……」
「なにこの公開処刑!! いっそ殺して!!」
ショウゴ君が絶叫した。
窓から飛び降りようとするショウゴ君をなだめすかし、議題を再開する。
いやもう、空気を仕切り直さないと。
「フーム。報告にあった宇宙遺跡だがな、どうやらあれは召喚装置であることは確かなようだ。
だがな、フーム。多少問題がな」
「問題、というと何なのさ?」
ガスが聞き返す。
「死者じゃよ」
「死者……ですと?」
ロード・コールヴァンが言う。
宇宙司祭としては聞き捨てならないのだろう。
「それは、彼はアンデッドということか?」
ロード・ヴォリ=ジェイが言うが、ロヴァンは髭をさすりながら首を横に振る。
「フーム、そうではない。そうではないのじゃ。
死した者の魂を異なる時代、異なる世界から呼び寄せ、新たな肉体を与えた。
つまり、異宇宙転生じゃ」
「異宇宙……転生……?」
ショウゴ君が呆然とつぶやく。
「じゃあ、俺は……あの時死んでたってのか」
「フーム。心当たりがあるようじゃの。
死者を蘇らせる事はいかなる勇者でも魔術師でも出来ぬと言われておる。
魂がまだ肉体から離れておらず、脳が脳死に至っておらなんだら、医術や治癒エーテル術で蘇生は出来るがの」
「しかし転生とは、それも死したときの肉体を再現する……これはすごいね。その遺跡。もう壊れて使えないのが残念た。
ねぇコールヴァン、これって神の領域を侵すやばい話じゃない?」
「いいえ。
神の御業は、エーテルの力を通して宇宙に現れます。つまり、現実に起きたならばそれは神のご意志なのです。
彼の存在が神の威光を揺るがすということはない……あくまで私の考えであり、宇宙教会の方々は違うでしょうが」
「というと?」
「鏖殺、でしょうね」
「うわー」
ガスとコールヴァンの掛け合いに、ショウゴ君はびびっていた。
「つまり、この事は極力、隠し通すべきということか」
と、ヴォリ=ジェイ。
確かに、この事実は公表したなら危険だろう。
死者を生き返らせる遺跡が実在する。
厳密には違うとはいえ、この事実は、全宇宙を揺るがしかねない。
「フーム。遺跡は破壊せねばの」
「ついでにこいつも消した方がよくない?」
ロード・ガスが物騒なことを言う。
「否、すでに彼の存在は一部に知られている。
王女スノウ、あの船に乗っていた者、そして……」
「宇宙冒険者ギルドの受付嬢とかね。
あーあ、真っ先にここにつれてくるべきなのを、暮雲者登録とかしちゃってくれてさ。
ね、ユーリちゃん。これって計算づくなのかな?」
「なんのことでしょうか」
とぼけておく。だけど当然、考えてのことだ。
冒険者として登録した存在が、勇者評議会に足を踏み入れてそのまま音信不通。
怪しすぎることこの上ないからね、そうなったら。
「フーム。さすがにそれは勇者のする事ではない。乳揉み魔とはいえ、正しき行いをした者じゃからの。加えて、自分の意志ではなく此処におる、巻き込まれた被害者とも言えよう。麗しき娘っ子の乳を幾度も揉んだことで釣りか――きておるとしてももな」
「もうその話はやめて」
ショウゴ君が言うが、みんな無視して話を進める。
「だけどさ、このまま放置とか無罪放免も駄目でしょ。特にひとつの星のお姫様の乳を揉みしいたのは重罪だよ。受付のおねーさんも人気だし、このままだと宇宙冒険者たちにリンチされるかもしれないしね」
「乳はどうでもいいが、確かに危険だ。
ではどうする?」
「我々で管理するしかありますまい。そもそも宇宙冒険者として登録されている時点で、我々宇宙冒険者ギルドの管轄になりますからね。さて、となると……」
ロード・コールヴァンがボクを見やる。
「それらを手引きした本人に、責任がありましょうや」
「え? ボク……ですか?」
「そうなるよねー。
ほら、冒険者が冒険で見つけたモノは、その見つけた本人にまず権利がある。それが重要なモノだったら、ギルドが買い取るという決まりでしょ。
遺跡は無かったことになるからアレだけど、彼は宇宙勇者ユーリ・ルルールに所有兼がある……いや、ちょっと違うかな」
「そうだな。召喚した王女スノウに所有権があると見るべきだ。この場合ユーリには監督権、管理権とでも言うべきだろうか」
「フーム。姫は冒険者ではない、だから権利は無いという声もあるやもしれん。だが、ユーリがショウゴ少年を発見したときはすでに召喚後じゃからの。難しいところじゃ」
「ここは二人の間で話し合ってもらうのがいいでしょうね。ですが、どちらにしろ宇宙冒険者としての仮の監督、管理は行わねばならず、それはユーリ殿の役目でしょう」
ロード・コールヴァンが言う。
どうやら流れは決まりつつあるようだ。
「俺の意志は?」
そんなものは無いんだよショウゴ君。
「ショウゴさんが……わ、わたしの……もの……? いやでもそんな、そういうのって」
スノウ姫は顔を赤くしている。
「そして強力なエーテル力。フーム。育ち方を間違えると、大いなる災いとなるやもしれん。
宇宙勇者ユーリ・ルルールよ、かの少年を鍛え上げる意志と覚悟はあるかの?」
この場の人間の視線がボクに集まる。
断ることだって出来るだろう。
何人もの勇者を育てた経験のあるロードがここには四人もいるし、ここにいない三人もしっかりと弟子を持っている。育てることに冠しては彼らのほうが適していると誰もか言うだろう。
だけど。
「はい」
ボクはまっすぐと答えた。
「……ボクが、彼を勇者として育て上げて見せます。
彼は未熟ながらとても強い力を持っていて、そして正しい心を持っています。
彼が勇者として育てば、必ずや銀河にとって希望に名値でしょう。いいえ……
ボクが、むしてみせます」
「みんなそう言うんだけどね」
ロード・ガスが笑いながら言う。
「そもそも勇者の見習いになるにもランクと実績が必要だ。王女救出は実績として……まだ多少弱くはあるし、ランクは言わずもがな。
簡単な事ではない、道は長いぞ、少年」
ロード・ヴォリ=ジェイがショウゴ君に向かって声をかける。
そう、宇宙勇者は宇宙冒険者の最高峰と言われている。勇者に弟子入りしたと言え、はいそれならばと勇者をなりれる事はない。勇者見習い、アプレンティスになることすら至難と言われているんだ。
ボクだって何年かかったことやら。
だけど。
「フーム。意志は決まっておるようじゃな。
では今日より、その者をおぬしの弟子とするがよい。
贔屓はせぬ。お主の指導と、その少年の鍛錬によって勇者へと導いて見せるがよい」
こうして。
このボク、ユーリ・ルルールに初めての弟子が出来た。
師匠かあ……いい響きだなあ。マスター・ユーリ。それともマギステル・ユーリ、いやマエストロ・ユーリとか?
うん、顔がにやけてしまう。
えへへへへ。
よーし、がんばるぞ!!
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