第5話 宇宙冒険者ギルド

.第五話 宇宙冒険者ギルド


 ボクはユーリ・ルルール。


 宇宙冒険者ギルドの宇宙勇者評議会から、【星空の勇者】の名を与えられている宇宙勇者だ。

【空】を冠する名を与えられるのは宇宙勇者の中でも実力を認められたものだけなんだよ。銀河帝国でも軍では将軍位相当の権威も与えられているんだ。

 まあ、軍のほうになんて出張っていないから、あくまで名誉職的なものだけど。本職は宇宙冒険者だしね。


 ボクは今回、銀河帝国の協定に調印するために訪れている宇宙エルフのお姫様の護衛の任務についたんだ。

 ボク以外にも、宇宙冒険者達が宇宙船を護衛していた。

 だけど……その船が宇宙海賊の襲撃を受けたんだ。彼女たちの移動は秘密裏に行われていたのに嗅ぎつけられたのか、それともただの偶然か。

 とにかく宇宙海賊たちをボクはバッタバッタと斬り伏せた。

 だけど、気がついたら護衛対象のスノウ姫がいなくなっていたんだ。

 彼女は脱出ポッドに乗って星に降りたらしい。

 ボクは宇宙ドワーフのアーシュ・シルヴェリと共に宇宙船スターサファイア号で星に降りて、彼女を救出した。

 だけど、それだけでは終わらなかったんだ。

 その日、ボクは運命の出会いをした。



「……うん、なに言ってるかさっぱりわかんないや」


 その男の子は、意味の分からない言葉をしゃべっていた。

 スノウ姫によると、超宇宙古代語を喋る……いや、それしか喋れないらしい。珍しい子もいるもんだ。

 スノウ姫から経緯をざっと聞いたところ、彼、ショウゴ・アラタはあの星にあった宇宙遺跡から出てきたらしい。

 アーシュはその話を聞いたら一も二もなくその遺跡のあるという洞窟に飛んでいった。宇宙ドワーフってそういうの大好きだからね。

 そしてアーシュが軽く調べた所、どうやらこれは古代の召喚装置らしい。

 完全に機能停止しているようだけど、それは召喚者が望むものを呼び出すというものだそうだ。

 つまり、海賊に追われたスノウ姫が、助けを求めて逃げていたときにこの遺跡に触れ、起動させ……


 そして、彼が現れた。


「となると、超古代の人間って事なのかな」

「どうかしら。それだけ古い人間を呼んだとは限らないわ。もしかしたら平行する別次元の宇宙からかもしれない。いずれにせよ、今の時代のこの宇宙から、ってことじゃないでしょ。私たちの言葉、全く話せないんだし」


 アーシュが言う。確かに、機能停止してしまった以上はログを辿り解析するのも無理だろう。

 まあ、それはいいよ。

 肝心なのは、あの子が危険な存在かどうかってことなんだけど……


「危険に決まってるわ、あの乳揉み魔」


 アーシュは断言した。シートベルトもつけないままの急旋回の結果、掴まれて揉みしだかれたらしい。まあ仕方ないよ、でかいんだもの。

 まあ、ボクも出会い頭に胸に顔突っ込まれたけど、あれは普通に不可抗力だしね。減るもんじゃないし。

 でもそれはおいといても。


「スノウ姫に召喚され、そして命をかけて姫を守って戦った。そこを考えると、まあ大丈夫なんじゃないかな」

「はぁ……甘いわよねユーリ様は。そんなの、自分の命が危なかったから戦ったに決まってるじゃない。

 あと、女の子だから下心があったのよ。そうに決まってるわ。というか決めたわ」

「ははは……アーシュってばキツいよね。

 だけど、注目するのはあと、これだよね」


 ボクは、置いてあるアエティルケインに目をやる。

 ボクの腰にあるものじゃない。

 洞窟で彼が見つけ、そして起動させたものだ。かなり古いものだけど、まだ動く。

 これを、起動させたというのだ。


「……勇者の杖は、勇者として選ばれたものか、あるいは」

「うん。エーテル数値が並外れて高いものしか起動できない。彼のエーテル値はすごく高いんだろうね。

 ……見てよ」


 そう言ってボクはそのケインのスイッチを押し、起動する。

 だが、ヴン、ジジジ……という音と共に、消えてしまいそうな刃しか出ない。


「かなり古いからね。まだ動くけど、ほとんど壊れかけてる。何より宇宙バッテリーが、ね。

 彼は、これを普通のケインのように起動させたんだ」


 勇者の杖は、内蔵したエネルギーによって動く。そのエネルギーが尽きたら当然、刃も出ない。

 残量はほぼ空だ。

 おそらくは、かなりの昔から、このアエティルケインのエネルギーは尽きかけていた。


「本人のエーテル力で、補ったっていうの? 待ってよユーリ様、それって」

「うん、あり得ないね。

 少なくとも、【空】の位階であるボクでも無理だ。

 七人の【元徳】の勇者でやっとだよ。

 自分のエーテル力を勇者の杖のエネルギーに変換して出力。それってとてつもないエーテル総量と、繊細な変換技術が必要だ。

 それを、修行も積んでないただの少年がやってのけた……これは大変なことだよ」

「……危険人物、ね。

 本人の性格や人格の問題じゃないわ。存在自体が危険よ」

「うん。だけど、悪い子じゃない、

 だから……」

「いやいやいやいや、待って待って宇宙勇者ユーリ様。あなたもしかして、まさか」

「うん。

 彼を、宇宙勇者評議会のもとで鍛え上げてみようと思うんだ」

「私反対。あの乳揉み魔が勇者? あり得ないわ。

 そんなことになったら、この宇宙が揉まれるわよ」


 よほど根に持っているようだ。ボクとしては、そんなおっぱいしているアーシュが悪いと若干思ってしまうけど。


「もちろん、ボク一人の一存じゃ決められない。

 だけど、客観的に見たら彼は出身不明、どこからきたのかもわからず宇宙共通語も喋れない、いわば宇宙難民だよ。宇宙冒険者ギルドに報告し身柄を確保する義務があるわけだしね」

「……まあ、それはそうだけど」

「そこからあとは、まあ勇者としての責務を果たすだけかな、うん」

「ごり押しする気ね」

「えー? そんなことしないよボク。本当だよ?」


 ちょっとお願いするだけだし。

 さすがに評議会の方々はともかく、普通の宇宙冒険者ギルドの職員たちは結構言うこと聞いてくれるもんね。

 やはり暴力……もとい、勇気と誠意と実力は全てを解決してくれるよ。



 というわけで、ショウゴ君とスノウ姫を助けたボクたちは、再び宇宙船に搭乗する。

 海賊たちに襲われた船だけど、致命的にダメージを受ける前に撃退したので、まだなんとか航行可能だった。

 煙噴いてるけど。

 まあ、首都惑星セントラルーンまでは無事にたどり着けるだろう。


「そんなわけで、キミは宇宙冒険者ギルドが保護することになると思う」


 ボクはそう説明する。

 ちなみにスノウ姫が同時通訳している。大変だなあ。

 セントラルーンについたら翻訳装置用意しないと。超古代宇宙語の翻訳アプリってあったかな。


 セントラルーンは、銀河の中でも文明が際だって高い星だ。

 高層ビルが建ち並び、宇宙ワイバーンや宇宙ペガサス達の引く宇宙馬車が空を駆け回っている。

 宇宙港に到着して船を降りたボク達はそのまま宇宙冒険者ギルドに行く。

 本当ならここでスノウ姫を帝国の議事堂へとお連れしないといけないのだけど、彼女がいなくなるとショウゴ君と会話出来なくなるんだよね……


「予定の日にはまだ時間あるので大丈夫ですよ」


 スノウ姫はそう言ってくれる。うん、いい娘だねぇ。すぐにでも休みたいだろうに。

 彼女の負担を少しでも軽くするため、ギルドには早く翻訳機を取り寄せてもらわないとね・


 ともあれボクは宇宙馬車をチャーターして、本部まで三人で移動した。

 そして到着する。百階建ての巨大な流線型の塔だ。


「ここが宇宙冒険者ギルド、セントラルーン支部だよ」

「支部?」


 ボクの言葉に、ショウゴ君が怪訝な顔をする。

 うん、知らない人はれっこう勘違いするんだ。セントラルーンが本部だって。


「宇宙冒険者ギルドは、銀河帝国とは独立した組織なんだよ。どこにも所属していないんだ。

 国に所属すると、政治的忖度とかあったりするからね。まあよくわからないけど」


 帝国からの依頼は受けても、命令を受ける義務はない、ということだそうだ。

 古い時代にそう帝国と取り決めたらしいね。もし帝国が暴走したとき、宇宙冒険者擬ギルドはその暴走を止めるための剣となり盾となるべし、とか何とか。

 まあ今のところ、帝国と冒険者ギルドの関係は良好なんだけどね。


「ここでキミはまず検査を受けることになる」


 宇宙冒険者を目指すならまず登録をしないといけない。

 身体検査、体力測定だ。

 特に、エーテル力の数値を測るのが大切だ。

 エネルギーの切れかけた勇者の杖を起動させうる強大なエーテル力、はたしてどれだけのものか……


 結果として言えば、測定不能だった。


 99999まで測れる測定器が爆発した。

 ま、まあボクのエーテル値も12万あるし、そこは想定範囲内だけど。それでもボクの時はエラー表示されるだけだった。まさか壊れるとは……

 ふふふ、楽しくなってきた。今度本部に連れていかないとね。20万は越えると見たよ。


 その他は、まあ普通だった。

 エーテル力による無意識の強化は行われていたようだけど、それを考慮して計測した結果は、まあ普通。

 とりあえず登録を済ませて、宇宙冒険者の基本アイテムの宇宙リストバンドデバイスを支給してもらった。

 腕に装着するアイテムで、通信機能やステータスオープン機能など様々な機能がある冒険者必携のアイテムだ。

 翻訳アプリもあるけど、超古代宇宙語のアプリはやはり手元にないらしく、現在取り寄せてもらっている。

 ちなみに登録料はボクが出しておいた。まあ経費だね。

 

「すげえな、なんか未来って感じだ……」


 ショウゴ君は感動していた。特に、「ステータスオープン」の音声認識で自分の登録データが表示されることに。

 宇宙リストバンドから投影されるホログラムディスプレイには、彼の名前、能力データが表示されている。


「レベルがあがったらスキルって増えていくのか?」

「キミは何を言っているんだ」


 ショウゴ君がわけのわからないことを言う。


「ここはゲームじゃないんだよ?

 レベルってのは総合的な実力を数値化した指針だよ。

 ランクは宇宙冒険者としての階級。キミは【青銅】だね、初期ランクだ。

【青銅(ブロンズ)】から始まり、【鋼鉄(スチール)】【白銀(シルバー)】【黄金(ゴールド)】【白金(プラチナ)】【真銀(ミスリル)】【赫金(オリハルコン)】の七段階のランクがある。

 強さや実績を考慮して、ギルドが決めるんだ。

 スキルはその人の持つ技能だね、自分にどんな技能があるかを自己申告して試験を受ける。資格があると認められたら、表示されるんだ」

「履歴書みてぇ……」

「まあそうだね、宇宙履歴書だよ。

 いままでどんなクラスだったかの経歴も表示されるし」

「宇宙履歴書」


 ショウゴ君はちょっとショックを受けているようだ。

 まあこれが現実だよ。


「さて、登録もすんだし、いよいよ評議会にお目通りしないと、だね」

「評議会って……勇者の、だったっけ」

「うん、宇宙勇者たちさ」



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