第4話 宇宙勇者

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 洞窟が揺れ、天井から瓦礫が落ちてくる。どうしたんだ、地震か? 火山の噴火か?

 そしてその爆音が再び響いたとき、


「ショウゴさんっ!」


 スノウが横を指さす。その方向には、壁に穴が開いていた。今の衝撃でだろう。

 そして宇宙ウッドゴーレムたちは、今の衝撃でバランスを崩し転倒していた。


「行こう!」


 俺はノウの手を引いて走る。今が千載一遇のチャンスだ!

 洞窟を走り、穴の方に出る。

 が――


「……嘘だろ」


 そこは、崖だった。

 切り立った崖の中腹に開いた穴だ。

 そこから見えるのは、広大な森林と岩山。

 空は太陽が無く、明るい月が三つ、昼間の空と大地を照らしている。

 うん、確実に俺のいた世界とは別だ。


「ショウゴさん……」


 スノウがぎゅっと俺の腕を掴む。

 どうしよう。

 飛び降りるのは論外だ。高すぎる。落ちて助かるとは思えない。

 横や上に、岩肌をよじ登る?

 無理だ。ロッククライミングの経験はないし、危険すぎる。

 だが、洞窟の奥からは宇宙ウッドゴーレムがやってくる。

 どうすれば、どうすれば……!


 そんな時、声が響いた。


「飛び降りて!」


 女の子の声だ。

 スピーカーで増量されたかのような声。どこから……


「大丈夫だから!!」


 ……迷っている暇はない。

 スノウを見ると、彼女も意を決したように頷く。

 俺はスノウを抱き抱えて、そのまま崖に飛び降りた。

 ……!!

 悲鳴を必死に噛み殺す。

 次の瞬間――


 俺たちは、何者かに抱き留められた。

 そして、柔らかい感触。

 俺の顔が、やわらかく弾力のあるものに埋まっている。それほど大きいというわけではないが、しかししっかりとした……


「あの、あんまりうごかないでくれるかな」


 それは女の子の胸だった。


「わっ、ごっごめん!」

「大丈夫?」


 凛とした、優しい声が聞こえる。

 俺とスノウをその細い腕で力強く抱き留めているのは、年の頃15、6ぐらいの黒髪の少女。


「キミが、彼女を守ってくれたんだね。ありがとう。キミの勇気を尊敬するよ」


「あ、あんたは……いったい」


 俺の質問に、少女は笑顔で答える。



「ボクは勇者。宇宙勇者……ユーリ・ルルール!!」


 宇宙船の甲板に立った、少女が高らかに名乗りを上げた。


 その声に呼応するように、洞窟から宇宙ウッドゴーレムが飛び出してくる。いや、墜落してくる。


「君たちは中に!」


 俺とスノウは、甲板のハッチから宇宙船の中に落とされる。非常事態なのはわかるけどもっとやさしくして欲しい。

 俺たちが落とされたのは、コクピット内部だった。

 椅子が四体あり、そのうちの先頭のひとつに小さな女の子が座り、操縦している。


「っ! ショウゴさん!!」


 スノウが声を上げる。


「どうした!?」

「この船、ドワーフ臭いです!」


 いきなり変なこと言い出した。


「あらごめんなさいね、宇宙ドワーフの手がけた一級品だからこの船。田舎くさい宇宙エルフには少々きつかったかしら?」


 スノウの言葉に、操縦席の少女が答える。

 口調からしてなかなかに気の強さ宇名女の子だ。


「あ、そのシートに座らないでね。葉っぱの汁臭いエルフの臭いって取れないから」

「安心してください、鉄錆臭いこんな所でくつろげるほど疲れてませんから」

「うふふふふふふ」

「おほほほほほほ」


 ……。

 あのさ、初対面でなんでいきなりこんな険悪な雰囲気で笑ってるの二人とも。怖えぇよ。

 あれか、エルフとドワーフは仲が悪いってこっちでもそういうものなのか。

 でも今は……


『アーシュ、今は操縦に集中して!』


 甲板の方から宇宙勇者の少女……ユーリの声が響く。


「はいよ!」


 アーシュと呼ばれた宇宙ドワーフの少女がレバーを操作し、宇宙船が急旋回する。

 どうでもいいけど、この宇宙のドワーフの女の子ってヒゲは生えていないんだな。小柄なふつうの女の子に見える。背丈や顔立ちに不釣り合いに胸がでかいけれど。


「どこみてるんです?」

「敵です」


 絶対零度の声が横のスノウさんから響いてきたので、そちらを見ずに速攻で答えた。


 宇宙船が旋回しその場から離れるが、墜落したと思われた宇宙ウッドゴーレムはなんと背中から翼を出し、空を飛んでこちらに向かってきていた。


「あいつら飛べるの!?」

「ええ、木は軽いからね」

「そういう問題?」

「そういう問題なの」


 俺の疑問にアーシュが答える。そういう問題らしい。

 そして宇宙ウッドゴーレムが、その口から次々と弾丸を飛ばしてくる。もはや何でもありだな!

 だが宇宙船は軽快な軌道で回転し、その攻撃を回避する。当然船の中も回転する。何かに捕まってないと頭をぶつけてしまいそうだ。


「ちょっ、どこ掴んでんのよ!!」


 必死で目の前の椅子を掴んだのだが、どうゆら掴んだのは椅子でなくて、その椅子に座っているアーシュだったらしい。

 それも、彼女の豊満な胸をがっしりと、力強く。


「あ、ごめん、わざとじゃ……」

「いいから離してよ!!」


 しかし離すと支えが無くなって壁や天井に激突してしまう。

 そしてこんな状況でも操縦をミスしないアーシュの腕前と胸は凄いと素直に感服してしまう。俺の手に収まり切らずはみ出るこの弾力。これが宇宙か。ユニバース!!と叫びたくなってしまう。


 なお、先ほどから無言で俺を掴んでいるスノウ様の方はあえて見ない、振れないでおくことにする。

 今はもっと大事な感触……もとい、戦況がある。そもそも、こんな回転運動で、宇宙船の甲板に立っていたユーリは大丈夫なのか、落ちてはいないのだろうか。

 だがその心配は無いようだった。

 モニターのひとつには、甲板の状況が映し出されている。

 そこにはどういう理屈か、しっかりと立っているユーリの姿があった。


 ユーリは手に持った剣の柄……アエティルケインを横薙ぎにふるう。

 いくつもの光の玉が、彼女の眼前に展開する。

 そしてそれが、強烈な光を放ち、まるで昼間の星のように輝く。


「スターシュテルン……グリッター!!」


 ユーリが叫び、アエティルケインを振る。

 それと同時に光の玉が、いや星が輝きながら三体の宇宙ゴーレムを次々と襲い、貫き、穿っていく。

 三つの爆発が、空に灯った。


「すげえ……」


 それを呆然と見つめる俺。

 その時、崖の上から煙が走り、そして宇宙船が飛び出した。


「あーばよ嬢ちゃんたち!!」


 アーラフの声だ。さすがに分が悪いと逃走に走ったようだ。

 だが、この宇宙船はアーラフを追わない。、ユーリもアエティルケインの光の刃を仕舞う。

 ……彼女たちの目的は、あくまでもスノウ救出のようだし、後追いに意味はないとのことなんだろう。


 ……ひとまずは、助かったという事か。

 これでようやく安心して……


「いつまで……握ってんのよっ!!」


 次の瞬間、俺はアーシュにぶん殴られ、意識を刈り取られた。

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