第3話 勇者の杖
「……$#]]Hjgv&'(」
俺にしがみついていたスノウが、意を決したような顔で、男を睨む。
対した男は軽薄そうなギラついた笑みを浮かべたままだ。
この二人が兄妹や夫婦恋人とかで、男が助けにやってきた……とかでは絶対にないのは俺でもわかる。
だけど、言葉が通じない以上なんともしがたい。
いや、だけど。
万国共通のボディランゲージもある。喋ったら通じずとも通じるかもしれないじゃないか。
意を決して、二人の間に出てみる。
「えーと、もしもし。事情はよくわからないけど、仲良くするべきだと思うんです」
最高の笑顔で、両手を広げて騙りかけてみる。
「<msd)(d}」
「ひゃっ!?」
通じなかった。男が銃を俺の足元に撃つ。
「3'&%$$5]]AXx<x()&#」
男が何か言ってくる。
スノウが言った。
「あの人は……私の乗った宇宙船を襲った宇宙海賊です。
えっと、『なんだお前は? つーかわけわかんねぇ言葉で喋ってんじゃねぇ、わかる言葉で喋れ』と言ってます」
「そういわれても……」
「……私が、頑張って同時通訳します!」
……いいの?
結構大変だろうそれ。まあ、だけど話が通じないとどうにもならないし、ここは彼女の言葉に甘えることにする。
そういうわけで……
「俺の名は新田祥吾。地球の日本出身の学生だ」
「チキュウ? 聞いたことねぇ星だな。まあどこぞのアカデミーの坊ちゃんが迷い込んだってとこか?
よーしよしよし坊ちゃんに説明だ。
そいつは俺のモノだよ、この宇宙海賊アーラフ・ヴォンロード様の獲物さぁ。
その嬢ちゃんを手に入れるためにわざわざ帝国の船を襲撃したこのリスキーさわかるだろ?」
さっぱりわかりません。
「ところがいざ襲ったら脱出ポッドで逃げやがった、だから慌てて追ってきて撃墜したってわけだ。全く手を焼かせてくれるぜ。
見た感じ近くに船も無いし、お前も墜落して彷徨ってるクチか?
この星は残念だが無人の星でね。脱出できるのは俺の船だけだ。
さて坊主、選択肢は一つ、答えも一つだ。そいつを大人しく渡せ、そしたら俺の船で家まで送ってやるぜ。
拒否権はねぇ、拒否したら死ぬだけだ」
総意って海賊……アーラフは銃を突きつける。
軽薄な笑みを浮かべているが、本気の目だ。
やばい。
死ぬ。殺される。
足が震える。
ついさっき、死ぬような目にあったが……あれは一瞬の事だった。
だけど今度は違う。
死が、突き付けられている。
あの男が引き金を軽く引くだけで、俺は死ぬ。
汗が吹き出る。
呼吸が荒れる。
目眩がする。
視界が歪む。
だめだ、俺は――
その時。
「ん? なんだァ、嬢ちゃん」
スノウが、俺とアーラフの間に立った。
俺を庇うように、両手を広げて。
「……ショウゴさんは、関係ありません。
だから、手を出さないでください」
「……お前次第だ。まあその様子だと、聞くまでもねぇか。話が早いヤツは好きだぜ?」
アーラフはそう言って銃口を降ろす。
「ありがとうございました、ショウゴさん」
スノウは俺に振り返って言う。
小便漏らしそうなほどびびってる、情けない俺に対して、笑顔で言う。
「……私、助けてって言ったんです。
怖くて、とても怖くて心細くて。
そしたら、あの遺跡から、あなたが出てきた。
急なことで、何がなんだかわからなくて、でも……
少しだけ、怖いのがまぎれて。助かりました、ありがとう。
そして、迷惑をかけてごめんなさい」
違う。
助けられたのは俺の方だ。
何も知らない世界に放り込まれたとき、君がいた事でどれだけ救われたか。
だけど、俺は君を助けてなんかいない。
何もできていないんだ!
このまま何もできないまま、また助けられる?
彼女を見捨てて、彼女と引き換えに、犠牲にして助かる?
認められない。そんなこと、出来るか!
走る。
俺き走る。震える足を殴りつけ、恐怖を押し殺して走る。
なんでもいい、武器!
そこらへんに落ちてる石でも棒きれでもいい!
ア-ラフが銃を撃つ。
俺の足元を光線が穿つが、気にしない。
二発目が、俺の左腕をかすめる。
熱い! 痛い!
だけど、気にしていられるか! 撃ち貫かれたわけじゃない!
それでも痛みによろめくが、そんな俺の視界に鉄の棒が愛知ていた。
30センチぐらいの金属棒。銃に対しては武器にもならないだろう。
だけど、ぶん投げたら牽制にはなるかもしれない。
俺は迷わずにそれを拾う。
拾って、握りしめた。
それが、何であるかも知らずに。
アーラフが再び銃を撃つ。
威嚇でも牽制でもなく、俺の命を奪うために。
だが――
「なっ!?」
アーラフの驚嘆の声が響く。そして、スノウの息をのむ声が聞こえる。
アーラフの撃った光線は……
俺が持った金属棒から伸びた、光の刃によって弾かれていた。
「な……まさかそれは勇者の杖!? てめぇ、宇宙勇者だったのか!」
アーラフが叫ぶ。
宇宙勇者? なんだそれは。
「勇者の杖、アエティルケインです。
宇宙勇者のみが使えると言われる武器で、実際には宇宙勇者以外でも使えますが……」
使えるんかい。
「強力なエーテル力が無いと起動すらできないと言われる武器です!
ショウゴさんのエーテル力って、もしかして……」
ものすごいのか?
いや、そんなことはどうでもいい。
この、例えるなら国民的ロボットアニメでロボットたちが持つレーザー剣のような、勇者の杖。
これが役に立つなら、願っても無い!
「ぜりゃああああっ!」
俺は叫びながら、アエティルケインを振るう。
剣術なんて習ったことがないので無茶苦茶なものだが、それでも……
「ちっ!」
アーラフは後退する。
先程の偶然光線銃を弾いた事が功を奏したのか、明らかに警戒してくれている。
このまま追い返せれば……!
「宇宙勇者が相手となると、ちと分が悪りぃな!」
狙いもつけずに銃を乱射して威嚇しながら後退するアーラフ。いいぞ、その調子で逃げてくれ。
だが……
「だからこいつらの出番よ!」
アーラフがポケットからスイッチを取り出して押す。
次の瞬間、天井の岩盤が崩れ、そして何やら巨大なものが落ちてきた、いや、降りてきた。
「な……ロボットぉ!?」
それはどう見ても巨大ロボットだった。
全長10メートルくらいだろうか。
「宇宙ストーンゴーレムです!」
「いやどう見ても金属製なんだが!? つかロボットですよねあれ! 燃えるけどやべえ!」
「ロボットではありません、宇宙魔力で疑似的に生命を与えられた動く石人形に宇宙金属や宇宙セラミックの装甲をつけているんです!」
「なるほど!」
納得した。納得したからって事態が好転するわけでもないけれど。
「やっちまえ!」
アーラフの号令に、宇宙ストーンゴーレムが答え、その拳を振り下ろす。
「くっ!」
思わずアエティルケインで防ぐ俺。
巨大な拳を俺の力で支えられるわけなどあるはずもなく……しかしこの武器の力なのだろうか、それでも強力な力の波動がほとばしり、ゴーレムの膂力と拮抗する。
だがそれも一瞬の事。その衝撃に耐えきれず、俺の足元に亀裂が入る。
次の瞬間、宇宙ストーンゴーレムの拳が地面をうがち、激しい爆音が響き、煙か舞った。
「ショウゴさんっ!」
スノウが叫ぶ。
「ふはははははは、潰れ……なっ!?」
アーラフが叫ぶ。
潰された俺――ではなく、宇宙ストーンゴーレムの頭部へとよじ登っている俺を見て。
俺自身、こんなことが出来るとは思っていなかった。火事場の馬鹿力か、それともこの宇宙に転移だか召還だかされた影響か、あるいは……
とある国民的マンガに出てきたように、星の重力が違うから運動能力が……というやつなのか。
そんなことは今はどうでもいい。
「宇宙ゴーレム、って言ったよな」
もし。
俺の知っているゴーレムと同じなら。
「弱点は……」
俺はアエティルケインを振りかぶる。
宇宙アイアンゴーレムの頭部装甲。確かにそこに見える、光る文字。
「emeth」と輝く、この宇宙で言うところの超古代文字。
それはヘブライ語で「真実」「真理」を意味するという。
その「e」を削れば、「meth」……「死」となり、ゴーレムに宿る仮初めの生命は消えると言われている。
この、ゲームでの知識が正しいなら、この宇宙で通用するのなら!
「はあああああああっ!」
俺はケインの刃を、その顔面に……「e」の文字に突き立てた。
「なっ……!!」
アーラフの驚愕の声が響くが、巨大な質量の石が崩れる轟音にかき消される。
……やった。
目論見通り、宇宙ストーンゴーレムは崩れ落ちた。残ったのは小石の山と、巨大な鉄の鎧だけだ。
「ショウゴさん!!」
スノウが駆けてくる。俺はなんとか笑顔で返すと、天井の穴から俺たちを見下ろしているアーラフに言う。アエティルケインの刃を突きつけながら。
「俺たちの、勝ちだな」
アーラフは言う。
「さすがだな、いい腕だ」
負けを認めてくれたか?
それは助かる。正直、まだ戦うとか消耗激しすぎて無理だ。
アーラフはそんな俺を見て言う。
「俺の宇宙ストーンゴーレムが一体だけだと誰か言ったかぁ?
いや、一体だけなんだが。
宇宙ストーンゴーレムは、な」
にやり、と笑う。
嫌な予感がしてきた。
次の瞬間、穴から落ちてくる、先ほどと比べると小さい、三メートルほどのロボット、いや宇宙ゴーレムたち。
おいおいおいおい!
「宇宙ウッドゴーレムが三体。
さてどうする小僧。
……お前はよくやったぜ。降参しな、やるだけのことをやりきった上で負けるってのぁ、恥でも悪でもねぇ。
だが、これでゲームセットだ。約束してやるよ、悪いようにはしねぇし、殺したり、そっちの嬢ちゃんを犯したりもしねぇ。
宇宙海賊の誇りにかけてな」
そう言って指を慣らすアーラフ。
その合図に従い、こちらによって来る宇宙ウッドゴーレム。
……どうする。
戦って勝てるとは思えない。逃げるか?
しかし動きはさっきの宇宙ストーンゴーレムよりも軽快だ。逃げられるとは思えない。
あの男を信じて投降する? 約束を守る保証はない。
どうする、どうすれば……!
歯を噛みしめたその時、
洞窟を爆音が襲った。
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