第11話 決着
土塁と木製の柵で作られた簡易陣地の前で、僕たちは足を止める。敵からの矢は飛んでくるが、この距離なら剣で払い落とせるので問題ない。
「いい。僕たちが先頭に立って突っ込むから、お前たちは後からついてきて、僕たちが撃ち漏らした敵を斬って」
「「「はっ!!」」」
これまで共に戦ってきた兵士達はこのメチャクチャな命令に疑問を抱かない。
「それから、あまり僕たちに近づきすぎないで。死ぬから」
「りょ、了解しました!!」
「じゃあ、行くよ!!」
オドの流れを速める。血が沸騰でもしているような感覚を覚え、破壊衝動が頭を支配する。でも、何故だか、凄く気分が良い。
「グルゥゥゥゥ!!!」
「ガァァァァ!!!」
8人全員が獣の様な唸り声を上げて敵陣に突貫する。
「な!何だ!?」
「少数で突っ込んでくるぞ!?」
「気でも狂れたか?」
呆気に取られた敵兵が、迎撃する前に、陣地の前まで辿り着き、木柵を蹴破り、殴り飛ばして破壊する。
「「「なっ!?」」」
「「「「ガァァァァ!!」」」」
「ひぃぃぃ!!」
手近な敵の顔を鷲掴みにし、そのまま指の力と、爪で持って、肉をえぐり取る。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」
「この!!」
「がぁぁ!!」
斬り掛かってきた敵兵の空いた胴体を思いっきり蹴りつけると、そのまま鉄の鎧を突き破って、蹴りが、相手の臓物まで潰す。
今の僕たちは四肢が全て、普通の人間には一撃必殺の凶器だ。
「ば、化物だ!!」
「ま、魔術師は!?」
「もう殺された!!魔具を持ってこい!!」
放たれる魔術を縮地で躱し、魔具を持つ敵に接近すると、その魔具を腕ごともぎ取る。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」
「何だ!!何なんだ!!コイツ等!!」
僕たちが敵の防御陣地に空けた穴は極小さいもの。でも、そこから入り込んだ八百の兵が穴を広げ、広がった穴から陣地に入った2千以上の兵が防御陣地を内側から破壊していく。
「見つけた!!第3王子!!」
「な!!寄るな!!下郎!!私はこの国の!!」
「やかましい!!」
「「「で、殿下をお守りしろ!!」」」
「邪魔だ!!」
「「「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」」」
僕と第3王子の間に入った兵士たちを抜き放った剣で切り飛ばし、そのまま第3王子の眼の前に接近する。
「こ、この!近づくな!!土民風情が!!」
振り下ろされる第3王子の剣。その剣を持つ右腕を掴み、そのまま握りつぶす。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」
「捕まえた!!」
「ひっ!!ひぃぃぃぃ!!誰ぞ!!誰ぞ!!!」
失禁しながら泣き叫ぶ第3王子の首を掴み、潰さない様に気をつけながら締め上げる。
「が、がはぁ!!く、くるちぃ!!」
王子の体を高く上げて腹から大きな声を出す。
「第3王子を囚えた!!」
「「「おおお!!!」」」
気づけば、周りは敵の死体と味方ばかりになっていた。高所から高く上げた第3王子の姿は未だに戦っている敵の心を折るには十分だった。
「そんな!!」
「殿下!!」
敵の戦意は削がれても、味方の兵は止まらない。陣が破壊された事により、勢いに乗って攻めかかってきた味方の万を超す軍勢は、戦意を失った敵軍の兵士に容赦なく剣を振るう。
「ぎゃぁぁ!!」
「や、止めてくれ!!俺達の負けだ!!」
「こ、殺さないで!!」
「降伏する!!降伏、ぐあぁぁぁ!!!」
敵が陣を敷いていた小高い丘が真っ赤に染まる頃、別働隊5千が到着し、更に残党狩りは激しさを増していく。
「此処までかな」
結局この戦は、第3王子軍1万の内、8千もの兵が屍を晒す前代未聞の戦となった。一方で、第5王子の軍の死者は僅か2桁であり、重傷者を合わせても損害は2百に満たなかった。
戦が終わった後、マクシミリアン王子号令の下、軍議が執り行われる事となった。
「第3王子の側近に話を聴いた所、やはり例の毒殺事件は第3王子主動の物の様だ。証拠も出てきた」
「おお!!」
マクシミリアン王子の言葉に、諸侯は色めき立つ。
「流石第5王子殿下!!よくぞそこまで」
「此方のザシャ殿に手伝って貰った。尋問が得意なんだ」
王子の紹介を受けてペコリと無言で頭を下げるザシャ君に、諸侯は、顔を引きつらせる。先程の戦以降、諸侯の僕たちに対する態度が変わった。嫌味を言うことは無くなり、その目には怯えの色が見える。
「な、なるほど。流石ですな」
「ああ。これで証拠も揃った。後は…」
「伝令!!伝令!!」
軍議の部屋に兵士が駆け込んでくる。
白い軍服に濃紺のマントを羽織、胸に赤地に剣が描かれた紋章を着けている。
「何事だ!?何故騎士が此処に?」
「国王陛下のご意識が戻りました!!つきましては、第3王子殿下、第5王子殿下には直ちに王宮に来るようにと」
「何!?陛下が!!」
「それは吉報だが…」
諸侯の反応は悪い。勝利が覆ることを恐れているのだ。
「解った。兄上は私の軍の手中に有る為、共に向かうと伝えてくれ」
「ははぁ!!」
マクシミリアンの言葉に騎士は素早く頭を下げ、部屋を後にする。
「で、殿下」
「何も心配要らぬ。正義は此方にあり、証拠も揃っている。そうであろう」
「それは、そうですが」
こうして、マクシミリアン王子は僕たちと共に王都へ向かった。因みに諸侯が恐れたいた事の半分は現実となる。陛下が第3王子を庇った訳ではない。今まで忘れられていた人が表に出てきたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます