第7話 指揮官

 兵力の目処が付いた僕たちの次の課題であった拠点問題だが、あっさり解決した。西の豪族領域のの東側に廃砦が在ったからだ。此処は以前アンブル砦と呼ばれ、200年前、西の豪族達がまだルベリア王国に併合される前は、西の国々への防衛拠点となっていたが、今は役目を終えて破棄されている。

 建てられた目的からも解るように、防御力は高く、規模も大きい。問題は200年経った事による劣化だった。石で作られた城壁や外壁は良いが、城門や内装はかなり痛み、朽ち果てている物も多い。


 修理と改修が必要であり、新たに増員し、2千人に膨れ上がった犯罪奴隷達を指揮して、先ずはその作業を行うことになった。


「砦の改修は時期に目処がつく。皆も兵を指揮する練習になって良かっただろう?」


「確かに、最初は酷かったもんね」


 全員に僕たちには敵わないと徹底的に解らせているから反抗してくる者は居ないけど、見てない所でサボったり、スキを見て逃げようとする連中は多かった。


「大分慣れてはきたけど、やっぱり2千人もの数を8人で動かすのは大変よ?マクシミリアン王子が立太子する時に罪を帳消しにすると約束して、やる気を出してる者も居るけど、基本的に怠ける人が多いもの」


 エマねぇの言に全員が頷く。今はまだ、修理等の作業だから良いが、戦場で自分達も戦いながらこの人数に指示を出し続けるのは難しい。


「確かに、指揮官にはそれなりの技量が必要だからな。どうしたのもか」


 マクシミリアン王子もこの件には頭を悩ませる。貴族が味方に付いてくれれば、経験のある指揮官も居るだろうが、今の所、その予定はない。マクシミリアン王子は今日までに、可能性が有る貴族に手紙を送り続けていたが、一向に味方になってくれる貴族は現れない。

 唯一の収穫は、田舎の村1つだけを領地とする老騎士の勲功爵が、マクシミリアン王子の妃や側室、子ども達を匿ってくれている事が解ったくらいだ。

 しかし、老騎士からは、不憫に思って保護したが、何時までお役に立てるか解らないと言われており、安堵できる状況でもない。

 マクシミリアン王子としては、一刻も速く挙兵し、妻子や側室を、この砦に招き入れたいと考えているようだ。


「思ったのだが、1つ良いか?」


「何?ドミニク兄さん?」


「全員。何人までなら戦いながら兵の面倒を見れる?」


「う〜ん?頑張っても百人?」


「たぶん私もそのくらい」


「そうだな」


 皆が口々に言う中、ドミニク兄さんは我が意を得たりと言わんばかりに頷く。


「なら、とりあえず、10人で1組の10人組を作る。俺達8人の下には、10人組を10個配置して100人隊を作る。これならどうだ?」


「残る1200人はどうするの?」


「犯罪奴隷の中から、盗賊団を率いた経験の有る者を選んで、小隊長にする。小隊長が組長をする10人組の下に他の10人組を2つ配置する形だ。必要に応じて100人隊の下に小隊を置くようにする。

 どうだ?」


「40人も居るかな?盗賊団の頭だった人」


「頭じゃなくても幹部なら指揮を取った経験は有るだろう。それでも足りなかったら、適正のありそうな奴を選別する」


「その場凌ぎだけど、まあ妥当かな?」


「だね。王子はどう思います?」


「ああ。それでやってみると良いだろう。他に手もない」


 マクシミリアン王子も賛成し、満場一致でこの案が採用される。


「そうと決まれば早速実践で試したいな」


 ヤン君の言葉に、マクシミリアン王子は顎に手を当てる。


「そうだな。それならいい方法がある」


「お!何ですか?」


「先ずは、魔物の領域で戦わせることだ」


「魔物の領域?」


 聴いたこと無いけどな?


「魔素が濃く、魔物や魔獣が大量に居る場所だ。危険で、普通の人間は住めない。此処から近いのは『アルカラの森』だ。

 後、君たちが住んでいたリガート山脈の奥地もそうだ」


「それだとちょっとアレかな?平穏に暮らしてる魔物の所に行って、殺して回るのは」


 気が引けると言おうとしたが、マクシミリアン王子は首を振る。


「あの森に居るのは角兎やゴブリン、オークやオーガ等だ。彼らは君たちの様に平穏に暮らしてなど居ないよ。数が増え、餌が足りなくなると森を出て近隣を襲う。それもかなり頻繁にね」


「まあ、そういう事なら」


「後、魔物の魔石は売れるから、資金調達に良い」


「そうなんですか?何で?」


 人間は魔石を食べて強化もできないから買い取ってくれる理由が解らないんだけど?


「魔石には、魔術を込められる。魔法道具の核に出来るんだ」


「魔法道具?」


「知らないのか?」


 オババ様に聴いたことがない単語に首を傾げる僕たちに、マクシミリアン王子は、丁寧に説明してくれた。要は、属性魔術を『付与』と言う無属性の魔術で魔石に込めた物を、取り付けた道具を魔具と言うらしい。

 付与の魔術は知っていたし、物に魔術を付与させた事は有る。しかし、普通の物に魔術を付与しても2〜3時間くらいで、効果が切れてしまっていたし、好きな時に発動できるわけでも無かった。魔石は特別なのだろう。

 魔具を持っていると、魔術師じゃなくても込められてる魔術は使える。無制限にでは無いけど、核となっている魔石のマナが尽きるまでは使えるらしい。


「魔具を作れる魔術師は一生生活に困らないと聴くな」


「え?魔術師なら誰でも作れる訳では無いんですか?」


 初級魔術である『付与』は誰でも出来るよね?


「属性魔術と『付与』を同時に使わないといけない以上、『並列発動』の技術が無いとできない」


「並列発動?」


「私も魔術師では無いからあまり詳しくないが、魔術を2つ同時に発動するものだ」


「え?それってできない魔術師居るんですか?2つ同時に発動しないと、『下級魔術』と『初級魔術』を重ねた『中級魔術』や『下級魔術』を2つ混ぜた『上級魔術』を使えませよね?」


 僕の言葉にマクシミリアン王子は苦笑する。


「やはり、カイル君は属性魔術を使えるのかな?」


「使えますよ!水属性だけですけど!」


 特に隠しても居なかったんだけど、言ってなかっただろうか?


「やはりか。水属性を使えるだけで凄いよ10万人に1人だ。普通魔術師でも属性は1つだけだよ。後、気づいて居ないようだけど、『並列発動』はとても難易度が高いのだよ。だから『中級魔術』や『上級魔術』は滅多にお目にかかれ無いのさ」


 知らなかった事実である。魔術師なら誰でもこれくらい出来ると思っていた。


「あれ?じゃあカイルも魔具作れるのか!?」


 期待を込めた眼でヤン君が話に入ってくる。


「出来るだろうね。魔石さえ有れば」


「そうなのか!!すげぇぇ!!作ってみろよ!カイル!!」


「でもさ。『付与』と同時に発動させなきゃいけないなら、込めれるの『下級魔術』だけでしょ?」


 水属性は『中級魔術』以上ならともかく、『下級魔術』で戦闘に使えそうな物は無い。


「確かに、戦場で使われる魔具の多くは「火」や「風」、「光」や「力」の属性を込めた物が多いね。後は、土属性で硬化させた武具の形の魔具も有るが、「水」や「闇」「生命」の魔術を込めた物はほとんど見ないな」


「何だぁ〜」


 ヤン君は目に見えたがっかりしたように肩を落とす。その仕草が僕の機嫌を損ねることを心配したのか、マクシミリアン王子はすぐにフォローする。


「しかし、水の魔具は、乾いた土地を潤したり、水の流れを操って船を航行しやすくしたり、血を操って、血中の毒や病を取り除く等と言うものも有る。戦時よりも平和な時に役立つ魔術だよ」


 マクシミリアン王子の言う水属性の使用方は確かに良いものだけど、ヤン君がつまらなさそうなのは変わらない。ヤン君は単に自分もド派手な魔術を使いたかっただけだ。平和利用できると言われてもそこまで興味を示さない。

 それに僕もそこまで気にしてなかったしね。


「で?話がそれちゃったけど、その森で魔物を倒して、魔石を売れば良いの?」


「ああ。兵士たちの訓練にもなるし、君たちにも指揮の練習になる。後は、近隣を騒がせる盗賊なども積極的に討伐しよう。近隣領主に恩を売っておけば、味方にはなってくれずとも、敵には付かないでくれるかも知れない」


「地道にですね」


「ああ。今のところはね」


 今後の方針が決まり、皆がそれぞれ動き出す。因みに、犯罪奴隷達の中で小隊長を選抜したのだが、これが中々難航した。犯罪奴隷の中に盗賊団の元頭等が8人しか居なかったからだ。

 仕方なく、殆ど小隊長は比較的マシだと思える者を選出したのだけど、これも様になるには時間が掛かりそうだった。しかし、そんな中で、ゲルト、フーゴ、バッソンの指揮ぶりは中々板に付いた物だった。

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