第42話 意地

イゼは剣を引き抜こうとするが、ビクともしない。

魔法少女の腕力が人間に負ける筈がないのにこれは一体どういうことか? イゼは激しい苛立ちを覚えた。

見たところ光悟は黒いスーツ、黒いネクタイ、黒い手袋、黒い靴と恰好こそまるでどこかのエージェントではあるが、それだけである。

以前、魔法少年がいるかもしれないという話題があったが、その類には見えない。

今度は思い切り力を込めると、見事に剣が光悟の手からすっぽ抜けた。

その際、手袋が切り裂かれる。しかし何故だか血は出ていない。


「貴様、何者だ!」


イゼはいったん後ろに跳んで、光悟から距離をとる。


「その薄汚い悪党の仲間か? お前も人を殺すのか!」


光悟は表情一つ変えなかった。随分と冷めた目でイゼを見ている。

それが気に食わず、イゼは羽を広げた。目の模様が光ると大量の鱗粉が噴射されるが、光悟はピクリとも動かない。

鱗粉が付着して、爆発を起こしていくが、それでもやはり光悟は動かなかった。

耐えているのではなく、全く衝撃が伝わっていないのだ。

光悟の体を纏う虹色のベールがすべてのダメージと衝撃を遮断している。


「俺は人を殺さない」


雲が割れ、虹色の薄明光線が和久井を照らす。

すると瞬く間に傷が塞がっていき、油でベトベトだった髪や服の汚れが取れていく。

こうして、あっという間にみすぼらしい恰好だった和久井が、普段と変わらない容姿に戻った。


「コイツ完全に人間じゃねェ! 化けの皮はがしてやる!」


アイはすぐに顎で市江と苺に合図を出した。


「です!」「だぞ!」


市江はハンマーを振るい吹雪を、苺はカーバンクルから火炎放射を撃って、光悟を狙うが――


「!?」


命中したと思ったが、そこで熱波と冷気が吹き飛んだ。

二人は思わず前のめりになってしまう。光悟に防がれたのかと思ったが、そこには摩訶不思議な光景があった。

何かが三つ、光悟の前で扇風機みたいに高速で回転していた。

右と左、中央やや上空に位置をとって三角形の並びを作っている。それが盾となって桃山姉妹の攻撃を防いだのだろうが、正体がわからない。

すると一瞬だけ、回転が止まった。


そこにあったのは『刀』だ。

三本の刀が浮遊していて、そしてまた回転を始めたがちょっと待ってほしい。

刀が宙に留まり高速回転するなんて普通ならばありえない。

そう思った時、巨大な『顔』が現れた。


「でひゃぁぁああああ!」


大きく仰け反って倒れる桃山姉妹。イゼたちも同じくらいに驚いていた。

刀は回転しながら光悟の周囲を旋回しているが、その上に半透明の巨大な『なにか』が腕を組み、座り、足を組んでいた。

鋲をたくさんあしらった赤いレザー生地の忍び装束に身を包んでおり、頭巾の上には赤いハットを被っている。

体格だけを見れば男だろうと推察できるが、なにしろ頭巾や手袋などで一切の肌を見せず、仮面を被っているため性別がわからない。

そう、仮面だ。『猿』の面だった。


「知らないユーマです!」


市江がそう叫ぶと、鼻で笑われた。



「ユーマ? キミたちの玩具おもちゃと一緒にされては困る」



正面。光悟の左隣に、同じくスーツ姿の男が立っていた。

長髪を結んでおり、一瞬女性かと見間違うほど美しい。



「彼は猿神さるがみ。すが雁木がんぎ!」



月神つきがみ依夢いむが名を叫ぶと、回転していた刀が二本、まっすぐに桃山姉妹めがけて飛んでいく。

剣先が眼前に迫って、市江と苺は体を大きくのけ反らせた。

これで突進してきた刀は回避できたが、刀はすぐに軌道を修正して再び姉妹のもとへ飛んでくる。

しかも刀は距離が近くなると、ひとりでに刀身を振るって市江たちに斬りかかってくるではないか。

すぐに市江のハンマーと刀がぶつかり合い、火花を散らす音が聞こえてきた。

市江は焦る。まるで透明人間が刀を握っているかのように動きは複雑だった。


「な、なんなんです! これ!?」


「これが神の力、ってね。フフフ……!」


月神は唇を吊り上げながら、うろたえる姉妹を見ていた。

一方、光悟の右隣には、これまた黒いスーツに身を包んだ緑色の髪の少女・月神つきがみルナが歩いてくる。

彼女は細い左手で、大型のジュラルミンケースを持っていた。


「でびゃぁああ!」「だぉぉぉお!」


浮遊する刀が桃山姉妹を弾き飛ばした。

二人が地面を転がっている間に、二本の刀が月神のもとへ戻っていく。

月神は持っていた金属製のソードホルダーを前にかざした。

色は黒と銀をベースにしており、スーツケースのような持ち手の下に刀掛台のように三本の日本刀を連結させていた。

戻ってきた刀は一度も月神の手に触れることなく、ひとりでに鞘に収まっていく。


「曲芸師の登場ってかァ! 笑わせんじゃねぇぞ!」


アイが走りだし、二丁拳銃から注射器を発射して月神を狙った。

しかしここでルナがフェードイン。持っていたケースを盾にして注射器を防ぐと、左手でスーツの裾を払い、素早く腰からハンドガンを抜いた。


片手のまま引き金を引くと、シュピッという音と共に弾丸が発射される。

アイは右へ跳んでそれを回避したが、そこで気づいた。

音や、銃のスライドが動いていないことから、電動ガンだということに。


「ははは! おいおいッ、笑えるぜェ! ンなもん効くわけねーだろ!」


ルナはその後も引き金をひいて弾丸を飛ばすが、アイは回避せずに真っ向から弾丸を受けた。

所詮はBB弾。魔法少女には痛みも、衝撃さえ感じない威力だった。

だがふと、おかしな点に気づいた。命中した弾がアイの体にくっついたままだ。


「確かにわたくしのコレは、玩具だけど……」


そこでルナが小さく唇を吊り上げる。


「魔法は、本物よ」


一瞬だった。アイの体に付着していた弾が割れ、そこから凄まじい勢いでつるが伸びてきた。


「う、うごぉおぉぉ!?」


蔓はすぐに太くなって棘が生えてくる。

あっという間にいばらのロープがアイを縛り付けた。

さらにそこへ点々と黒い薔薇バラが咲いていく。電動ガンが撃っていたのはBB弾ではなく、木魔法発動するための『種』だったのだ。


「おいおいおい!」


アイは力を込めるが、茨のロープは外れない。むしろ棘が食い込み、痛みが走る。

さらに咲いていた薔薇たちが淡く発光して、点滅を始めたではないか。


「オイオイオイオイオイッ!!」


ボフン! と音がして薔薇が爆発。衝撃と共に煌めく花粉が広がった。

茨のロープは千切れたが、花粉を思い切り吸い込んでしまった。

アイは咳込み、その場に崩れ落ちる。普通の花粉じゃない。体が痺れて、重くなってきた。


(クソ……! なんだコイツら! こんなのがいるなんて聞いてねぇぞ!)


だがすぐに花粉は吹き飛び、鱗粉に上書きされた。

イゼが羽を広げて高速移動で三人のもとへ距離を詰める。

あっという間にルナに向かって剣が振り下ろされた。

しかし感じるのは硬い感触。ルナの前に光悟が立っており、いつの間にか持っていた西洋剣でイゼの一撃を受け止めていた。

イゼは再び高速移動で月神の前に回り込む。左から右へ。胴体を切断するくらいの勢いで剣を振るったが、そこで剣は剣にぶつかった。


「馬鹿な!?」


そこには光悟が立っていた。再び剣で剣を受け止めたのだ。


「なぜ私のスピードについてこられるッ!?」


イゼは走る。そこに光悟はピッタリとついていく。

二人は高速で周囲を駆け回り、剣を打ち付けあう。体がぶつかったのか、剣がぶつかったのか、時に看板が落ちたり、建物の一部が崩壊したりと常人の視点では何が起こっているのか理解できない。


「来い」


それだけを言って光悟は加速した。

イゼもまたスピードを上げて彼を追いかけていった。


「街を破壊しないように? 相変わらず光悟さんは真面目というか、固いというか」


「だがそれが彼の魅力でもある。困ったものだけれど」


月神は呆れ顔のルナを通り過ぎて落ちた瓦礫の一部をつまみ取る。

何かを観察しているようだが、そこで二人は同時に動いた。

ルナはケースを振るい。月神はホルダーを振って鞘の部分で注射器を弾き飛ばす。


「チッ! クソッッ!」


攻撃を仕掛けたアイは、すぐに地面に膝をついた。

花粉の影響で力が入らないし、クラクラする。

この状態で月神たちを相手にするのは不可能だ。ならばと、次は銃口を混乱しているミモたちに向けた。


「げ!」


またコイツは! ミモの表情が変わる。

そう思った時には既に注射器がミモとモアの装甲に撃ち込まれていた。

つまりユーマのほうを狙ったわけだ。そのまま液体が注入されると、異変はすぐに起こる。


「あ、あれ!? ちょ、待って嘘でしょ!?」


「これっ! どうなっているんですか!?」



ミモとモアが驚いているのは、体が勝手に動いているからだ。

アイの注入した液体のせいだろう。二人を操り、かわりに戦わせようというのだ。

それを確認すると、ルナは右へ、月神は左へ歩いていく。


「ここはお任せくださいお兄様」


「ああ」


「ほらほら、コッチに来なさい」


ルナは電動ガンを空に向けて撃つ。

その威嚇射撃に釣られたのか、ミモとモアはルナに狙いを定めたようだ。

本人たちは必死に制御しているようだが、その努力むなしくネッシーの首が伸びて牙を光らせた。

スピードは速いが、ルナは一回転して振ったケースでネッシーの頭を弾く。

大きく右へ吹っ飛んでいくが首は伸び続けて、軌道を修正。

すぐに頭はルナの背面にまわりこむ。


「避けてください!」


モアが叫んだ。

ネッシーが水流を発射してルナの背中を狙う。水とはいえ、その水圧を真っ向から受けたらただでは済まない。

ルナは大きなケースを持ったまま走り出して水を避けていく。

ここは駐車場だ。少し走れば複数の車が止めてある。


ルナは車体の上を滑り、車の群れの身を隠した。

ネッシーは首を伸ばして高い視点からルナを探すと、すぐに発見したが、アクションは彼女のほうが先だった。

ハンドガンで長い首の部分へ弾丸を命中させていくと、瞬く間に木魔法が発動されて固い根がネッシーの首全体に張り巡らされていった。

茶色くて固い根っこはすぐに頭の先まで浸食し、口輪のように結ばれていくことで水流を撃てなくした。


しかしネッシーにはセカンドプランがあるようで、長い首をしならせるて発光する頭部で地面を叩くと、まるで水面を叩いた時のような波紋が広がっていく。

それを見てルナはこれから起こることを察した。素早く足下を撃つと、蓮の葉が生まれてそこに両足を乗せる。

しばらくすると周りに駐車してあった車が次々に地面に沈んでいったではないか。


どうやらネッシーの力で地面が液体のようになっているらしい。

ルナは無事だが、そこで目を細めた。モアが背負っていたネッシーの体が展開して、いくつものミサイルが発射されたのだ。

狭い蓮の葉の上では、ろくに身動きがとれない。

そこでルナは銃をしまい、どこからともなくドクダミの花束を取り出すと、それを空に向かって投げた。

花言葉は『自己犠牲』というらしい。だからなのか、ミサイルはルナを狙っていた筈なのに花束のほうに誘導されて、まったく違うところで爆発していく。


「やばい! ごめんッ! 無理! 止められない!」


声がした。ミモが大きなトンファーを持って飛んでくる。

ルナが下に手をかざすと、木魔法が発動して乗っていた蓮の葉が巨大化した。

葉の上に降り立ったミモが武器を突き出してきた。ルナはケースを盾にしてそれを受け止めるが、衝撃で葉の上を滑っていく。

グッと、踏みとどまると、動きが止まった。

どうやら持っているケースも普通のものではないらしい。普通はビッグフットの一撃を受けたら、粉々だ。


「いけない! 避けて!」


お次はモアの声が聞こえる。

ヒレで作ったクロスボウをルナに向けており、光が集中しているのが見えた。

同時にミモがバックパックにしていたビッグフットのパワーアームを分離させて発射する。

ロケットパンチと、青白い光の矢が同時に迫る。


ルナは腕を払い、大量の赤い薔薇の花びらを巻き散らした。

攻撃がバラの花びらを散らす。しかしどうだ、ルナはそこにはいなかった。

一体どこへ消えたのか?


すると――、突如、ルナがミモの右隣からいきなり現れた。

蹴りがミモの脇腹を撃つ。続けて抜いたハンドガンは連射モードに切り替えており、よろけているミモへありったけの弾丸をぶつけていった。

蔓が全身やトンファーに張り巡らされていく。そこからは次々とラベンダーの花が咲き乱れていった。


「あ……! うッッ!」


ミモが唸る。操られていながらもわかった。ラベンダーの花が異常に重い。

見た目は何の変哲もない花なのに、まるで鉄の塊みたいに重くて、武器を持っていられなくなる。


だからといってトンファーから手を放しても、どんどん蔦や根が伸びてきて体に纏わりついてくる。

もがけばもがくほど根や蔓が絡みつき、やがて完全に動きが停止した。


するとルナは側宙で高く舞い上がった。真下を、突進してきたモアが通り過ぎていく。

重そうに背負っているネッシーの体についているヒレから光が噴射して、地面をスライドしてきたのだ。こうして機動力を補うこともあるようだ。


一方でルナも大きなケースを持っているというのに身軽であった。

それだけではなく、空中で銃を抜いて地面に種を撃ちながら落下していく。

華麗に着地を決めると同時にルナを隠すように茨が広がっていった。


モアはネッシーの体からヒレを分離させると、ブーメランのように回転させながら茨を切り裂いていった。

ルナはまず後退しながらケースで一つめを弾き飛ばし、もう一つのヒレには銃を向けた。

引き金を引いて種を発射すると、一瞬で成長して赤い薔薇になる。

薔薇からは進行方向に向けて茎が伸びており、先のほうは削った鉛筆のように尖っていた。

その鋭利な部分がヒレに突き刺さると、花の部分が爆発し、勢いを殺して撃墜させてみせる。


ルナはケースから手を放して地面に落とした。

後を追うようにして銃からマガジンが自重で落下してくる。

ルナは自由になった右手をスーツの裏に伸ばすと、種が入ったマガジンを取り出し、銃の底部に押し込んでリロードを完了させた。

そして銃のハンマー部分をいじると、電動ガンを連射モードに切り替えてモアを撃つ。


すさまじい勢いで根がモアの体に張り巡らされていき、そこから紫色のキノコが生えてきて胞子を噴射させた。

吸入したモアはトロンとした顔になると、すぐに倒れてスヤスヤと眠り始める。

ネッシーも根でガチガチに縛られているため、完全に動きを停止させたようだ。

一息つこうとするも、そこでチラリと右を見る。


「やってくれるッ! アタシが相手だ。次はブチのめしてやるぜェ!」


「……退屈しないといいのだけど」


そこには調子を取り戻したアイが立っていた。

ルナはニヤリと笑ってそこへ突っ込んでいく。





「さあ、遊んでやるよ」


月神は走る。前からは苺がカーバンクルを前に突き出して向かってきた。

次々と炎弾が飛んでくるが、月神はそれを刀で切り裂いて加速していく。


『っておい! なんで炎が真っ二つになるんだぞ! おかしいぞ!』


「鳴神流の教えは森羅万象を切り裂く。たとえそれが炎であっても、水であっても、嵐でさえもね」


気づけば月神が目の前にいた。

苺は払われた剣を地面を転がることで回避した。

すると月神は、思い切り刀を真横に放り投げてみせる。


「どこ投げてんだ? バカなのか?」


「まあ、見てみな」


目で追うと、刀は地面に落下せず、回転しながら戻ってきて苺を狙う。


「ぎゃあああ! あっぶないぞ!」


カーバンクルは飛べるので、苺は空に舞い上がって刀を避けた。

しかし刀も空中を飛んで苺を追いかけていく。

だが一方で、ここで市江が追いついた。ハンマーを斜めに振るうと月神は後ろに下がり、回避する。


市江はぐッと踏み込んでハンマーを真横に振るった。

なかなかスピードである。月神はニヤリと笑ってそこにホルダーを合わせた。

ぶつかり合うホルダーとハンマー。ガードはできたが、衝撃に負けたのか、月神は地面を転がっていった。

しかし市江が追撃に走れなかったのは、いつのまにか二本の刀が浮いていたからだ。



「ひょえぇええ! です!」


刀が降ってきた。市江は後ろに跳ねて逃げていく。

途中、冷蔵庫の扉を開いて吹雪を発生させることで月神を狙った。

人間なら即、氷漬けの筈が、月神は腕で顔を隠すくらいで、強風が吹いてきたくらいのリアクションだ。

市江はムッとしながら飛び上がると、月神に向かってハンマーを振り下ろす。

同時に月神は持っていたホルダーを腰にセットした。同じくして刀が戻ってきて、月神の両手に収まる。


「どうッらぁあああ!」


迫るハンマー。

月神は両手に持っていた刀をクロスさせてそれを受け止めた。

すぐに市江は表情を歪める。競り合うまでもないと思っていたが、細い刀がしっかりとハンマーを受け止めているじゃないか。


「悪くない。なかなかのパワーだね」


「です?」


月神が市江のすぐ隣に立っていた。

はて? じゃあ今自分が押しつぶそうとしているのはなんだ?

ハッとする。市江の予想通り、ハンマーの向こうではクロスさせた『刀だけ』が浮いていた。

月神は刀を遠隔操作できるようで、わざわざ手に持っている必要がないのだ。

そこで苺のほうを追いかけていた刀が戻ってくる。

月神はそれを一度鞘に納めてから、即抜刀する。

刀から三日月のようなエネルギーが発射されると、市江に直撃した。


「ほぎゃあああああ! ですぅう!」


「市江! 大丈夫か!? ああもぉお! 怒ったぞ!!」


苺は空に舞い上がり、カーバンクルの口を開くと、中に光を集中させる。

炎が切り裂かれてしまうなら、もっと強い熱で焼き尽くせばいい。


「ノヴァ! ブラスター!」


赤いレーザービームが発射されて月神を狙う。

熱線は棒立ちの月神を貫くが、避けようともしないのはおかしい。

それに月神の体が揺らめいて、消えていくような?


「ぼげぇえええええ!」


衝撃。苺は猛スピードで墜落していく。

後ろにはホルダーを撃ち当てた月神が、浮遊していた


「あれは幻だよ。フフフ……!」


「卑怯だぞぉおお!」


というか月神が飛べるなんて聞いていない。

黒いスーツ姿なだけで、翼はないし、特別な装置を使っている様子もなかった。

すると月神は持っていた刀を小刻みに動かし始めた。

剣先に注目すると、なぞったところに墨のような線が浮かんでいる。


刀で字を書いているのだ。

なんで刀で字を書いているのか? 墨はどこでつけたのか?

そもそも何もない空間にどうして字が書けるのか?

いろいろ疑問はあるが、とにかく月神は刀で『雷』と書いた。

すると空が光り、倒れていた苺と市江に雷が直撃する。


「あびびびびびびび!」


電撃に痛がる様子を、月神は意地の悪そうな笑みを浮かべて見ていた。





大樹ユグドラス前。

湖の中央にそびえる島のシンボル。そこへ向かうことのできる唯一の通路、大きな橋で、剣をぶつけ合う音が聞こえた。

その音が聞こえるたびにイゼの中に激しい怒りが生まれた。誰よりも強くあろうとしたし、強くなければならないと思っていた。

だから攻撃が受け止められることが、たまらなく悔しい。


ましてや悪である和久井を守った男に同じ力が出せるのかと憤る。

両者、高速移動が解除されて勢いのままに転がった。

体を起こしながらイゼは剣を横に払う。それを光悟は剣を逆手に持って受け止めた。


イゼは跳ね、側宙した際に振るわれた両足で光悟を蹴った。

よろけた光悟だが、迫る突きは見えている。体を反らして紙一重でかわす。


しかしイゼは剣を引いて再び突きを繰り出した。

反らす。突き、反らす、斬り弾く。その応戦の中に隙を見つけ、光悟は剣を振った。イゼは剣を振った。

刃が擦れ合い、互いは位置を入れ替える。振り向きざまに再び剣と剣がぶつかった。

イゼは怒りのままひたすらに剣を振った。それを光悟は回避し、時に受け止める。


(ナナコ! 私は負けない!)


イゼの前に妹がいた。

彼女は泣いている。

悪い人を庇う人を許さないで。ナナコはそう言いながら死んでいった。

イゼは悲しみとも怒りともつかないうなり声をあげて剣を振った。

ぶつかり合う中、競り合う。二人の瞳が互いを捉えた。


衝撃の中、イゼのほうが早く動いた。

光悟の腹を蹴ると、その勢いで大きく後ろへ飛び上がりながらマントを広げて鱗粉を飛ばした。

キラキラとした粒子は体に付着した際に爆発して衝撃を生み出していく。

光悟は目を細めるくらいだが、それも一つの狙いである。

鱗粉が視界を隠したせいで、イゼが発射した斬撃に気づくのが遅れた。


「グッ!」


エネルギーが直撃して、光悟はきりもみ状に吹き飛び、倒れた。

立ち上がると、目の前でイゼが剣を振り下ろすのが見えた。

すかさず剣を横にしてガード、蹴ろうとしてくるのを体を反らして回避すると、前のめりになったイゼを斬る。

装甲から火花が散った。もう一発横に斬る。

しかしそこでイゼの突きが光悟の肩に入った。

光悟が後退していくと、イゼは羽が広げて眼状紋を光らせる。


「ッ?」


光悟は息をのんだ。

マントにある『目』だけが強調されて、周囲が真っ暗になる感覚に陥った。

首を振ると、闇は晴れたが、もう遅い。イゼが横から現れた。

衝撃、光悟は剣をまともに受けてしまい、地面を激しく転がった。

体を覆う虹色の膜がダメージを軽減させてくれたが、それでも痛みは骨にまで響いた。


「終わりだ! 覚悟ッ!」


イゼが剣先を真下にして降ってきた。

迸る冷気。イゼの剣が地面に突き刺さる。

どうやら光悟は再び高速移動ができるまでに回復したらしい。


「剣を下ろしてくれ。事情を説明する」


「黙れ! 悪党の言葉に耳を貸すほど、私は甘くない!」


イゼは剣を構えた。


「俺は違う。悪党じゃない」


「悪党は皆そういうのだ! 覚悟せよ! 言い訳ほど見苦しいものはない!」


仕方ない。

光悟も剣を構えた。

両者、無言で睨み合う。


「………」「………」


その時、光悟が、消えた。

冷たい風がイゼの髪を揺らす。

後ろ――、イゼの後ろだ。光悟は背後に回り込んでいた。だからイゼは後ろを見た。

しかし違うのだ。これはフェイント。

光悟は再び加速して、イゼの右に来た。


「そこだ!」


しかしイゼには見えていた。光悟が剣を払うよりも早く、イゼが剣を振り上げた。


「ぐぁアッ!」


光悟は衝撃で浮き上がり、橋から落ちる。

イゼはゆっくりと剣を下ろしたが、違和感を覚える。

着水の音が聞こえない。不思議に思って橋から覗くと、湖の一部が凍って光悟が膝をついていた。


「市江と同じ力か」


光悟は殺気を感じて、不思議と唇を吊り上げた。


「まいったなティクス。彼女は強いな」


『悪人ではないからね。俺のパワーが上がらないんだ』


頭に響く、声。


「それは……、いいことだ」


光悟は気だるそうに立ち上がると、左腕につけていた腕時計スマートウォッチを通話モードに変える。


「間違いない。ハート持ちだ。舞鶴以外にもいる」


『こちらは微妙だね。おそらく違う。ルナは?』


『私のほうも入っているとみて間違いないかと思います』


月神とルナの声が聞こえてきた。

向こうでも何かがぶつかる音や、飛んでいく音が聞こえてくる。そこに混じってミモの悲痛な声が聞こえてきた。


『待ってってば! 戦ってる場合じゃないでしょ! やばいんだって! パラノイアがいるんだって!』


最後のほうは声が上ずり、掠れていた。

イゼは唇を噛む。高速移動で戦っている際にも人の悲鳴は聞こえてきた。サイレンの音は聞こえてきた。煙は見えた。

もちろんわかっているからこそ、余計に腹が立つ。

しかれども、イゼには約束を守る使命があった。

それが世界で一番大切な妹を今も愛することだからだ。


「問題ない」


はっきりと、その男、真並光悟が言った。


「え?」


ルナの腕時計から光悟の声が聞こえてきて、思わずミモは聞き返す。

だから光悟はもう一度、答えた。


「俺たちが守ってみせる」






悲鳴さえも塗りつぶす風の音。

背中に爆弾をくっつけた人々は、手足をバタつかせながら無様に落下していく。

零した涙よりも先に体が落ちていくなかで、気絶する人もいた。何がどうあっても助からないことは誰だってわかる。

着弾地点にいる人々は、まだ何が落ちてくるわかっていない筈なのに、みんな顔をあげて、何かを指差していた。


「飛行機雲が見える! なんて速いんだ!」


「いや、あれは飛行機だ!」


「いやジェット機だ!」


違う。あれは、鳥だ。

翼を広げて飛んでいる藍色の鳥だ!


同時刻、海に沈んでいく人たちにはわからないが、海面を見た人たちが叫んだ。


「何かが水の中にいる。なんて速いんだ!」


「違う! あれは潜水艦だ!


「いいや! 新型の魚雷だ!」


違う。あれは、サメだ。

海面に背びれを出して泳いでいる緑色のサメだ!


時を同じくして、瓦礫に埋もれる人たちにはわからないが、歩道で人々が叫んだ。


「何かが猛スピードで走る車の間を抜けていくぞ!」


「なんて速いんだ。あれはバイクだ!」


「いやいや! 車輪がついたロケットだ!」


違う。あれは、ライオンだ。

タイヤを抱えているけれど、雄々しきたてがみを持った黄色いライオンだ!



見逃すな! その気高い姿! メタルが輝く神秘のボディ!

さあ行こう魂の兄弟たちよ! 世界を救うため。未来を守るため。

助けを求めた人々を誰一人とて見逃さない。

キミが微笑んでくれるなら、おれたちはそれだけでいいのさ。

それが、それが、それが――



ぼくらの、ジャスティボウ!



【知恵と希望のライガー!】


エンジン音を轟かせて現れたのはタイヤを持った黄色いライオン、ライガーだった。

ライオン型のバイクといったほうが正しいのだろうか。撮影ではオフロードバイクを改造したものを使用していた。

いずれにせよ崩壊したショッピングモールの前にやってきた。

目が光る。サーモグラフィーのように瓦礫の向こうにいる人たちのシルエットが浮かび、位置情報を取得、さらに健康状態が表示される。


『生存者多数発見! ただちに救助に入ります!』


たてがみが広がると、光が射出される。

すると瓦礫に埋もれていた人たちの体に虹の膜が張られて、途端に体の痛みが取れていき、不安が消えていく。

同じことが、それぞれの場所でも起こっていた。


【愛と勇気のジャッキー!】


猛禽類型のグライダー、ジャッキーが翼を広げると、羽がいくつも分離して飛んでいく。

それらは落下している人たちの腹部に付着すると、次の瞬間、パラシュートでも開いたように落下スピードが減少した。

それだけではなく、呼吸が陸地にいた時と変わらずにできる。

さらに落下することで感じた体温の低下もなくなった。

人々の体の周りには虹の膜が張られており、これが原因なのだろう。

そう、それはレインボーベール。


【夢と優しさのスパーダ!】


潜水機能搭載のサメ型水上バイク、スパーダの目から照射された光が虹のベールを与える。

水の中にいるというのに、呼吸ができるようになり、冷たい海にいるにも関わらず、体温は陸にいる時と同じになった。

さらに水圧の影響もなくなり、臓器への負担もなくなる。



場面はライガーに戻る。

瓦礫の中にいる人たちを虹のベールで保護すると、前輪と後輪が収納されて、両手両足が地面についた。

力を込め、吠える。

轟音と共に発生する衝撃波が、なんと瓦礫を全て粉に変えてみせた。

まだ終わらない。獣の雄たけびは続く。粉さえも消し飛び、炎もまた消し飛んだ。

こうしてショッピングモールという存在が消え去った。

むろん、下敷きになっていた人たちは保護されているので怪我一つない。


『ミッション完了!』


しかし、すぐに左を見た。

この事態を引き起こしたパラノイア、集合恐怖症のポルックスが走ってくる。


『敵勢力を発見! ビーストモードからバトルモードに移行します!』


変形トランスフォームは一瞬で完了する。

ライオンが立ち上がったかと思うと、頭部から別の頭が伸びてきて、ライオンの顔だったものは胸の装甲に変わる。

さらに肉球部分から五本指の手が伸びてきた。

こうして四足歩行から二足歩行のライガーバトルモードへ移行が完了する。


メタ的なことをいえば、スーツアクターが入るための形態である。

ポルックスは全身の目を光らせながら走り、両手を突き出してきた。

掌にも目があり、すべての眼球からレーザーが発射される。

無差別射撃。しかしライガーの胸装甲が吠えると、衝撃波でレーザーが粒子となって消し飛び、ポルックスも衝撃で倒れた。

すぐに立ち上がったが、駆け付けたライガーのパンチを胸に受け、手足をバタつかせながら放物線を描いて飛んでいく。


『エネルギーチャージ!』


ライガーが両手両足を開くと、胸部にあるライオンの顔へ光が集中していく。


『レオ・バスター!』


胸部の獅子が吠えると、エネルギーでできた巨大なライオンの顔が発射されて、立ち上がったポルックスに直撃した。

悲鳴と共に爆発が巻き起こり、ポルックスは粉々になって消滅する。


一方、海中にいたスパーダから無数のコバンザメ型マシーンが射出される。

それらは子供たちの脚にくっつくと麻酔と輸血の役割を果たす。

現在、子供たちの足首にはフックが突き刺さっており、そこから伸びる鎖に錘がつけられているため沈んでいるのだ。


『ひって酷いことするもんやの! 許せんわ!』


スパーダの鼻からチェーンソーが伸びてきて、シルエットがノコギリザメに変わる。


『ほこでちょっと待っとっけの。今助けるざぁ!』


チュイーンと音がしてチェーンソーが回転。

子供たちの脚についた鎖を次々に切り取っていく。

コバンザメロボは小さいがパワーはあるので、子供たちを引き上げて、浮上していった。


そこでチェーンソーがしまわれ、次は目が左右に伸びてハンマーヘッドシャークのような形状に変わる。

目から強力なライトを起動すると、真下にいる海洋恐怖症のプロキオンを捉えた。

敵は背中の触手を伸ばしてくるが、スパーダは開いた目と目の間から魚雷を連射して粉砕していく。

さらに魚雷は発射されていき、プロキオンの全身に着弾していった。


『ハイドロアロー!』


スパーダの口からカジキ型のエネルギーが発射されると、一瞬でプロキオンを貫いて爆発させた。



『トルネードクラッシャー!』


上空。

体を高速回転させながらの突進攻撃。ジャッキーの嘴が、カペラを貫いた。

爆炎から飛び出したジャッキーは一か所に集中させていた被害者のもとまで飛行するが、そこで重大な問題に気づいた。


『こ、こらアカン! なんちゅうエグい構造しとるんや!』


被害者の背中にある爆弾は、体内に突き刺すことで固定してある。

調べてみると、ありとあらゆるパターンを試してみても、爆弾を取り除こうとすれば脊髄が損傷してしまう。

陸地に被害者を連れていければジャッキー一人でも損傷させないような摘出手術ができるが、それまでに爆弾は爆発してしまう。

いくらレインボーベールを纏わせているからといって、近距離で爆発が起きれば、衝撃から肉体を守り切ることはできないだろう。


『気に入らへんッ! 光悟はん、マスター! 聞こえてまっか?』


マスターとはティクスのことだ。了解と、光悟たちは口にする。


「悪いが戦いはここまでだ。俺は人命救助に向かう」


「人殺しを助けたくせに! 都合のいいことを!」


イゼは剣を向けてくるが、光悟は首を横に振った。


「月神! ルナ!」


この二人にもジャッキーの声は届いている。光悟の言いたいことは理解できていた。


「やれやれ、もう少しイージーゲームを楽しみたかったが」


「素晴らしい! フフフ……! 私の輝かしいデビューをお兄様に見ていただくにはいいタイミングだわ!」


ルナは持っていたケースを地面に落とし、つま先で軽く小突くとロックが外れた。

そこでスーツの下襟を掴む。月神も肩の部分を、光悟は裾をグッと片手で掴むと――

一気に引き剥がすように手を払った!


「フルオープンだ!」


光悟が叫ぶと、マントを脱ぎ棄てるようにして黒い布が体から剥がれて消えていく。

ルナはワンピース姿に。

月神は犬耳と犬の尻尾を生やした和服姿に。

光悟は右腕だけが特撮ヒーロー・極光戦士ティクスの変身する紫の姿、ライトニングロードと同じになっていた。


「なんだ、その腕は……!」


「デザイナー曰く、騎士をモチーフにしているそうだ」


変わっていたのは腕だけではない。瞳の色と、髪の色が紫色に染まっている

背中には大きなマントがあって、風に靡いていた。


月神とルナにもいえることだが、スーツを着ていた時のシルエットと合っていない。か

といって高速で着替えたというわけでもない。


ルナは緑色の髪をかきあげて風に靡かせた。

傍には開いたケースがある。頑丈なそれが守っていたのは、今、彼女の前に立っているネコのぬいぐるみだ。


『どうぞお見知りおきを。私はフランソワ・シャルト・リューブリアン。気軽にシャルトと呼んでくれたまえ』



灰色の体に、黄色の瞳。美しいオス猫だった。

漫画、『月牙の刃』に登場する洋風の剣士だ。

羽飾りがついた、つばの広いノーブルハットから耳を出している。


『詩人チルチュールは言った。幻を愛するくらいならば、嘘を愛せと。お集まりいただいたお嬢さんたちには、それが理解できるかな?』


シャルトは、イマジンツールを発動する。

道具に与えられた能力を、持ち主となる人間に与えるシステムだ。

シャルトの体が一本のレイピア・『ルドルフベルタ』へと変わると、ルナはそれを掴み取り、鞘から刃を引き抜いた。


ルナの姿が変わる。

モチーフはシャルトと同じく三銃士を思わせる剣士。

全体的に赤を基調とした姿で、腰まであるケープマントにはシャルトの家紋と、オオミズアオという蛾をモチーフにしたロウズ家の家紋が記されていた。


右脚は無地、左脚は赤と緑の縞模様のニーソックス。

羽飾りと薔薇がついたノーブルハットから見える猫耳と、スカートに空いた穴から覗かせる猫の尻尾。


「体を流れるこの圧倒的なエネルギー! 目に焼き付けなさい! この月神ルナの美しさを!!」


そこでアイはハッとして、直後ムッと表情に変わる。


「ウゼェ。ウゼェな! いきなり現れてメチャクチャしてくれやがって!」


アイが走りだそうとした時、ルナが腕を払いマントを靡かせた。

風が吹く。魂が溶けてしまいそうなほど甘い匂いがしたと思ったら、コンクリートの駐車場に次々と花が咲き始めた。

黄色、紫、赤、ピンク、白。あっという間にアイは花畑の中だ。


「だからなんだ! 花なんて踏みつぶして蹴散らしてやるよ!)


足を上げようとして、気づいた。花が、蔓が、足に絡みついてくる。


「またかよクソッ!」


力を込めると引きちぎれたが、どうせどこに足を出しても花を踏むことになるので、またすぐに絡みついてくる。

数歩、歩いたところで息が切れてきた。

一方でルナには絡みついてこないので、花を蹴散らしながら走っていく。

注射器が飛んでくるが、当然のように剣で弾いて加速していく。


「フランソワ流・二式!」


踏み込んだ時、花びらが舞い、ルナの姿が消えた。

次の瞬間、アイの目の前にルナが迫っていた。


「ハムレット!」


「うぐぁあ!」


渾身の突きがアイのみぞおちに入る。

衝撃で足に纏わりついていた蔦がちぎれ、アイは後方に吹き飛んだ。

しかし花がクッションになって墜落時の衝撃はそれほどない。アイは胸を押さえながらもすぐに立ち上がった。


「ぐっ! ゲホッ! やってくれる……ッ!」


そこで気づく。ルナは剣を鞘に収めて、腕を組んでいた。


「ッ? なんだ? ナメてんのかテメェ!」


「ホホホ!」


「あァ!?」


「貴女、もう終わっていてよ」


アイは思い出した。銃弾が種で、撃ち込まれたら――


「ガアァアァ!」


みぞおちから薔薇が姿を見せ、一秒ほどで巨大化して爆発した。

衝撃と薔薇の強い香りに目が眩む。膝をつき、たまらず両手をついた。そこに蔦が絡みつき、完全に動きが封じられる。ダメだ、負けた。そう思った時、ルナの声が耳を貫いた。


「勢いよく吹き飛んだり転がったりしても帽子が脱げないのね」


アイは目を見開いた。大きな感情が彼女の意識を覚醒させる。


「ウゼェよ!」


吠えると、チュパカブラが分離して赤い霧を噴射する。

ルナがマントを靡かせると風が起こって霧は晴れたが、そこにアイの姿はなかった。

まあいい。どうでもいい。そんなことよりルナはキラキラした目で月神を見た。


「わぎゃッ! 危ないっですってコレッッ!」


市江と苺は回転しながら飛んでくる刀をかわすために走り回っている。

そもそもなぜ刀が飛び回るのか。それは月神のホルダーにセットされている二本目の刀が原因だった。

妖刀、『沢渡さわたり三条さんじょう』の鍔には、猿神・『すが洩雁木』が封印されている。


「鳴神流、壱式・猿回しによって、おれの思い通りに刀が動く」


しかし、ある程度慣れてきたのか、市江が刀の軌道を予測してハンマーで弾き飛ばした。

衝撃を受ければ刀はしばらく行動不能になるようで、その隙に姉妹は氷柱と炎弾を飛ばす。

月神は避けない。どこからともなく甲冑の肩についている大袖おおそでが飛んでくると、それが盾となって桃山姉妹の飛び道具を受け止めた。


「またです! それはなんなんです!?」


「この大袖は柴丸の師匠が使っていたものだ。これも遠隔操作でおれの盾になる」


「し、しばま……? え?」


月神は三本目の刀、雲雀坂ひばりざかを抜いた。

雉神きじがみ雛罌粟ひなげしの鍔がセットされており、その力で月神は空を飛ぶことができる。

二つの大袖が、月神の両肩付近に留まる。デザインはまさに雉の翼だ。

月神は地面を蹴って空に舞い上がると、刀を持ったまま体を丸めた。


「鳴神流2式・翔烈羽しょうれっぱ!」


縦回転を繰り返しながら市江たちのもとへ突っ込んでいく。

市江たちは後ろに跳んで回避するが、月神が地面に着地した時、彼を中心に凄まじい風が発生して市江たちを空に打ち上げた。


「ひぎゃぁぁあえええ」


驚いて叫んでみたものの、苺はもともとカーバンクルが飛べるし、市江もハンマーにジェット噴射があるので、滑空くらいはできる。

だから余裕でいたのだが――、地面では月神が腰を落として構えを取っていた。


「鳴神流砲帝式・伍式!」


沢渡三条を掴むと光が溢れた。

やばい気がする。苺と市江は目を合わせてそう思ったが、もう遅い。


「猿楽代表演目! 鎮藩ちんぱん五里ごり宇城うき!」


刀を抜くと再び赤い装束の猿神が姿を現す。

両手にあったのは小型のグレネードランチャー。それを躊躇なく発射すると、空で二つの爆発が巻き起こる。


「「ぴぎゃああああああああああああ」」


殺傷能力は低いようで、爆発の中から出てきた市江はバラエティー番組の爆発オチみたいに髪がアフロになって焦げ焦げになっていた。そのまま苺と共に吹っ飛んでいき、やがて見えなくなったところで空がキラリと光る。





「フッ!」



光悟は飛び上がる。

体を捻りながら剣を振るうが、イゼはそれをしっかりと受け止めた。

光悟は着地を決めると振り返る。距離はそれなりに空いており、二人のマントが風に靡いていた。



「説明している時間はない。終わらせるぞ」



光悟は腕輪・プリズマーを動かし、中に入っていた宝石を輩出させる。

浮かび上がる宝石を左手で握りつぶすと拳から光が溢れて、剣へ集中していく。



「望むところだ」



イゼが剣をまっすぐに構えた。

すると同じように剣が発光しはじめる。


「………」「……ッ!」


両者、同時に地面を蹴った。

高速で斬り合い、飛び上がり、まだ斬り合う。

そして落下していく中でも剣をぶつけ合った。


先に落下したのはイゼだった。叩き落されたのだ。

唇を噛む。血が出るほどに。


『一番のヒーローになって。悪者なんかに負けないで……!』


妹はそう言って泣き、そして死んだ。


「私は悪に負けるわけにはいかんのだ!」


光悟は剣を逆手に持って、振りかぶって降ってくる。


「エグゼ! ブリザァアアド!!」

「ラストスカリアァアアッッ!!」


イゼが輝く剣を横にして、叩きつけられた一撃を受け止めた。

激しい冷気と光がせめぎ合い、その中にナナコの影を見た。


幼い日の夜、イゼはナナコがいなくなっていることに気づいた。

心配になって探すと、道場で蹲っているのを見つけた。

すぐ傍にはイゼが稽古で使っていた木刀がある。祖母に叩きのめされているのを見て、不憫に思ったのだろう。


「ナナコが少しでも戦えるようになれば……!」


そう呟いていた。訓練をするつもりだったらしい。

しかし少し息が切れると、苦しくなってしまい、動けなくなった

今にして思えば、あの時の疲労が負担となり、妹の死期を早めてしまったのかもしれない。だからイゼは誓ったのだ。剣で負けるわけにはいかないと。


「ゼァアアアアアアアアア!!」


魂の叫びだった。

イゼの剣が、光悟の剣を打ち破ったのだ。


「ぐ……ッ! がはッ!」


光悟は地面を転がっていく。

持っていた剣は弾かれて宙を舞い、そのまま湖に落ちた。

イゼはトドメを刺すべく走り出した。光悟は素早く立ち上がると、マントを外し、それを投げる。

目くらましのつもりだろうが、イゼはなんのことはなくそれを切り裂いて突き進む。

踏み込み、思いきり剣を横に払った。光悟は後ろに下がりつつ倒れてみせる。剣が鼻先を掠めるが、クリーンヒットはしていない。


「だが倒れれば満足に動くことはできまい! 悪あがきもここまでだ!」


狙うは、光悟の心臓だ。

だがそこでイゼは空から伸びるオレンジ色の光を見た。

マントを投げて、ほんのわずかに気を逸らした時間でボタンを押していたのだ。

イゼが腹部に感じた違和感。見ると、腹に銃口が突き付けられている。


「うがぁあ!」


光悟が持っていた銃からエネルギー弾が発射され、イゼが吹き飛んでいく。


「い……、いつのまに銃を!?」


体を起こして気づいた。光悟の瞳と髪がオレンジ色に変わっている。

いつの間にかメガネをかけており、何よりも右腕のデザインも変わっていた。

イゼが意味を理解しかけた時、光悟は既に手にしていた宝石を銃の底部で叩き壊す。

破片が銃口に集まり、光に変わった。


「ラスト! バレット!」


オレンジ色の光弾が発射された。

イゼは体を反らしてそれを回避するが――


「がぁあああ!」


背中が爆発した。光弾が追尾してくることに気づかなかった。

まともに受けてしまったからか、イゼからモスマンが分離して消え去る。


「ジャッキー、様子は?」


光悟はイゼを見ず、時計を見た。


『そっちにもう向かわせてます! 月神はんのところにも到着してる頃でっせ!』


「了解。ちょうど見えた」


ツバメ型のロボットが飛んでくる。

目から光線が出て光悟に当たると、その姿が消えた。


『でまっせー!』


遠く離れたジャッキーから卵が排出される。

バリアで作られた殻が割れて、光悟が姿を見せた。


『よっしゃ! もういっちょでまっせーっ!』


ポン! と音がして卵が出てきた。

それが割れると、柴丸が姿を見せる。


『光悟殿!』


柴丸が刀に変わって光悟の手に収まると、姿が変わった。

和柄のケープマント、右手に刀、左手に西洋剣、強化形態アブソリュートムーン。

そこへジャッキーが飛来する。光悟の背中にピッタリとくっつき、精神をリンクさせることで、光悟が思うとおりにジャッキーを動かせるようになった。

光悟は翼を広げ、爆弾をつけられた人たちのもとへ飛んでいく。


「正義流・二式! ビリーフオブライト!」


光悟は躊躇なく爆弾を切っていく。

強引に取り外そうとすれば爆発する仕組みだったが、正義の刃は爆弾を蒸発させるように消滅させて無力化していく。

さらに剣や刀を振った際に発生する光が、被害者の傷を一瞬で癒し、後遺症が残らないようにしてみせる。


「あ、ありがとう……!」


わけがわからないことばかり。しかし、わかったこともあるのだろう。

被害者の一人がそう口にした。この言葉を光悟に向けて放つのが正解だと思ったのだ。光悟は何かを返そうとしたが、頭を下げるだけだった。


被害者たちを安全な場所に着陸させるように羽のパーツに指示を送ると、自身は月神たちのところへ戻ってくる。

そこでジャッキーを切り離して着地。勢いあまってしばらく地面を滑っていたが、グッと踏みとどまる。

一方でジャッキーはそのまま空中飛行を継続。すぐ近くにある展望台にやってくるとバトルモードに変形しながら着地した。

既に他の二体も到着している。三体のロボットは肩を並べ、ゆっくりと歩行した。



中央にいたライガーは、両腕を胸の前で交差させ、右腕が前になるようにX状にクロスさせる。

さらに一度腕を腰に戻して、また胸のほうに上げて今度は左腕が前にくるようにクロスを作って、また腰のほうへ引いて右腕が前になるようにクロスを作り、一連の動きを繰り返しながら歩く。


右にいたジャッキーは、掌が前を向くように、肘を曲げたまま両手を広げ、そのまま握りこぶしを作って、右拳が空に向いていたら、左拳が地面を向くように曲げ、一歩踏み出せば左拳が空を向いて、右拳が地面を向くように歩いた。


左にいたスパーダは電車ごっこみたいに、両肘を曲げて、指をまっすぐに伸ばし、歩くごとに肩ごと腕を縦に回すようにして歩いた。



一歩一歩前に進むたびに、いちいちへんてこなアクションを入れる。

無駄な動作のようにも思えるが、『当時の人間』にとっては必要なことだと思った。

ロボットということを子供たちに印象付けるために?

あるいは、その少し間抜けな動作で怖がる子供たちがいなくなるようにだ。

そう、彼らこそ、極光戦士ティクスを支えるサポートロボット。


『『『ジャスティボウ!!』』』


ジャッキーは両腕を右斜め上に伸ばし、スパーダは両腕を左斜め上に伸ばし、そしてライガーは両手を斜め左右に伸ばして決めポーズをとった。

ライガーの肩へ、光悟から分離したティクスが着地する。

すぐに地面に降り立つと、ティクスたちはフィーネの街を見下ろした。


『煙が出ている。ジャッキーは消火活動を! スパーダは川から敵がいないかを捜索! ライガーは人命救助に向かってくれ!』


『よっしゃ! ワテに任せときやーッ!』


『わかったでの。えれぇ人たち、おらんといいやがの!』


『了解ですマスター。我らがいる限り一人の犠牲も出すことはないと約束しましょう!』


三体のロボは変形してビーストモードになると、それぞれの役割を果たすべく離れていった。



「ライガー、ジャッキー、スパーダ、三体を纏めてなんと呼ぶかを決める際、じゃんけんで勝ったものが名付けようということになったんだが、それに勝ったのがスパーダだったんだ。彼はジャスティスとレインボウから文字を取り、ジャスティボウと命名したんだ。ちなみにスパーダのスーツアクターである佐野菱さんは実際に視界が悪くて重いスパーダの体で海に入るシーンがあるんだが、昔、プールで溺れてしまったのが原因で水がトラウマだったんだ。現場ではアクターを交代する話も出てたんだけど、なんと彼は見ている子供たちに勇気を与えたいとのことで、撮影の続行を申し出たらしい。まあとはいえ撮影した後でスパーダの中の人がどうとか表に出すのはやめてくれって佐野さんは笑いながら言ったそうだが。つまるところ彼はもしかしたらその理由を自分を勇気づける理由にしたのかもしれないな。ははは、おちゃめでありながらも勇敢な人だ。そうだろ月神、ルナ」


「エクセレント」「マーベラス」


「ふっ、そうだろうそうだろう」


満足そうな光悟だが、隣にいた月神もルナもずっと一点を見つめていただけで欠片も聞いていなかった。

それなりに一緒に過ごしてきたため、光悟が早口になった際の情報は耳に入れる必要がないと学習済みなのだ。

光悟も光悟で話し終わったとたん、嘘のように冷めた表情に戻る。

そして車の後ろに隠れていた和久井の前に立った。


「………」


何を喋ればいいのか、和久井にはサッパリわからなかった。

わからなすぎて、手が差し伸べられても、取る方法がわからない。

でも光悟にはそれがわかっていたらしい。有無を言わさず和久井の肩を掴んで強引に引き上げた。

棒立ちの和久井はしばらくポカンとしていたが、そこまで頭の悪い男でもない。光悟の腕が極光戦士の腕だったから、片手で持ち上げられたんだ。

どうにも乾いた笑いがこみあげてきて光悟のことを殴りそうになった。

しかし惨めすぎて自殺したくなるから、拳はそこにあった車にぶつけておいた。


「いけないぞ和久井。人のものを殴るな。というか物に当たっちゃダメだ」


「……いや、いやいやいや」


「?」


混乱。一瞬だけ真実が見えて、また見えなくなって、見えていたのは覚えていて。


「ずるいだろ」


「………」


「ずりぃだろ……、いやずるいって。ッッずりぃんだよお前はッッ!!」


和久井はサイドミラーを掴んで引っこ抜いてやろうと思ったが、無理な話だった。

でも光悟ならできるんだ。月神ならできるんだ。ルナならできるんだ。


「お前らだって! ぬいぐるみの力がなかったらオレと同じなんだ! オレとッッ!」


和久井は痛みを感じた。それはそれは酷い激痛だった。

だがこの痛みが体のどこから出ているのかがわからない。わかりたくもない。


「だから俺にはティクスになる義務がある」


力がないから『できなかった』人が、たくさんいるんだろう。

力が足りなかったから『諦めた』人が、たくさんいるんだろう。


「俺は、その人たちの代わりに正義を示すんだ」


和久井は腰が抜けたようにへたり込んだ。

思い出した光景がある。あれは、みんなでいた時の、そう、テレビだ。

つけっぱなしで話したり、ボードゲームしてたから、誰も画面を見ていなかった。


ドキュメンタリー。

内容はなんだったっけ? いじめられた子たちが集まって作ったスポーツクラブ? いや、それは来週だ。

たしか病気でもうすぐ死んでしまう子供の密着?

ああ、それは別の番組だったかな?

生まれた時に体の一部がなかった子供の話だったか?


まあ、なんでもいい。とにかくそういう感じの番組だった。

和久井はそれを低俗な番組だと鼻で嗤った。

悲しげだったり、感動的な音楽で盛り上げて涙を誘う感動ポルノだの偽善番組だのこき下ろしてやった。

斜に構えているつもりはなく、事実ネットには和久井と同じ意見の人間がたくさんいたし、それを見てきたから間違っているとは思ってなかった。


月神やルナだって興味がないと言っていた。

こういう境遇の人間は腐るほどいるからと、冷めた様子だった。


でも光悟のヤツはというと、泣いていやがった。

愚直に、馬鹿みたいに、まんまと策略にハマって、浅い男だと笑ってやった。キショイい男だ。

そうだ。気色悪い。泣かせに来てる番組で泣くなと。本当に浅いんだよ。呆れてくる。


でも今にして考えてみれば、彼らには何か一本、筋の通ったものがあるようだった。

月神やルナは腐るほどいるからこそ、それが減るようなシステムやアイテムを作ろうという先のビジョンがあって、光悟だってバグみたいな『善意』は貴重なものだ。

だから光悟にはティクスをがいて、月神には柴丸がいて、ルナにはシャルトがいる。


「光悟っ、オレっ、殺しちまったんだ。たくさんの人を――ッ! だから無理だよぉ」


また、しりもちをつきそうになる。けれども、それよりも早く言葉が届いた。


「お前は誰も殺してない」


「え……?」


「彼らにはマリオンハートが入っていない。生きているように見えても、それは幻だ」


和久井は頭を押さえた。それは、たしか――


「あ、あれ? あれ? え? オレ……、えッ?」


「落ち着け。お前は記憶を失っているんだ」


光悟は辺りを見回す。


「ここは地球じゃない。あの時と同じ、何者かによって作られた孵化する前の世界だ」


ジワリ、ジワリと、思い出す言葉。

マリオンハート。それは道具に魂を与える物質。

ゲームに入った時は光悟がゲームの中に入って、それは現実と同じ感覚で、でも現実じゃないくて。


「――……オレが、入ってたのか?」


その時、和久井は母の顔を思い出した。あんな顔ではなかった。

そうだ。この島にいる母は、母ではなかった。それは父も同じだ。


「和久井、この世界はどうやら舞鶴が深く関わっているらしい。だから持ち主であるお前の協力が必要なんだ」


和久井は頭を押さえる。

ダメだ。思い出せない。なんでここに来たのか。なんで舞鶴がいたのか。

そこで和久井は肩を掴まれた。ヒーローの腕でガッシリと。


「もう一度言う。お前は、誰も殺してない」


「で、でも……! そうだったとしても――ッ!」


「殺意を抱いたことは絶対に恥じるべきだ。でもお前は運がよかった。お前が傷つけたものにマリオンハートは入ってない。この世界を構成したものが用意した人形を壊しただけだ。俺はかつて過ちを繰り返さないために何度もやりなおした。だからお前も、やり直せばいい」


光悟はまっすぐな瞳で和久井を見た。


「俺は、未来のお前に期待する!」


「光悟……!」


和久井はたまらず一度、光悟から目を逸らした。

しばらくはそうしていたが、やがて目つきが変わった。

ギラリと。光悟を睨み、心臓部分を軽く小突いた。


「おせぇよ、カス野郎。もっと早く助けに来いバカタレが」


「いけないぞ和久井。人に向かってカスとかバカタレなんて言っちゃいけない」


二人、ニヤリと笑った。

和久井はフラつく足取りでミモのところを目指す。

光悟もついていこうとすると、月神が隣にやってきた。


「意外だったね。キミが彼を許すとは」


「和久井の話を信じるなら、もちろん殺人という行為は許されるものではない。ただハートがないものを傷つけたとしても、それは夢で人を殺したのと同じだ」


「だが真並くんはそれでもヴァジルたちは生きていると、おれに言った」


「魂は宿るものだ。たとえマリオンハートを持っていなくとも。それが生きていないことの証明にはならない。逆に魂があっても死にながら生きてるものだっているだろ? 俺はそう思った。だがそれは所詮、思っただけだ。俺の願いでしかない」


「………」


「俺はそれを現実にした」


光悟はルナを見た。申し訳なさそうに肩を竦めている。光悟がいなければルナはここに立っていなかっただろう。


「だが――、和久井は違う」


「なるほど。意外とクレバーでシニカルな考え方だったわけだ」


「エゴさ。いずれにせよ、和久井には和久井の考えがある。それは尊重したいが、だからといって俺が従うとは限らない」


光悟は自分の考えを尊重する。

だからこそプリズマーの黄色のボタンを押してライガーを呼び、藍色のボタンを押してジャッキーを呼び、緑のボタンを押してスパーダを呼んだ。

ジャスティボウは人を救うために呼ぶものだ。


「俺はもうここにいる。もしもここから先、和久井が悪意をもって誰かを傷つけようとするなら、俺はそれを止める。戦ってでもな」


光悟は表情を変えない。


「まあでも、そもそも和久井は誰かを傷つけようとしてココに来たんじゃない」


「それがわかるって?」


「ああ。幼馴染だからな」


光悟はそう言って和久井の後をついていく。


「へぇ、少し妬けるね」


「……え? いや、ちょ、今のどういう意味か詳しく聞いてもいいですか?」


月神と、涎を垂らしたルナも続いていった。

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