第37話 それがヒーロー
これで柴丸が月神に向かったため、光悟は元の右腕だけの変身に戻る。
殺すなら今しかない。ヴォイスはそう思ったが、そこで無数の魔法陣が現れて水の鎖が飛び出してくる。ヴァジルがヴォイスを縛り、動きを封じてくれた。
その隙に光悟は赤の形態に変身すると、拳を握り締めて炎を集めていく。
唸り吠え、光悟はそのまま渾身の右ストレートをヴォイスの胴体に叩き込んだ。
ヴォイスは一瞬表情を歪めたが、これならば問題ないと笑みを浮かべてみせる。
しかしプリズマーの門が開いていた。宝石のロックも外れていた。
ヴォイスを殴った衝撃で飛び出た宝石を左手で握りつぶすと、破片が光悟に吸収されいき必殺技が発動される。
さらにロリエも炎を生み出して光悟の拳へ吸収させていった。
「イグナイトブレイカー!!」
打ち込んだ拳が凄まじい爆発を発生させ、ヴォイスは地面を転がった。
立ち上がった時、腹部をパピの剣が貫いた。
これは攻撃じゃない、剣を通してパピの想いが注ぎ込まれていく。それはとても単純な願いだった。
「もう酷いことはしたくない! 光悟は良い人だからアタシも相応しい人になりたい!」
――なによりも生きて胸を張るの、正しく生きなきゃそれは無理。
だからね、ヴォイス。地球は壊しちゃダメなんだよ?
「ヴォイスッ! お願い……! わかって!!」
ヴォイスはパピを突き飛ばすと、刺さっていた剣を抜いて投げ捨てた。
「お前が人間のフリをするな! お前はパピ! 最低の女! 一番最初に死ぬキャラクターでそれ以上でも以下でもない! わきまえろッッ! お前の死が僕を輝かせる!」
月神が刀を投げた。
光悟はそれを掴み、再びアブソリュートムーンへ変身する。
『触れ合うことで考えを変えられるのが人間だ! 彼らは助け合うことでその力を高めていく! 言葉が伝わらないから諦めるんじゃない。だから人は絵を描いたんだ!』
ティクスの声がした。
『藍色は光悟くん。紫色はパピちゃん。青色はヴァジルくん。赤色はロリエちゃん。黄色は月神くん。緑はルナちゃん。オレンジは和久井くん。虹は一本の光じゃ生まれない。7つの光が集まって完成するんだ。パピちゃんは虹になったんだよ!』
「だったら元に戻してやるよ! いいか屑共! 僕は賢いんだ。学習してんだよッ! 人間がたくさん死んで泣けるのが最高だ! それが地球のルールだろうがァアアァア!」
ヴォイスは大剣を両手に持って光悟へ突っ込んでいく。
「最高のエンターテインメントのために! 地球も命も消えて亡くなれェエエエエ!!」
その時、光悟が剣を振るう。大剣の一つが弾き飛ばされた。刀を振るうともう一つの大剣も吹き飛ばされた。
光悟は刀を斜めに振るってヴォイスを怯ませると、そのままの勢いで体を捻りつつ回転。すくい上げるように剣を振った。
「ルール? ああ、俺も一つだけ知っている」
ヴォイスは空中に打ち上げられた。
光悟は両手に持っていた武器を投げ捨てると、プリズマーを展開させて中にある宝石を掴んで握りつぶす。
光が溢れた。両足を揃えて地面を蹴ると、凄まじいスピードで空に昇っていく。
「教えてやるぜヴォイス!」
光悟はヴォイスを通り過ぎてさらに上昇。一回転すると、右の拳を握り締めた。
「たとえどんなに時代が変わっても! どんな世界があったとしてもッ!」
七色の光が拳に収束していく。なんて眩い光なのだろうか。
おお見よ、あれが人間の持つ希望。決して濁ることのない正義の光なのだ。
「――絶対に変わることのないルールがたった一つだけある!!」
「そんなッ! そんな馬鹿なァアアアアアアアアアアア!」
その時、眩い虹色の拳がヴォイスの頬に突き刺さった。
「ヒーローはッ! 必ず勝つッッッッ!!!!!!」
ヴォイスは光を纏いながら地面に激突。大爆発を巻き起こした。
同時に地球に変化が起きる。
空にあった世界、つまりオンユアサイドが消えていく。
「だ、だずがっだぁあぁぁぁぅぉぉぉぁぁ」
和久井は全身の力が抜けたように崩れ落ち、真っ青な空を見上げた。
◆
倒れているヴォイスからマリオンハートが漏れ出ている。
空にある無数のモニタには、安心したように笑う人々が映っていた。
親しい人と抱き合い、死ななくていいのだと笑っていた。
ヴォイスは悲しくなる。今すぐ消え去りたかったが、手を差し伸べてきた男がいた。
「お前は死ぬべきじゃない」
光悟はヴォイスに手を伸ばした。
「俺と友達になろう」
「……何を言ってるんだ? 馬鹿なのか?」
「なぜだ? やり方は間違っていたが、お前の人を楽しませたいという想いは立派だ」
「!」
「お前にはマリオンハートがある。人が死ぬ物語を否定するつもりはないが、せめて人が死ななくても素敵な物語があるということを理解するべきだ」
赤が好き。青が好き。全ては許されるべきだが、歪んだ強要はよくない。
「全ての色を知ってくれヴォイス。お前のことを面白いと思った人間が面白いと思った作品の中には、きっと平和なものがある。お前もそれを見てから意見を決めてくれ」
「………」
「地球の住む人が、お前を愛した。ならきっとお前も人を愛せる筈だ」
アイデンティティを譲らないのは生きているものの証だが、他者を理解することもまた、心を持つものにだけできる特権なのだと伝える。
するとヴォイスは光悟の手を取った。目を擦るよりも早く。
そして、その体が徐々に粒子となって消えていく。
「信頼も心を持つものの特権でしょ? 光悟さん。僕は貴方を信じるよ」
最後に残ったのは巨大な光の塊だった。それはまだテレパシーで言葉を放つ。
【ヴァジルたちは僕の子供のようなものだ。彼らが持つ優しさは大切なものだと伝えていた筈だったのに、僕は道を間違えてしまった……】
期待も一つの教育だ。裏切るのが怖かった。
「なら正せばいい。次にお前がやりたいことはなんだ? ヴォイス」
【設定を変更してみるよ。傷つけあうヴァイラスやセブンを少しだけ別の存在に変えてみる。幸せなことが沢山起きる物語を紡いでみせるんだ】
世界が真っ白になる。今からはじまるのはロードじゃない、ニューゲームだ。
【あとは、これをキミに……】
ヴォイスは賢者の石を複製するとパピに渡した。
それを手にした時、パピの脳に全てが叩き込まれた。
創成魔法の使い方である。
【世界は僕が作り変える。だとすれば残ったエリクシーラーの使い道はキミは自由に決めるといい。さあ、パピ・ニーゲラー。キミは何を作り出すんだい?】
そこでヴォイスは消え去った。パピは月神を見た。月神は頷いた。
「マリオンハートはキミにやるよ。父には……、まあ上手く言っておくよ、ってね」
それよりもと月神は柴丸を抱きしめる。柴丸も尻尾を振って月神を抱きしめた。
『月神殿。キミと戦えたこと、拙者は誇りに思うでござる』
「ああ。ありがとう柴丸……! おれたちの時代に生まれてくれて。本当にありがとう」
声が震えていた。やがて柴丸は動かなくなり、マリオンハートが交じり合う。
『光悟くん。前の体が壊れる際、俺は何を伝えようとしたと思う?』
「――忘れないでくれ。正義は不滅だ。極光戦士ティクスは決して負けない。だろ?」
ティクスは嬉しそうに笑う
正解かどうかは言わなかったが、本当に嬉しそうだった。
『キミは俺の誇りだよ。俺が今までやって来たことは間違いなんかじゃないって、キミが教えてくれた』
「礼を言うのは俺のほうだ。ずっと、変わらないでいてくれて、ありがとう」
『ああ。本当にありがとう光悟くん。これからも困っている人を助けてあげてくれ』
そう言ってティクスは倒れた。ぬいぐるみに戻っていた。光がまた一つになる。
「パピは何を創るんだ? 何でも創れるんだろ? 世界で一番おいしいケーキか?」
「ちょっと! アンタ、アタシのことをなんだと思ってるのよ。ケーキ大好きすぎるでしょ。まあ一瞬思っちゃったのは事実だけど……」
パピは腕を組んで鼻を鳴らした。
「んなモン、一つしかないに決まってるでしょっ! アタシが創るのは――」
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