七の幕 後のこと 氷の竜を垣間見て

(さて、これで浄化を目指せる。もっとも、私にできることは……)


廃坑の向こう、変異率の描き出した呪われた島の一角から帰還した。

私は資料をまとめながら、彼方に見つけた氷の竜を思い起こす。

巴斯克神界アララールに似せた鋼鉄の龍と違い、己の意志を持つ龍。

あの時から私は、どれだけ強くなれただろうか。


(……変わっては、いないのよね)


この手に握る棍棒に、いかなる奇跡の力もない。

氷竜がひとたびその翼で宙を舞えば、その鱗に届くことはない。

携えた知識のなんとちっぽけなことか、弱点を暴く眼力などない。


ただ、ただ前に進み戦列に加わること。

戦場に群なす、有象無象の一つとなること。

一党の主に捧げる混沌を生むため、命を賭けること。


何年が過ぎても、私のやることは変わらない。

背中を追うあの男の影を、踏み続けていられるのだろうか。

先頭に立つ君主の後を、追い続けているだけなのだろうか。


(とはいえ、今度はあの男はいない)


今回は、彼は同じ戦場に立たない。

彼が協力し、築こうとする計画に手を貸そうとは思わなかった。

私達は傭兵、いずれ、この街を襲うかもしれないもの。

そう思うと、街の発展に力を貸そうとは思えなかった。


ならば、混沌を討ち果たすことが為すべきことだ。

それは分かっている、だから少しは考えるべき事情は減る。

だというのに、なにも思いつきはしない。


(なにかあるかしら、わたしにできることは)


次の出立までは時間がある。

未来の自分が何か思いつけるのならと、ありもしない確信に縋って資料を閉じた。

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