四の幕 後のこと-2 彼女が言いたかったことは

彼女、あるいは彼が語り終えた時、まるで何かやり遂げたかのような表情だった。

だが、わたしの頭に浮かんだのはおそらくは彼女の予想していない言葉。

だから、しばしの沈黙ののちにわたしはそれを突き付けた。


「……なるほどねぇ。で、何の関係があるわけ?」


しばし彼女は言葉に詰まった。

けれども彼女はやがてわたしの言葉を飲み込み、少しずつ言葉を吐き出していく。


「……先輩って、ファニルさんに似てたんですよ」

「外見とかではなくて、頼れるような雰囲気が」


「ここに来るまでは大丈夫だったんです」

「戦闘での彼女は荒々しかったし、戦闘外ではあまり関わらなかったから」


「でもここにきて、みんなと触れ合っていくうちに」

「彼女の優しさに触れたら、怖くなってしまって」


「『彼女は本当に見た通りか?』って思ってしまった」

「先輩と違うと何故言えるか、と」


「一度そう思ってしまうと、どうしても振り払えなかったんです」

「頭で納得させようとしても、身体がどうしても思い通りにならなくなった」


「……それが、あの時書庫で起こったこと」

「彼女たち……いや、あなたたちを悲しませたのはぼくだ。」


あなたたち、彼女は最後そう言った。

何があったかも言わなかったというのに、わたしを悲しませたと思っているらしい。



 あぁ、実に、傲慢だ。



だからだろうか、わたしは、彼女の告白を聞く前と同じ調子で言葉を紡いだ。

まるで、なにも響いていないかのように。

まるで、なにも聞かされなかったかのように。


「ふーん。なら、この後どうするの?」


彼女が、何をしたいかをただ聞いた。


「……許されるのであれば、あなたたちと共にいたい」

「だけど、ここまでの事をして素直に許されるとは思ってない」


身勝手な理屈。

けれど、そんなことよりも先にわたしの口を出たのは別な言葉。


「許されたいだけでしょ」

「少なくとも、あなたが何なのか、あの二人は知らなかった」


彼女の告白は、確かに厄介な内容だった。

わたしになら、あの告白で伝わるだろう。


けれど、貴族の家に生まれた娘とて、あるいは傭兵として育った者には伝わるまい。

ならばどうする?エーラムの在り方を、十分に知っている同輩は少ない。


だからそんな話題が出たなら、ただの一度も私の耳に入らないということはない。

よって、彼女たちはそれを理解していないのだと私には思えた。

つまり、そもそも彼女は誰に咎められているのでもないのだ。

その言葉を、彼女に突きつける。


「…………そうですね」


長く、長く間を置いて、彼女はわたしの言葉を飲み下す。

そうは言いつつも、不服そうな顔を浮かべながら。

そんな彼女に寄り添わず、わたしは目を背けている事実を述べていく。


「そもそも、あなたは罪なき者よ」

「闇魔法師フェルモはもう、この世界にいないのだから」


もはや彼はどこにもいない、私の目の前に立つのは青髪の少女。

どんな経緯であれ、もはや二人を結び付けることは困難であろう。

ただ、その経緯を知るもの以外は。


「そういってくれるのはありがたいですが……」


それでも、彼女の中にあるわだかまりは解けないらしい。


「ぼくがあなた方に犯した罪はそれだけではない!」

「ぼくがもっとも償うべきはきみたちを悲しませたことだっ……!」


そして、憤怒を孕むかのような調子で彼女はまくしたてる。



 きっとこれこそが、彼女の言いたかった言葉。



「なら、贖いを乞うものであって逃げてる場合じゃないわね」


わたしは、彼女の言葉にそう判断を下した。

そして、なにをすべきかは既に思いついていた。

だから手に提げた棍棒を放り、雑多に積まれていた一個の木箱を叩き落とす。


「腹を割って話しなさいな、想像したどっかの誰かじゃなくって」


「え……っ!?」

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