二の幕 後のこと 何を為せるか?

任務を終え、部屋に戻った。

相部屋ながら、まだ誰もいなかった。

私が一番早く戻ったのか、あるいは飲食か訓練のために皆外に出たか。

とはいえ、街を巡って彼女たちを探す気にもなれなかった。


雑嚢から保存食を取り出し、小刀で幾らか切り落とし口に含む。

塩気ばかりのそれを水で飲みこみ、空腹を満たしながら任務の光景を思い返す。


灰色の街は予想以上に荒れ、しかも人間を狙いとした無数の罠を敷き詰めていた。

金剛の従騎士の指示に従い罠の解除を行うも、私は目標を見つけられなかった。

けれど星屑の従騎士によって、任務は果たされた。

天を征く翼獣……むしろ翼竜ワイバーンと呼ぶべき脅威が警戒する町の一角。

それに守られた巨大な機械獣、翼なき竜シャガールが発見された。


(任務は完遂された、問題はない)


けれど、置いていかれているような心地がした。

それが何故かはわからない、誰に置いてかれているわけでもない。

ただ不安だけがせりあがっていると、わかってはいた。


(魔境の混沌核を浄化すれば、少なくとも機械兵の脅威は消滅する)


次なる任務は、翼なき竜の盗伐と魔境の浄化であろう。

人数の少なさを思えば、此処で他に回ることになる可能性もあるけれど。


(しかし、できることなら参加したいものだ)


何ができるか?それは分からない。

しかし、見届けようとする気持ちだけは確かにあった。


(生き残るために……隊以外のものとも、訓練をするか)

(火矢の類でも……いや、巨大な敵を焼き切れるほどのものは持っていけないか)

(何日かかるだろうか。しかし、荷物ばかりあっても戦いには邪魔だ)

(伴連れを連れていくことはできるだろうか。いや、それぞれの指針があるか)


ぼんやりとした考えだけが浮かぶ中、ふと、全く別なことが頭をよぎる。


(懸命に街の開発を進めるにしても、これだけの危険を背負う中でか)


街の開発のために飲食街を作るという話を思い出した。

隊長の助力がどのようなものかは伝わっていないが、あと一歩というところらしい。

一方で、次々に見つかる魔境と出現した投影体が、街を脅かしている。


強化された身体を備えた投影体は、街の中に危険な薬品を持ち込み混乱を狙った。

東部の森に現れた魔境も、進行の要となる橋は落ちたが数は減っていない。

南方に現れた凶星の照らす街に、こちらを敵視する異界の投影体が蠢く。

北西の岩礁は異界と化し、航路を妨げているとの知らせも入った。

それと同時に、街に停泊する船の一石を突如現れた投影体が占拠したともいう。


(どうあっても、わたしは余所者でしかないけれど)


ここはわたしの街ではない。

ともすれば命により、いつか戦火を交えることが無いとも言い切れない。

故に街の開発からは距離を置きつつも、それに努めるものの顔を知ってしまった。


(なに、貸し借りがあるわけでもない)


そう思いつつ、しかし忘れていない今は、彼らを手にかけたくないと思ってしまう。


(今は、考えるべきではないのかもしれない)


そうして頭の片隅に追いやるとふと、為せなかったころの記憶が頭をよぎる。


(あの時から未来のことを考えていれば……)


そんなことはできなかったと確信してしまえる、そんな夢想が頭に浮かぶ。

けれど、都合のいいもしもを思い浮かべられたなら、そう縋る自分がいた。


(それでも、この”もしも”は、あまりにも無価値だ)


浮かぶ雑念を振り払いながら、私は飲みさしの瓶を開ける。

そこには緑色の薬酒が、幻覚を見せるともいわれる酒が入っていた。


(一度くらい、夢を見たいものだな)


そう思いながら、一杯分には少し多く注ぎ、ゆっくりと飲み下す。

けれど、ニガヨモギは彼女に夢を見せない。

その夜彼女の見た夢は、現実に確かにあったことの繰り返しだった。

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