回想 ハイデルベルグの思い出-1
「きーるーとぉー、はやくしないと、父上においてかれちゃうよー!」
「まって。まってぇ。ぜったいにいくからぁ」
わたしとあの子が、建物の中で声を上げる。
ここはわたしたちの家。
ハイデルベルグ一門の過ごす家。
ただ、受けつぐべき知識のために、教え合い、寝食を共にしていた。
それでも、そんなわたしたちのことを、家族だと言えると信じていた。
「ね。チェーンおかあさまはもういっちゃった?」
「みたいよ、おばさまはトランスポーターのふたりといっしょだって」
「ふぇぇん、なんでおいってっちゃったんだろう」
ようやく支度をおえ、いとこ、キルト・ハイデルベルグがわたしのまえに現れる。
彼女はすごい、わたしにわからないきざしに気付ける霊感のもちぬしだ。
ここに来るまえは高い山にすんでいたらしい、だからやくそうも知っている。
けれど、どうにもおしゃれをするとかともだちを作るのとかがうまくいかない。
だから、わたしたちは二人でいろんなことをはなして、すっごく成長したのだ。
ハイデルベルグは助け合い、小さな一門でも成長する。
そうしていつか、二人ともすっごいまほうをつかえるようになる。
きっとそうにきまってる!
「うん、二人とも準備できたね」
父上、エンブロイダリー・ハイデルベルグがわたしたちによびかける。
そのとなりに、あまいろのかみをした女の人が立っている。
母上じゃない、だれだろう。
「私たちの護衛で二人招いた自由騎士の一人、ローザさんだ」
「こんにちは。そしてよろしくね、魔法師の卵さん」
「「はい、きょうからよろしくおねがいします!」」
キルトと二人で、わたしたちは元気よくへんじをした。
そしてみんなで馬車に乗り、隣の国に出かけた。
魔法を理解するために、力を借りに行くために。
・・・・・・
馬車の中ではたいくつだ。
だから、父上に質問をする。
ぎょしゃさんはいそがしそうだし、ローザさんはよくわかんないから。
「父上、トリアには、いつつくのですか?」
「おじさま、おかあさまといつあえますか?」
「トリアには、明日の昼。今日の夜、馬車を降りた時みんなで集まる」
「「よるはどうするの?」」
「チェーンが仮宿を投影する。ローザさんには外で見張りをお願いするのだが」
「お気になさらず、私の力は相性が良くありませんから」
「「ちから?」」
「えぇ。今の私は
「すっごーい、くんしゅってそんなことできるんだ」
「ふぇぇん」
おどろいたわたしの横で、キルトはすこしなきそうだった。
「どしたのキルト?」
「ローザさん、おこったらわたしたちのやどひっぺがしちゃうよぉ」
「もう、そんな失礼なこと言っちゃだめよ」
「だってぇ」
キルトは少し、想像しすぎる。
色々なきざしを見てしまうから、しかたないのだろうけど。
「二人とも正しいが、しかしよく考えなさい」
「そんなことを起こさないために、どうしたらいいのかを」
ほら、父上がやりすぎないようにたしなめた。
ついでに、わたしたちにかだいも出してきた。
うーん、どう答えたらいいかな。
ふたりで、顔を見合わせる。
「ええと、ローザさん、ごめんなさい」
キルトはまずあやまる、失礼なことを言ったから。
「もしよければ、楽しい話をしませんか?」
よろこびながらおこれない、そう思ってわたしはていあんする。
「えぇ。二人とも、花丸です」
ローザさんはわたしたちに笑ってくれた。
やった、だいせいこうだ!
そう思って、もう一度顔を見合わせてわたしたちはわらった。
「えと、ローザさんを知りたいので、しつもんしてもいいですか?」
キルトが声をかける。
きっと、もっと笑ってもらいたいのだろう。
「エンブロイダリー師、よろしいですか」
「えぇ、できるだけ答えてあげてください」
ローザさんは父上にゆるしてもらおうとしていた、なんでだろう?
「あなたの家で、ずうっとうけつがれているものってありますか?」
なるほど、わたしたちみたいにつないでいるものってあるのだろうか。
「そうですね、私は君主として歴は浅いのですけれど……」
くんしゅのれきし、たぶんローザさんは親から聖印をもらっていないのだ。
それってきっとローザさんがすごいからだと思うけど、いちおうだまる。
まちがってたら笑ってくれないし、失礼だろうから。
「ある景色のことを教えてもらいました。親から子に、孫へ続くように」
「「おとぎばなし?」」
「そう、今はもう誰も知らない土地」
「竜の巣より流れ、黄金の田畑を満たした水が、大陸に別れを告げる場所」
「そこで、風と、水がもう一度会うことを笑いながら約束してはなれるの」
ローザさんの語りはじめたことを、なぜかわたしは知っていた。
つい口走ってしまったことがはずかしくて、うつむいてしまう。
「覚えて、いるのですか?」
「え、その。あ、あたまの中に、うかんできて」
「そう、もしかしたらどこかで聞かされたのかもしれませんね」
今になって思うと、そういうことなのだろう。
けれどそのとき、わたしは気づかなかった。
「ふたりともしっているの?わたしにもおしえて―!」
キルトの言葉に、わたしとローザさんが顔を見合わせて、微笑んだから。
あるいは、遠足の時には魔法がかかっていたから。
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