回想 ハイデルベルグの思い出-2

「くーもをつきぬけ山があるー♪」


「あーめはつたってふりそそぎー♪」


「我らを潤し、大地を満たし」


「約束の場所に流れゆく」


「いーまはとどかぬそのばしょにー♪」


「いーつか来たれるその人はー♪」


「世界を救う、我らの主」


「皇帝聖印掲ぐ者」


たいようがかたむきだしたころには、二人ともローザさんのけしきをおぼえた。

ふしをつけてうたうキルトとわたしに、父上とローザさんは合わせてくれた。

いつもの父上なら、場をわきまえなさいとしかったかもしれない。

けれど馬車の中じゃ、たいくつをどうにかするのがいちばんだいじだった。


「ローザさんって、まるでおかあさまみたいだね」

ふと、キルトがわたしの方を見てそういった。


「チェーンおばさまはもっとこう、ふしぎでえらい感じがするよ」

「ローザさんってどんな感じ?」

「もっとこう、何かしなきゃいけないことがあるみたいな感じ」

「なるほどなー、そうかも」


二人とも、えらくない、なんてもちろんいわない。

本当は偉いのはおばさまだと思うけど、ローザさんにわらってほしいのだ。


「でもね、言いたかったのはそうじゃないの」

「なになにキルト、わたしに教えて」

「二人のかみも、口もはなもそっくりなの。目だけちがう」


わたしのかみは亜麻色だ、ローザさんもそうだ、キルトは金色でそれもきれい。

わたしのはなは普通だ、ローザさんもそうだけど、キルトもあんまりかわらない。

わたしの口は……どうだろう、これもみんなおなじじゃないかな?


「よるにあつまった時に、おかあさまにかがみをかしてもらおうよ」

「月やほしじゃ見れないよ?」

「おかあさまのおやどなら……あっそっか」

「えぇ、残念だけど私は入れないわ」

「えと、ごめんなさい」

「気にしないで、そうね……もしも何事もなく帰れたら、比べてみましょう?」


ローザさんはわたしたち二人にやさしい。

父上も、そのせいかいつもよりやさしい。

もしかしたら、父上をやさしくするヒミツがあるのかもしれない。

そんなことを思っていたら、馬車が止まった。


「そろそろ宿を造りやしょう。君主様の天幕は時間かかるかもしれないんで」

ぎょしゃさんのていあんだ、こういうとき、父上は必ずうなずく。


「ありがとう、今日はよく走ってくれた」


・・・・・・


もう一台の馬車から、五人やってきた。

ぎょしゃさんと同じかっこうの人は、多分あっちのぎょしゃさん。

こっちのぎょしゃさんと話しはじめて、色々取り出している。

たぶんてんまくをつくるんだ、じゃましちゃだめだ。


ベールをかぶっているのはチェーンおばさん。

ほんとは義姉おねえさんなのにおばさんっていわなきゃいけない。

見た目は20才くらいだけど30才より上だっていってる、魔法の力なんだって。

キルトがかけだしていってお話している、いっぱい言いたいことあるもんね。


のっぽなのはスュクルさんとフォスファットさん、ご先祖に投影体がいる。

男の人がスュクルSucreさん、サモナーで妹よりすごくないってじぶんで言ってる。

女の人がフォスファットPhosphateさん、おばさまみたいにいっぱい魔法を使える。

ご先祖のせいで首元にマフラー、耳当て付きのぼうしをしている。


さいごの一人はくんしゅさんなんだろう、男の人だ。


「ローザ、そっちはどうだった」

「楽しかったわ。モーゼス、貴方は?」

「うん、和やかだったんだが……」


良い夜ですなBon soir、エンブロイダリー老の護衛殿」

スュクルさん兄妹は少しなまったしゃべり方をする。

わたしも同じなまりでしゃべれるけれど、父上にきんしされてる。

ただ、スュクルさんと話す時はゆるしてくれる。


「なるほど、うっかり地元の言葉が出て威厳をなくしたわけね」

ローザさんに言われて、モーゼス?さんはうなづいた。

どうやら、ローザさんたちもしゃべれるみたい。

だけど今回はやめとく、キルトが仲間外れになるから。


「あー、スクレ、いや、シュガー、えーと」

「おかまいなくエンブロイダリー老、だいたい通じますから」

「そうか、フォスフェ……「失礼、妹はぜひ本来の読みで」そうか」

「兄。別にワタシも構わないのだけど」

「君は演台に上がることが多いだろうから、僕としては慣れてほしいんだ」

「理解。エンブロイダリー老、ワタシからもよろしいですか?」

「ボクからもおすすめしとくよ、門主」

「わたしもそう思う、キルトは?」

「わたしも、おかあさんまで賛成しているもん」


わいわい言いつつみんな笑っていた。

父上もたまにはからかわれる、だからってえらくなくなるわけじゃない。

ゆるしてくれるよようやさしい言葉を選んで、父上もそれだからおこらない。


「そうか、まぁうん、善処する。さて皆、混沌は落ちついているかね?」


父上がそういうと、みんながわたしとキルトをみる。

そう、これもかだいだったのだ。

でもだいじょうぶ、二人ともちゃんとじゅんびしていた。


「「だいじょうぶ」……まって、おかあさま何かへんだよ!」


わたしが言い終わったその後、急にキルトがさけんだ。

わたしは気づけなかった、でもこういうとき、キルトは何かにきづいてる。

だからキルトはすごくて、ちょっとくやしい。

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