回想 ハイデルベルグの思い出-3

「さて、キルトの言うことを正しいと思うかね?」

父上の問いに、わたしはいそいで答えない。

だってそれは、考えることを止めているから。

もう一度集中しよう、そう思って目を閉じる。

キルトならしなくてもできるけど、わたしはじぶんのできることをする。


そして、なにかおかしいことにわたしも気付く。

けれどそこで止まらない、それなら、父上の問いはから。

理由も言わなくちゃいけない、キルトより遅かったから、それ以上を言わなくちゃ。

そして、おかしい理由にきづいて、父上に言った。


「混沌じゃありません、これ、ローザさんです」

「ふぇっ、あっ、そうだ、ローザさんだ!」


キルトもきづいたらしい、混沌のゆらめきはたしかにあった。

けれどそれは混沌のせいじゃない、混沌をだれかがけしているんだ。

それは、ローザさんだった。


「よくやった。そう、これは聖印によって混沌を浄化しているのだ」

「キルトも気付けて偉かったけど、ボクたちに言う前に考えてね」


二人とも、かんぺきじゃなかった。

だけど、父上はわたしによくやったって言ってくれた。

おばさまはいつも優しいから、キルトはあまりうれしそうじゃなかった。


「さてチェーン、宿を頼む」

「まーかせて、あ、リンちゃんやる?」

「否。チェーンさん、ワタシたちは国外じゃまだ魔法使っちゃだめですよ」

「というか夜番も要りますから、仮にやるなら僕ですよ」

「よろしい、二人も成長していてボクも嬉しいよ」


リンというのはフォスファットさんのあだならしい。

ともだちと遊ぶときなら呼んでもいいらしい、わたしもゆるしてもらった。

そうしておしゃべりしながら、いつのまにかおばさまは宿をこしらえていた。


いちおう、何も言わなくても魔法は使えるらしい。

しかし、それは混沌をどうすればいいか脳内でえがかないといけない。

わたしはそのコツを教えてくれないかと思ったけれど。


「おかあさま、だまって魔法ってどうやってやるんですか?」

「勘だね、いけるいける」


……父上って教えるの上手だと、キルトとおばさまが話すを見て思ってしまった。

もしかしたら、まだ教えたくなかっただけかもしれないけど。


・・・・・・


よるは何もできないから、みんなあっという間にねむってしまった。

目をさましてそう思っていたら、ローザさんとモーゼスさんはあくびをしていた。

二人はぶんたんして、いつもだれか起きているようにしていたらしい。

ぎょしゃさんたちはとってもよろこんでいた、いつもは二人がやっていたらしい。


そして目的地に向かってまた馬車に乗った。

スュクルさんとフォスファットさんの一門、トランスポーターのべっそう目指して。


「で、めっちゃ近かったね」

「いやぁ、ムリしたらいけませんよ。途中めちゃくちゃ揺れたでしょう?」

「たしかにね、あそこ難所?」

「ええもう、空飛べたらどんなに楽かっていつも思います」

「今度翼を授けよう、ボクよりスュクルくんの方がいいかな?」

「いや駄目ですよ?魔法師様の実験をうちらに持ち込まんでください」

「ちぇー」


思っていたよりずっと早く、おひさまがかたむく前にたどりつけた。

おばさまとあっちのぎょしゃさんがしゃべってたけど、ぶじなら何でもいいと思う。


「さて、荷物を入れたらやりましょうか」

「それで頼む、二人に繰り返し見せたいからな」

「僕が貴方のお役に立てるなら何よりです、ここ使わないせいでカビそうですし」

「む、勿体なくないか」

「そうなんですけど、召喚魔法やるにもちょっと遠いんですよね」

「今度から植物園の規制が増えるぞ」

「あれ、そうなんですか。それなら掃除したかいあったなぁ」


スュクルさんと父上はフォスファットさんの指示でてきぱきと荷物を運んでいた。

ぎょしゃさんやローザさんは馬車を厩舎に連れて行った。

そしておばさまは荷物を宙に浮かせていた。


「「なにかてつだえますか?」」

「任せなさい、ボクが全部ブッ飛ばすから」

「「まって、とばしちゃダメ」」


手伝おうとするわたしとキルトにおばさまは笑ってそう言った。

でも、義娘キルトにおこられる彼女はあれでいいのだろうか。

笑っていたから、からかっているつもりだと思うけれど。


・・・・・・


「さて、準備はよろしいか」

荷物を全部無事に運んでから、スュクルさんはみんなを集めてそう言った。

でもぎょしゃさんは実験所の中にいた、魔法がこわいらしい。


「今回の目的は混沌の収束と混沌の鳴動の峻別、要するに混沌核になるかです」

「僕の方が下手なので妹より難しいですが、これで区別できたら遊びましょう」


「「えっいいの!?」」


「できるものなら、僕は魔法行使せずに収束させるのめちゃくちゃ苦手なんで」

「まぁうん。スクレ君の言う通りだな」

「というか収束しそうな場所選んで魔法使ってるよねいつも」

「まぁそうですね、楽ですし」

「その霊感の鋭さで予見魔法師になればいいのに」

「召喚魔法が夢だったので。さて、お二人とも、もうやりましたよ」


「「えっ?」」


きづけばわたしたちのめのまえに、真っ黒な混沌核が生まれていた。

もちろん二人とも、ぜんぜんきづけなかった。

光を閉じ込めてしまうことで黒くなったに、ふれることはできないらしい。

でも取り込めば邪紋使いや君主になれる、取り込まれることもあるけど。


「ま、こんなもんです。妹にはもっとさくっとやってもらうので」

「兄、そうだけど、そうじゃないよ。二人に言わなきゃいけないこと」

「妹よ、そこはまぁ、講師の道第一歩ということで君の出番だ」

「もう。二人とも、混沌の変化は目に見えないの、身振り手振りを気にしちゃダメ」


あっけにとられるわたしたちに、スュクルさんはにこやかに笑っていた。

そう、この人ももうちょっとで完成する、魔法師の卵なのだった。

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