三の幕 壇上にて-4 意識の限界、戦いの結末
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>Error! Signal is Lost. Type Erik stops responding.
>Error! Signal is Lost. Type Gallas stops responding.
>Error! Signal is Lost. Type Mirza stops responding.
>Rebuilding succeeded. Install current data...
〈
〈侵入者への攻撃と同時に生じた謎の通信妨害により、一時連絡が途絶したのだ〉
〈そして判明したのは、予想以上の苦境だった〉
〈四体のヒトガタは沈黙し、一体の侵入者を前に戦場に残るのは一機〉
〈翼なき竜は生産プラントから動かせなかった機械兵に両戦場への支援を命令する〉
〈それでも、どちらの戦場にも辿り着くまで半刻はかかるだろう〉
〈滞空する四つの翼竜の目に、侵入者の逃走は観測されなかった〉
〈逃走していないことを意味したが、翼竜を含め攻撃禁止の撤回は行わなかった〉
〈天蓋を故障により閉鎖できなくなっているが、貴重な駐機地点は壊せない〉
〈遮蔽域からの火器投射を警戒し、翼なき竜は競技場跡の中心へ移動する〉
〈翼竜に侵入者の逃走を警戒させつつ、自らの戦闘システムを再度稼働させる〉
〈再度の侵入を予測し、翼なき竜は侵入者の次の攻撃パターンの検討に入った〉
・・・・・・
廊下を回り、後退した地点から反対側に回る。
私達は二手―銀朱の主と、それ以外全員に別れ、内部の様子をうかがう。
作戦は明確。騎兵により突進をけん制しつつ、両側面から翼なき竜に肉薄。
それにより体当たりを成功させようというもの。
(敵は一旦警戒を解いたか……いや、逃がすつもりはないらしい)
最初の反応を思い返すに、翼なき竜よりも翼竜の方が索敵は得意らしい。
そしてその目は、再び闘技場の外に向いていた。
しかしその一方で、翼なき竜が動きは再び稼働音を立てている。
私達の再度の攻撃を予想していることは明らかだろう。
「先陣は僕がきります、続いてください」
指揮官である彼は出入り口の傍で、私達に向けてそう言った。
最後尾には騎兵が陣取っていた、手筈とはいえ途中で遅れれば蹴り殺されるだろう。
(上手く行くかは、いや、信じるほかないか)
成功を祈り、駆けだした彼を追って私達は駆けだした。
・・・・・・
二つの入り口から、私達は翼なき竜に突進した。
何故か中央に自身の位置を移したために、予想よりも距離は短い。
翼竜のうち一体の降下より早く接近できるかと思う刹那、擲弾が放たれた。
「止まらないで、数発は引き受けてもらいます!」
言い終るのとどちらが早いか、銀朱の主の聖印が私達全員を包む。
聖印の力に規模の限界はない、ただ、そのすべての傷を負わされるだけだ。
けれど銀朱の主は止まらない、あるいは翼竜の破片に比べれば脅威ではないのか。
大樹のような前腕を駆けあがり、指揮官と数人が翼なき竜の背に上った。
騎兵は釘づけにすべく四肢を狙い、翼なき竜の動きをどうにか抑え込む。
最初の散開からはじめて、従騎士が密集して戦っている。
(これで、擲弾の発射口だけでも潰せれば……)
発射口には鋼鱗はなく、けれど鋼殻は健在だった。
突剣を、棍棒を、発射口につきこんではへこまないかと試みる。
短剣を、長剣を、防具に包まれた足で打撃を加え、どうにか傷を与えようとする中。
黒い影が、翼なき竜の背に落ちた。
(絶対に振り落とされるものか!)
幾度ゆすぶられても私達は翼なき竜の胴から、何があっても落ちまいと。
銀朱の主の力が及ぶ場所、しかし翼竜の自爆にに巻き込まれる位置に立ち続けた。
そして、降下した翼竜は予定通りに自爆した。
・・・・・・
濛々とした煙で、視界は見通せない。
けれど翼なき竜の背に乗った者達はなおもしがみつき、そして更なる爆発音が続く。
残る翼竜全てが、従騎士を殺めるべく自らを四散させたのだ。
そして煙が晴れた時……従騎士は誰も斃れていなかった。
煙が晴れると、翼なき竜の背に鋼殻はもはやなかった。
筋肉を模することなく動きを模倣する鉄管の機構を足場に、私達は立っていた。
「今です!」
突剣を振るう従騎士が攻撃の機械を叫ぶととも得物を突き立てる。
血管神経の如く巡らせた無数の鋼線が引きちぎれ、無数の火花が散った。
それを見て、翼なき竜の背、そして馬上から次々に内奥を狙い攻撃を始める。
翼なき竜は激しくのたうち、その首を回して鶏冠をこちらに向ける。
軋む鋼殻が悲鳴のような音を上げつつも雷撃を放とうとするが、聖印の光が阻む。
電撃の網は私達を捉えず銀朱の主にのみ流れ、焼け焦げた匂いだけが私達に漂う。
それでも、銀朱の主は城塞の如く厳然と立っていた。
そして、翼なき竜の抵抗は弱まり、けれど止まることはなかった。
だが遂に、眼帯の従騎士がその心臓と思しき空虚な場を見つけた。
そこには本来あるべき何かが無く、ただ代わりに、収束した混沌核だけがあった。
「沈めぇッ!!!」
声とともに、聖印の光を纏わせて彼がその拳を混沌核に叩きつける。
すると、中枢を切り裂かれても尚動き続けていた翼なき竜はついに沈黙した。
・・・・・・
翼なき竜は徐々にその輪郭を曖昧にし、闘技場の上空に割れた混沌核が浮かぶ。
混沌核は異界の理に変じていた混沌を吸い上げ、今一度元に戻ろうとしていた。
それを決して逃すまいと銀朱の主がその聖印で浄化する様を、私はただ見ていた。
(私は、この機械兵団との戦いを最後まで見届けるために参戦した)
何故だろうか、曖昧になっていく思考の中で、答えとして浮かんだのは一つだった。
(私の明日のために……)
何かができた、訳でもない。
誰かをかばえたわけでも、突進する翼なき竜を揺るがせたわけでもない。
勝利の糸口は指揮官たちが見つけ、混沌核を砕いたのも自分ではない。
「それでも、私は立っている。あぁ、よかっ……」
意識が途切れる。
私に向かって誰かが声を上げた気がした。
それは誰か、もうわからなくなっていた。
・・・・・・
「ただいま……」
誰かの声が聞こえる。
気づいた私は、柔らかな何かの上に横たえていた。
「ん……あら、ファニル……?」
居るはずのない同輩の声と悟り、そちらに目をやれば赫髪が目に飛び込む。
予想していた通り、別な任務に就いていたはずの同輩がそこにいた。
(どうしてここに?私は……)
「ん、起こしてしまったか……寝てたのに、悪いな」
その言葉で、途切れる前の記憶を思い出す。
予想するにどうやら、街に運ばれてきたらしい。
「ありがとう、気を使ってくれて。でもそう、あの後寝ちゃってたのね」
「何かあったのか?」
彼女の目が、わたしを見る。
怪我をしてないかと、心配するように。
「決着がついたから、ね。あら?」
彼女の問いに、多くは答えられない。
曖昧な意識は、何があったかをまだ思い出せないせいだ。
それをすこしだけ厄介に思いながら、近づいてくる物音に気付く。
そして、壊れるほどに大きな音を立てて、わたしたちの部屋の戸が開く。
顔を伏せ、息を切らし、入ってきた彼女は立ったままだった。
我らが傭兵団の軍師役、荒事に向かない彼女が慣れないことをしたらしい。
前髪で表情は見えない、上がった息で、やっと紡がれた言葉は一言だった。
「…け、がは…?」
そんな彼女に驚いて、しかし私が口にしたのは一言だけ。
けれど、それで十分だろうとその時は思った。
「大丈夫」
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