一の幕 先触れ-2 笑う傭兵

一時間余り、一心に戦っていたのだろうか。

目に見えて太陽の位置はずれ、散乱した残骸を避けるにも苦労するほどに溢れる。

けれど誰一人大怪我はなく、しかし明らかに疲弊していた。


「クソッ……厄介な任務だなこいつぁよ」

「兵士にしちゃ弱いわりに、あの金属をまともに喰らえばただじゃすまない」

「なにより一度襲われたら息つく暇もない、息抜きする場所なんてねぇなこりゃ」

「なぁアルエット、こいつをうちの軍師様に伝えたらどういうと思う?」


しばらく考えて、恐らくは、彼女と違う結論に至る。

けれど、私に言えるとしたらこれしかないのだろう。


「打って出ることはないな、あちらが全力を出すまで、耐えるだけだ」

「なんでだ?戦えば勝てるだろう?」

「これに混沌核はなかった。ならこれを生む何かが、それを持っているのだろう」

「……これも、野良じゃなくて魔境産ってことか」

「しかも、恐らくは未知の」

「ったく、最初っから三つ魔境に攻められてるってか。この街は」


暫し、顔を合わせて沈黙する。

どうしようもない脅威を、改めて確認させられたからだ。


「「ま、だったらやるしかねぇな。盛大に!」」


しかし声を合わせ、男たちは笑い出した。

どうしようもない現実を呪う代わりに、笑うことにしたのだろう。

羨ましくもあり、心強くも感じた。


「なぁアルエット、こいつら持って帰ったら組み立てられるか?」

「無理だ、試し切りにでも使うのか?」

「だいたいそんなとこさ、隊長なら何発かかるのかって思ったからな」

「おいおい、試すまでもないだろ。あの人は俺らよりつえぇんだから」

「それもそうか、折角なら賭けにしようかと思ったんだけどなぁ」

「一発以外誰も入れねぇよんなもん」


実際、一撃でこそ仕留められなかったが倒せない敵ではなかった。

私ですら、仕留めることのできる隙を持っているのだから。

しかし指揮官もなく、そしてこれらをまだ脅威としていないと言うことは。

この街にとってのでは、その数は比較にならないほどだろう。

一撃を弾かれ、二度目の前に次が来れば、私達が負けずとも街は敗れる。

武器を持たないものも、街にいるのだから。


「にしてもどうすっかねぇ。街がやられちゃ行く当てもねぇし、逃げるわけにもな」

「こっちから突っ込んでく訳じゃないってのも調子狂うな、聖盾士なんていねぇぞ」

「そういや、堀やら柵やら造ることになんのかね」

「穴掘りなんて御免だなぁ……っても、隊長で無しに踏ん張れるかってなると」


私以外も、面倒だといいつつも敵の脅威に考えが及んでいる。

彼らも、私と同等以上に生き残っているのだから、決して無能なわけでもない。

そのうえで、なるようにしかならないという点で、出てくるのは愚痴ばかり。


「なぁアルエット、お前ちょっと隊長に掛け合ってくれや」


出てくる愚痴から意識を逸らし、何ならできるかと考えている最中。

唐突にテュールが私の名を呼んだ。


「なにを?」

「演武だ」

「演武?」

「あぁ、下働きにここで集めた奴とか、出立前に船に詰め込んだ奴いたろ?」

「まぁ、そうだな」

「あいつら、役に立つと思うか?」

「どう動けばいいか、仕込ませるのか」

「邪魔になんなきゃそれで十分だけどな、死んだって給金減らねぇし」

「それでも、やるのか」

「あぁ、このままじゃあいつらは邪魔だ」

「……分かった、だが期待はするなよ」

「そりゃそうだ。俺もお前も平隊員、あの人を動かせるたぁ思わねぇよ」


曖昧な顔をする私を見て、十分だとでもいった感じに彼は笑う。


「なら、全員で残骸を持ち帰るぞ」

「あぁ、なんだってそんな」

「いい的ができたから、そうとでも言わなきゃ隊長は首を縦にふるまい、手伝え」

「……ったくしゃあねぇな。テュール、あとで一杯奢れや」

「あン?なんだって俺様が」

「アルエットを焚きつけたのはお前だろ?こいつにおごる金なんてな……痛ってぇ」

「一言余計だってんだ」

「あんだとう、お前の分も当然」

「分かった、すまなかった。いいなテュール」

「変わり身早いなオイ……」


わいわいと騒ぎつつ、は雑嚢に二種それぞれの部品を集め出した。

二体分の部品は金属塊にしては軽く、五人で分ければ持てないこともない。

荷物を背負って、わたしたちは帰途についた。



・・・・・・



「ヒヒっ。てっきり不良どもなら絡繰り相手にくたばると思ったが」

「まぁいい。あの力では星を落とすことは叶うまいよ」

「異人様こそ居なくなったが、そこまで果たさねばあっしの名折れ」

「精々もがいてくたばるこったな、傭兵どもよぉ」


<頭巾を外し、独特な髪型をあらわにして彼はひとり呟いた>

<そうして姿を見れば明らかだろう、彼はこの地のものではない>

<異界より現れた人間、混沌を宿す故に彼女を苛立たせたもの>

<もっとも、彼らが顔を合わせることはもうない>

<彼の現れた異界律にまつわるその顛末は、彼女の物語ではない故に>

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