第5話 要塞国家サモンドロ その一

 サモンドロ共和島国の総統ラタムはお付きの『悲しみ美女部隊』に囲まれてご満悦であった。「ああああああ! ラタム様ああああ!」

「可哀想ううう!」

「慰めてあげるうううう!」

「なでなでしてあげるうううううううう」

 彼女たちは別になにか悲しいことがあったわけではない。いつもこんな感じなのだ。

 そこへ。ノックの音が鳴る。

「入れ」

「失礼致します」

 ピッチリとした制服を着て眼鏡をかけた美女が恭しく頭を下げる。彼女の名はガミイ。サモンドロ共和島国の「アメリカ合衆国対策庁」の長官である。

「なにかクソったれUSAのほうで動きがあったか?」

 ラタムは急にマジメな顔を作って彼女に問うた。

「はい。実はまだはっきりしたことはわからないのですが、少々まずい動きが」

「言ってみろ」

「実は。日本と手を結んでわれわれに対抗しようとしているという情報がございまして」

「なに!?」

 日本と組んでくる。これは非常にマズイ。とラタムは思った。日本との貿易はこの国にとって生命線だからだ。

「……わかった。とにかくその動きを全力をあげて調査しろ。少しでもなにかあれば報告だ。いいな」

「承知致しました、閣下」

 ガミイは再び恭しく頭を下げて部屋を出た。

 ラタムは口に咥えていた葉巻を握りつぶす。

「クソったれのアメ公め。もう一発ぶっ放してやらなけりゃわからねえのか」

 急激に不機嫌になったラタムは、悲しみ美女部隊を部屋から追い出して机に頬杖をつく。

「はあ……こんなときは。アレでも見るか」

 そういってパソコンを立ち上げ、自分だけこっそり繋いでいるインターネットにアクセス。

 検索ボックスに『お笑い 動画 HS-1 二〇〇九』と入力した。

「はあ。やっぱりこの年のHS-1はレベルたけー。最高に面白い。ブハッ! ブハハハ!」

 どうやら少々ゴキゲンを取り戻したようだ。

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