第2話 転校生はHAHAHA!
俺はニッポンの高校生のクソガキ、渚昌太郎。
ごくごくふっつーの公立高校である『西町川高校』に通っている。
顔はブサイクだとは思いたくないがイケメンとはちょっと言えない。運動神経も普通。。
だけどひとつだけ取り柄というか特徴があって、それはお笑いが死ぬほど好きということだ。
テレビのお笑い番組を全てチェックするのはもちろんのこと、Youtubeにアップされているお笑い関係の動画も片っ端から再生。少ない小遣いをなんとかやりくりしてお笑いDVDを買い漁り、ライブにも通い詰めている。
そして。口はばったいようだが「芸人になる」というのが将来の夢だ。
そのための努力は惜しんでいない。放課後は自分で作った『お笑い研究会』で毎日ケイコに励んでいるし、休み時間、ホームルーム、授業中に至るまで殆どの時間をネタを考えることに費やしていた。
だから。
「おい! 例の転校生の噂聞いたか!?」
「聞いた! アメリカ人の女の子なんだって!?」
このときも俺はクラスに流れていたビッグニュースに大きな関心を払っていなかった。
「マジか! ということは爆乳!?」
「えー? ガイジンの爆乳ってなんかあんまりそそらねえんだよなあ」
「乳輪がでかいイメージがあるよな」
「いや! どちらかというとロリータらしい!」
「そっちのほうが好き!」
「で、いつくるの?」
「二月十四日って聞いたよ」
「今日じゃん!」
「なんでこんな時期に? もう三学期終わるぜ」
(うるせえなあこいつら。一体なんの話をしてやがんだ)
ネタ帳からちょこっと顔を上げると、教室前方のドアが開いた。
入ってきたのは担任教師の富田。
「えー。知ってると思うけど、今日は転校生を紹介するぞ」
クラス中から歓声が上がる。
なるほど。転校生が来るからって騒いでいたわけだ。
「じゃあ入ってきて」
――その転校生の姿には。さすがの俺も目を引き付けられた。
床につきそうなぐらいに長い金色の髪の毛、雪のように白い肌、カールした長い睫毛で装飾された青い瞳。背は小さく体も細身、どちらかというと子供っぽい顔立ちをしているが、強烈なオーラを背負っており一種の威圧感すら感じられる。
(それに……なんだあのド派手な服……)
Yシャツの上から赤と白の縞模様のブレザーを着て、スカートは青地に白い『☆』が散りばめられたものを履いていた。要するに全身星条旗柄。全員同じ服を着ることを強いられたニッポンの学生をあざ笑うかのような強烈なファッションである。
彼女は軽くお辞儀をした後、不敵な笑みを浮かべ、
「おはようございます。アメリカ合衆国から来たサシャ・トリンクと申しマス」
と流暢な日本語で述べた。
生徒たちは彼女に拍手を送った。お調子者のクラスメイトたちの中には「かわいいいいい!」などと歓声を上げたり、指を口に突っ込んで笛を吹いているヤツまでいる。
「えー。みなさんはアメリカと言えばなにを思い浮かべますか?」
「えっ……?」
思いもよらぬ転校生からの質問にクラスは一瞬沈黙。
彼女はさらに思いもよらないことをのたまった。
「ハンバーガー? 自由の女神? ミッキーマウス? アメリカンフットボール? ノンノン。やっぱりアメリカと言えば『アメリカンジョーク』デス!」
生徒一同、みなポカンと口を開けてしまった。
「私もそれを大得意にしていマス! なのでお近づきの印にひとつご披露させて頂きたいと思います!」
その瞬間――彼女の瞳がうっすらと金色に光ったように俺には見えた。
「私はこの通り日本語ペラペラですが、アメリカ人の多くは英語が世界のどこでも通用すると思ってマスから、外国に行ってもその国の言葉をロクに覚えようとしません! そのためこんなジョークがありマス!
『ジョージ、先週日本に行ったんだって? 確かキミ日本語は全くダメだろう。会話に苦労しなかったかい?』
『いいや。ボクは苦労しなかったよ。周りの人たちはボクと話すのに苦労してたがね』」
そのジョークを聞いた途端。なぜか――教室はまさに爆発するような笑いに包まれた。
転校生はさらに続ける。
「実際のところはさておき、日本人はジョークがあんまり好きじゃない、分からないというイメージが我々にはありマス。そのためこんなジョークも作られマシた。
ある外国人経営者が日本で通訳の日本人をつけて講演を行いました。
彼はいつも講演の最初はジョークで始めることにしていますが、日本人はジョークが分からないと聞いていたのでウケるかどうか不安でした。
しかし、フタを開けてみればジョークは大うけ。講演は大成功でした。
彼は通訳の日本人に言いました。
『ありがとう。キミが最初のジョークをうまく翻訳してくれたおかげだよ!』
『いえ実は――』
彼はつんつんと人さし指を合わせながら言いました。
『ジョークの意味が分からなかったので、「今、社長がジョークを言ったので大声で笑ってください」と言ったんです』」
――俺も悔しいが、どういうわけか腹をかかえながらHAHAHAHA! と発声することを辞めることができない。呼吸が苦しくなり脳に血が周らない。だんだん眩暈すら感じてくる。
「ふふふ。どうやら日本人はジョークが好きじゃないというのはウソみたいですね。どんどん行きますよ!」
「日本のアニメーションはアメリカでも大人気ですよ。こんなジョークがあるくらい。
ボブは日曜日に息子をディズニーランドに連れていきました。
しかし。前日はあんなに楽しみにしていたのに、ちっとも楽しそうじゃありません。
ボブはふくれっつらの息子に尋ねました。
『息子よ。なにがそんなに不満なんだ?』
『だってPOKEMONが一匹もいないじゃないか』」
「最近、日本の歴史も勉強しているのですが、面白かったのは年号を語呂合わせで覚えるヤツデス。例えば『イイクニ作ろう鎌倉幕府』。そこでこんなジョークはいかがでしょう?
『タカシくん。一一九二年にはなにが起こりましたか?』
『鎌倉幕府が成立しました』
『正解です。では一一九五年にはなにがありましたか?』
『ええと……』
タカシくんはしばし考えてこう答えました。
『鎌倉幕府建国三周年 記念パーティ―』」
「日本ではフトウコウとかトウコウキョヒとかってことが問題になっているようですね。アメリカにもその問題はあります。
『はあ。ママ。ボク学校に行きたくないよ』
『どうして?』
『だって。学校の先生や生徒たちはみんなボクを毛嫌いしているんだ』
『あらそうなの?』
『ねえ。ママ。学校を休んでいい?』
『ダメに決まってるでしょ!』
『どうして! 休んでる子はいっぱいいるよ』
『どうしてもこうしても! あなたは校長先生でしょ! 五十二歳にもなって情けない!』」
「日本人のお嫁サンはおとなしいヒトがなんだかんだ今でも多いのでしょうか? アメリカ人は違いマス! ママ・イズ・キングなのデス! それを証明するのがこのジョークデス!
電気屋さんが注文の食器洗い機を配達してきてくれました。ママがそれに応対します。
『ありがとう。ねえ。古い食器洗い機を下取りに出すことはできるかしら』
『性能によりますね』
『じゃあ性能をお見せすればいいのね? ちょっと待って』
彼女は二階に向かって叫びました。
『あなたー! ちょっとこの人の前でお皿を洗って見せてー!』」
「そうそうアメリカンジョークと言えばブラックユーモアが欠かせません。私が一番好きなジョークの一つをご紹介しマス!
ある金持ちの男が自慢のベンツから降りようとドアを開けた所に、後方から別の車に衝突され、ドアがちぎれてしまいました。
『おお! なんてことだ! 俺のベンツが!』
彼は地団駄を踏みました。
すると。助手席に乗っていた奥さんが溜息交じりに言います。
『ねえ。あなたって人はちょっとモノに執着しすぎなんじゃないの?』
『どういう意味だ?』
『だって。ベンツのドアだけじゃなくて、あなたの左手もちぎれてるわよ』
『――!? OHMYGOD! HOLLYSHIT! なんたることだ!』
男は右手で頭を抱えて叫びました。
『俺のロレックスがあああああ!』」
その地獄のような天国のような時間は、ホームルームが終わるまで延々と続いた。
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