第4話 豪運

 

 「なんじゃその目は、せっかくこっちが盛り上げようとしてるのにおぬしも、のってこんかい!」


 神様はそういうと大きなため息をついた。


 ため息つかれてもこちらは困惑するばかりだ。すべられる側の気持ちにもなって欲しいし、やるならもっと面白いことをやって欲しい。そして、つまんねーやつみたいな顔をしないで欲しい。


 「まあいい、まずは実物を見てもらおう」


 神様は一つ咳払いをすると、パチンッとかっこつけたように指を鳴らした。その直後、俺と神様との間に巨大なガチャが生えてきた。俺の背と丁度同じくらいの大きさのそれが突然出現したことに唖然とする。神様はそんな俺の様子を気にした様子もなく、得意げな顔をしながら説明を始めた。


 「では、説明をするぞ。まずこのガチャの名前は”神様ガチャ”という。わしがさっき創ったものじゃ」


 さっきかよ。あの短時間で作ったってことかな。白の大理石を削り出したような見た目をしており、ところどころに生えている苔が時代を感じさせている。太古からある伝説のアーティファクトですとか言われても信じてしまうくらいだ。芸が細かいうえにクオリティたかい。さすが創造神というだけある。だが名前のセンスはないみたいだ。


 「このガチャの中にはエリアスの世界で使える”スキル”それもスキルの中では別格な性能を持つ”ユニークスキル”しか入っておらん、おぬしもゲームをするならスキルくらい知っておろう?」


 もちろんRPGが大好物な俺からしたら、聞き馴染みのありすぎる言葉だ。


 「このガチャの引ける回数は最大で10回。じゃがわしもそんなにポンポン強力な力を与えてやるにはいかない。そこで、ちょっとしたゲームをしてもらう。ルールは簡単。今から渡すサイコロを連続で振ってもらう。最初に振ったサイコロの出た目とその後にサイコロの目がかぶった回数だけガチャを引く権利を与えよう。振る回数は最初のと合わせて10回じゃ」


 なるほど、最低一回はガチャを引けるようになっているのか・・・面白いな。だがこの神、勝負を仕掛ける相手を間違えたな。この提案、俺には十回引いてくださいと言っているようにしか聞こえない。


 双六では常に一番、小学校からの席はすべて窓側の最後尾で、じゃんけんでも負けたことがない。給食の時間に勝ち取ったプリンの数は両手でも数えきれない。今ではもう誰も俺と運勝負をしようとしない。そんな運に愛されたとしか思えないこの俺に

運勝負を持ち掛けてくるとは。勝ったぞこの試合俺の勝ちだ!!


 顔には出さず心のなかで高笑いをしていると、サイコロを手渡された。念のため小細工がされていないか、顔を近づけて観察したり振ってみたりしたが重さも見た目も普通のサイコロだ。まあ、専門家じゃないのでイカサマなんて見分ける方法なんて知らないが。


 「さあ、ふるがよい」


 最初の一回を振ると6が出た。その後も躊躇なくサイコロを転がし続ける。




 「・・・え、えっ」


 神様は目見開かせて出目と俺の顔を交互に見る。



 結果は、


 1回目  6

 2回目  6

 3回目  6

 4回目  6

 5回目  6

 6回目  6

 7回目  6

 8回目  6

 9回目  6

 10回目 6


 まあ、予想したとおりだ。というより俺がサイコロを振るとほとんど6しか出ない上にこれを見た人は信じられないものを見る目を向けてくる。この二つがセットで見なれた光景だ。


 「ま、まあわし前でイカサマできると思わんし、サイコロもわしが用意したものじゃ。今まで見たこともないが、こ、こんなこともあるじゃろう」


 神様はひどく動揺した様子で自分に言い聞かせるように呟いた。


 俺が言うのもなんだが、ないと思う・・・普通は。


 神様は両手で気合を入れるように頬をたたいた。


 「よし、じゃあ気を取り直して10回ガチャを引くがよい」


 神様に促され、ガチャガチャの正面にある大きなレバーを思いきりひねった。思ったよりも軽く回り、カバーのついていない受け取り口から虹色の球が10個勢いよく飛び出しそのまま俺の体に吸い込まれるように入っていった。十回回すわけではなく一回で10個も出てきた。


 『異常進化 を獲得しました』

 『融合 を獲得しました』

 『分解 を獲得しました』

 『早熟Lv.1 を獲得しました』

 『慧眼Lv.1 を獲得しました』

 『大器 を獲得しました』

 『調教 を獲得しました』

 『掌握 を獲得しました』

 『教祖Lv.1 を獲得しました』

 『作成Lv.1 を獲得しました』


 人工音声のような声が頭の中に響いたあと習得したであろうスキルの名前が文字として頭に浮かんだ。不穏な名前がちらほら見受けられたが、そんなことよりも気になることがあった。


 「今の声は?」


 神様は得意げな顔をしながら言う。


 「それは、わしが作成した人工知能じゃよ。エリアスの者全員に聞こえるようになっておる。新しいスキルを手に入れたり、レベルが上がったりすると知らせてくれるようになっておる。詳しくはむこうに行ったときに、自分で確かめるといい」


 「便利じゃろ?」


 確かに便利だ。でも、そういえば聞いてなかった。


「スキルってどうやって確かめるんですか」


「おお、忘れておった。簡単じゃよ、頭の中でも口に出してもどちらでもいいから”ステータス”と唱えると確認ができる。まあ、ここはエリアスじゃないから向こうについてから確認するといい」


「わかりました」


「よし、じゃあここで決めることも、これで最後じゃ。おぬしにはそろそろ転生してもらおうとするかのう」


 俺はその言葉にワクワクしながら次の言葉を待った。


 「最終確認じゃ、年齢は18歳。場所は一番目の大陸の大きな町の近くでいいかのう?」


 「問題ありません」


 「では、ゆくぞ」


 神様が目を閉じ両手をこちらに向けると、あたりが輝きだした。


 「汝 赤晶 開夜 を 世界エリアス に転生させる 汝 に その意思 があるか」


 急に儀式みたいなのを始めた。転生するために必要なことなのだろう。とりあえずのっておこう。


 「あります」


 「了承 を得た 我 創造神 の名のもとに 転生 させる」


 神様が言い終わったのと同時に俺は足先から光の粒子となって地面に吸い込まれてゆく。狼に噛み千切られた時と違って不安や怒りなどの負の感情が一切湧いてこない。


 「では、達者での」


 神様が笑いながらこちらに手を振っているのでこちらも笑顔を作り手を振りかえす。


 「神様も部下の手綱はしっかりと握っておいてくださいね」


 「こりゃ手厳しいのう」


 神様は苦笑いをしている。


 今日は意識を失うことが多いな。そんなことを思いながら意識を手放した。



 光が完全に消え元の白い空間に戻った後、神様は豪華に装飾された手鏡を覗き込みながら、呟いた。


 「あ、やべ座標ミスった」


 不穏なことを言う神様。カイヤは無事生き残れるのだろうか。





(2021.1.24 改稿)

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