第2話 謝罪



 体の感覚がない。自分がどこにいるのかも、どんな状態なのかもわからない。俺は、ただひたすらに薄れていく意識をつなぎとめようとした。ここで意識を失ったらすべて消えてなくなる、そんな予感がしたからだ。


 どれくらい時間が経っただろう。この時間の経過もわからないような空間の中、もう意識が限界まできていた。もう、無理かなとあきらめかけた瞬間、何も感じ取れなかったはずなのに目もくらむような純粋な光がそばに現れたような感じがした。直後、体を何者かにつかまれたような感覚がして気を抜いた瞬間プツンッと意識が途切れた。







 目が覚めると、辺り一面真っ白な部屋に寝転がっていた。下半身は狼に噛み千切られたはずなのに、すべて幻だったかのように元通りになっている。


 本当に自分が立っているのか疑うほど白で埋め尽くされた空間の中で、ひとまずは冷静になろうと口に出して状況の整理を始めた。


 「まず空き地の変な道に入った」

 「そしてでっかい木ががあるところで狼にあった」

 「んで、名前を聞かれたから答えたら怒られた」

 「で、下半身食いちぎられた」

 「気づくと白い部屋にいる」


 ・・・・・・意味が分からん、夢か?頬をつねってみるが普通に痛い。


 そもそも俺の名前はカイヤであってカイーヤじゃないし。たぶん俺、人違いで殺されたんだよなぁ。でも本人確認しないで問答無用で殺すってアホじゃない、まじで。確かにさ、勝手に入った俺だって悪かったと思うよ。でも殺すことないじゃん、てか入られるのが嫌なら看板ぐらい立てとけよ。そもそも・・・


 段々、状況把握というより狼の悪口大会になりつつある思考を止めたのは

しゃがれた老人の声だった。


 「そろそろいいかのう」


 思考にふけっているうちに誰かが自分の前に来ていたようだった。気配もなく表れたことに驚いて顔を上げると、清らかな落ち着くような雰囲気を持つ白い顎鬚を蓄えた老人が立っていた。


 「はい」


 狼の時の二の舞いにならないようにとりあえず返事をした。


 そうすると老人は申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。


 「本当にすまなかった」


 急に謝られたことに面食らいながらも心当たりがある話なので聞き返した。


 「狼のことですか?」


 老人は頭を上げうなずき、事の経緯について話し始めた。



 老人の話を要約すると、まずここは神界とよばれ神が住んでいる場所だそうだ。そして老人はエリアスと呼ばれる、地球でいうと異世界にあたる世界を作った創造神と呼ばれる一番位の高い神様らしい。ちなみに俺を喰い殺した白狼は神の使い、いわゆる天使らしい。そしてめったにないが神界と呼ばれるところにも犯罪が存在し、犯罪を犯した神のことを墜神または神敵と呼んでいるそう。


 ここから自分の身に起こったことにつながってくるのだが、最近ここ100年間起こっていなかった犯罪を起こした馬鹿がいたらしいそれも、エアリス創造神であるこの老人の部下で。名前をカイーヤというその墜神は、同僚の神を3人そして、その神の使いを無数に殺して地球に逃げ込んだらしい。そして血眼になって神々が探しているところにばったり遭遇して、名前を聞き間違えられてぱっくりいかれた。という経緯らしい。


 完全に巻き込まれ事故だ。実に腹立たしいが、死んでしまった今そんなことを言ってもしょうがない。それよりもこの話を聞いて疑問に思ったことを聞いてみた。


 「その墜神は結局どうなったんですか?」


 「おぬしが、殺された場所付近で1日後に捕まった。おぬしがあの巨大な木の近くにいけたのも墜神が近くに潜伏していたせいで、結界が歪み通り道ができてしまっていたからじゃ」


 「それになまじ力の強い神だっただけに見つけやすかった。後1日早ければ、もう少し短気じゃない使いを行かせればと思うと・・・本当に申し訳ないことをした」


 老人は再度頭を下げた


 殺された今、別に謝られても何の益にもならない。俺はそんなことより気になっていることがあった。

 

 「俺は、この先どうなるんですか?」


 過去のことはどうだっていい、変えようがないから。


 「天国・・・いけますか?」


 それよりも、今後の事だ。




(2021.1.23 改稿)

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