人違いから始まる異世界無双
こうせいのノート
第一章 異世界転移
第1話 遭遇
しんと静まり返った部屋の中、床に直でひかれた布団には気持ち良さそうに眠っている男がいた。
ピリリリリリリリリr__
朝日がカーテンの隙間から差し込み始めた頃,枕元の目覚まし時計からけたたましい音が響いた。
男は目をつぶったままむくりと起き上がるとアラームの停止ボタンを思い切り叩いた。彼は音を鳴らすことをやめ、床に転がった時計をみると再び静かになったことに満足したのか、もう一度布団にくるまり眠ってしまった。
差し込む強烈な日の光に目を覚ます。まだ残る眠さの中ゆっくりと起き上がり、なぜか遠くのほうに転がった電子時計を拾い上げ、端がひび割れた液晶をみる。
11:21
・・・目が覚めた
さきほどの眠気はどこに行ったのかと思うほど頭がさえ、背筋に冷たいものが通るのを感じた。そして恐る恐る窓の方をみると、普段から閉め切っているカーテンからもわかるぐらい日が昇っている。
「やっば」
完全にやらかした。というのも今日は春休み明けで高校3年生に進級して登校する最初の日だ。更にうちの学校には始業式や終業式がないため、今日から通常の授業が開始する。つまり、登校時間はいつもどうりなわけで、11時に起きて到底間に合うはずもない。別に、今日一日休んでも成績に響いたりはしないが、初日から親に連絡がいくのは避けたい。遅刻は確定しているが、とりあえず学校には行こう。
寝坊してバタバタしないようにと前日に用意した服に着替えはしたが、もう遅刻が確定している。無駄な苦労だったな、昨日の俺。
準備も終わり自室から出てリビングにいくと、先に家を出た母さんが準備してくれた朝食があった。椅子に座り手を合わせる。
「いただきます」
うちには、母さんと俺しか住んでいない。そのうえ母さんは忙しく働いているため、ほとんど食事を一緒に食べることがない。小さいときは、寂しかったが今は慣れてしまった。
そんなことを考えていると、いつの間にかごはんを食べ終えていた。茶碗をみずにつけ部屋の電気を消した後、家を出た。
俺の通っている高校は自宅から微妙な位置にあるため、電車を使うこともできないし自転車で登校するのも禁止されている。そのため本当は徒歩で行くしかないのだが、俺は自転車を使って登校している。なんだってばれなければ、規則を破ったことにはならないと俺は思う。
誰もいない住宅街のなか、ゆっくりと自転車をこいでいるといつの間にか学校まで半分のところにある空き地に着いていた。
この空き地には今はもうなくなってしまったが、老夫婦が経営する駄菓子屋があった。小学生の頃はよく学校帰りに寄り道していたな、などと懐かしく思っていると空き地の奥に見覚えのない道を見つけた。
駄菓子屋の後ろは、林になっていて駄菓子屋の老夫婦が管理していたのだが二人がなくなってからは管理する人がいなくなり、草が伸び放題になっていたはずだ。それに新しくこの土地を買ったという話も聞いた事がない。しかも駄菓子屋がなくなってからはもう5年以上経過している。
その上、ここは学校の通学路だ。今まで見たことないはずがない。不思議に思い、空き地に自転車を止め近付いて観察をした。
舗装された道路というよりかは、けもの道という感じで草木が生い茂っているが枝を切ってあったりと、明らかに人が整備した跡がある。道の先を見てみると出口がないと錯覚するほどに奥に続いている。何処に続いているかという興味と、どうせ遅刻だしと思う気持ちも合わさり入ってみようと思い至った。
太陽の光が届かず暗くなっているうえに、奥に進むにつれて木々の間のクモの巣が鬱陶しくなってきた。もう引き返そうかなと思っていると、道の先に出口らしきものがみえた。そこまで歩いていくと開けた場所についた。
道中は暗かったがこの場所は樹木の隙間からの木漏れ日でキラキラと明るく照らされ中央にある見上げるほどの巨木の前には赤塗りの小さな祠があった。
いつもなら景色なんてみじんも興味がないはずなのに、この場所だけはなぜか目が離せなかった。
町中の小さな林にそんなものがあるはずないことには気づかず。神秘的な光景に見とれていると、不意に巨大な影が自分を覆った。
とっさに振り向くとそこには金色の目と白い毛皮を持つ巨大な狼がたっていた。その美しい毛並みをした白狼の威圧感を前に立ち竦んでいると、白狼が口を開いた。
「人の子よ、誰の許可を得てこの地に足を踏み入れた」
・・・えっ、こいつしゃべんの??いや、そもそも日本に狼いないし、いたとしてもこんなに巨大じゃないし・・・えっ
巨大な狼がしゃべる様子に先ほどの恐怖心も忘れ動揺しているとしていると白狼は、その様子を質問に答える気はないと受け取ったようで少し声を荒げて言った。
「この地は、我が主様もしくはそれに準ずるものしか入ることができぬ」
「よって貴様のような非力な人間は入ることができない、なのにどうして入ることができた!!」
無駄に仰々しい口調で意味の分からないことを言う白狼に何を言ったらいいか悩んでいると白狼は呆れたような顔をした。
「答えられぬか、では名はなんだ?それくらい言えるだろう?」
このままではさすがにやばいと感じとっさに名前を言った。
「か、カイヤです。」
カイヤと聞いた瞬間白狼は顔を歪め大声で怒鳴った。
「貴様があの墜神か!!!この神敵め、小賢しくも人になど化けおって!!!この場で喰らってくれるわ!!!」
「えっ、ちょま・・・」
次の瞬間には、車に轢かれたような衝撃とブチブチブチという生々しい音が頭の奥に響いた。視界は宙を舞い、薄れてゆく意識の中最後に見たのは、
人間の下半身を吐き捨てている白狼だった。
(2021.1.23改稿)
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