Rebirth-12
「……どう、なった、何で……」
ヴィセが掠れた声で問いかける。ゆっくり目を開いたものの、ドラゴンの姿で地面に激突して以降の事が分からない。
なだらかな傾斜の屋根裏、加工せず乾かしてそのまま使った丸太の梁、それらを見てようやくここが小屋の中だと気付いたくらいだ。
「うぉぁぁ~ん! ヴィセ落ち……で、げがじっ、じで、……おぎなぁぁぁ~……がったあぁぁ……!」
バロンが大声で泣きながら話すため、何を言っているのか聞き取れない。鼻声のジェニスが目頭を押さえながら、ヴィセが傷ついた後の事を説明する。エゴールもバロンの泣き声で目覚め、ヴィセはディットを除く3人に当時の回想を見せた。
「どうやら気を失っていたのは1日程らしいけど……あんた、無茶な事を」
「1日……。それより、飛行艇がどうやってここまで来たのか。網まで……用意していたという事は、ここにドラゴニアがあると知っていた可能性があります」
「戦闘飛行艇で来ている辺り、そうだろうね。ドラゴンの妨害まで想定している。まあドラゴン達が激怒して、基地となる船に向かったわけだけれど」
「向かった……ドラゴン達が!? 止め……」
ヴィセが起き上がろうし、激痛に顔をしかめる。バロンが大慌てでディットへ振り向き、ヴィセが死んじゃうと言いながら再び泣き出してしまう。
今度はジェニスが空母の姿や、ドラゴン達が洞窟から飛び立った時の様子を伝える。ドラゴン達は今頃空母を襲っているだろう。ジェニスはけしかけようと思った訳ではない。
実際にドラゴニアへ攻撃したのは1機1人だけであり、その者への鉄槌はヴィセが下した。ジェニスはドラゴンの習性も否定しなかっただけだ。
人の価値観でドラゴンを抑え込んでは、「ドラゴンは人の世界に合わせろ」と強要する事になる。
「いいかい、ドラゴンというのはそういう生き物なんだ。復讐は駄目だ、飛行艇以外の者は襲ってこなかった、そんなの人の勝手さ、ドラゴンには関係ない」
「ラヴァニさんも行ったよ、我先に空母を目指した。他のドラゴン達も思いは一緒だった。ドラゴニアを攻撃された事以上に、君を傷つけた事に怒りを覚えた」
「ドラゴンは人であるあんたのために怒った。害なす者は絶対に許さず、仲間を何より大切にする。それがドラゴンの流儀だ。ドラゴンにそれを止めろと言えるかい」
ヴィセは自分が上手く立ち回れていたならと後悔したが、同時にこれで良かったとも思っていた。
ドラゴンにとって、敵の排除は生きていくため、淘汰されないために必要な事だった。人が攻撃を仕掛け、ドラゴンに許せと言えるだろうか。
手を出さなければ、ドラゴンは襲わない。その構図を認識させるには、「悪さを働いたがドラゴンに襲われずに済んだ」という証言が邪魔になる。
「ドラゴンが……誰も殺さなくて済む日が来ると良いのに」
「そりゃあ、あたしらが根気よく伝えて行かないとね。人同士でさえも争い、殺し合い、土地を奪い合い、支配し合うんだから」
「俺、ラヴァニ達のこと傷つけるやつきらーい」
「好き嫌いの話だけで済めばいいんだけどね。空のお友達と仲良くしようって、嫌いだからって攻撃するのは駄目だよって、子供でも分かる事なのに」
ドラゴンはやられたらやり返す。自分達から先に仕掛けたりはしない。仲間が傷つけられた時、空気を過度に汚された時、大地を過度に汚された時……それを止めようとして来た。
ただ、ドラゴンは人のように多くの事は出来ない。ドラゴンは己が持つ唯一の手段、破壊を実行することしか出来なかった。
「いつか……人類全体がドラゴンとの共生を受け入れられる日が来るんだろうか」
「少なくともあたしらは出来たじゃないか。言葉が分からなくて誤解していたのなら、あたしらがそれを伝えたらいい」
「それでもなおドラゴンや、ドラゴンが大事に思うものを傷つける輩がいたら、そいつは人類にとっても敵さ」
「牢屋に入らせる! あのゴーンの丸見えの牢屋がいいと思う!」
これからドラゴンをどうやって守っていくか。大地をどうやって再生させるか。浮遊鉱石の金銭的価値より、霧の除去の方が重要だと理解してもらうには何がいいか。
まだまだ考えるべき、試すべき事が山ほどある。
「モスコ大陸の霧を除去して、霧は消せると分かってもらうしかない」
「何十年掛かるんだろうな」
「まあ、人が何世代交代しようと、やり遂げなきゃならん。それがあたしらがこうなった理由だよ。霧の除去が終わるまで、浮遊鉱石の在り処は明かさない」
「あたしはその時、生きていないかもしれない。でも携われただけでいい。実際にドラゴニアに到達出来て、霧が消し去られた光景を見る事も出来た」
ディットはみんなのように長く生きる気はないと言って、未来を早々に託そうとする。
「間違いなくあんたの功績だよ。あんたがいなけりゃ霧の事なんか何も分からなかった。さ、ヴィセちゃん。もう1度ドラゴンに変身して、体を癒しなさいな」
「ドラゴンになって……癒す?」
「ドラゴンとして負った傷は、ドラゴンの姿の方が治りが早いんだ」
「そういうことですか。分かりました」
ヴィセは寒いと言ってブランケットを1枚羽織って外に出る。暫くしてバロンが外に出ると、そこには黒く背中だけ白金に輝くドラゴンがいた。
「……ヴィセ?」
「ああ。1度変身出来ると簡単なもんだな」
「ヴィセカッコイイ! ヴィセのドラゴンになったのカッコイイ!」
バロンは大喜びだ。いずれバロンも変身出来るだろう。ヴィセはズキズキと痛む脇腹や首筋を伸ばし、地面に寝そべる。
「……変身を解いた時、裸になっちゃうのが難点だな」
「大丈夫だよ、ディットさんもジェニスおばーちゃんも、あんまり見てないって」
「……えっ?」
ヴィセがバロンへ振り向き、痛たたと言って元の姿勢に戻る。ここでヴィセは先程服を着ていた事を思い出した。ヴィセも年頃の男だ、女性に全裸姿を見られた事が恥ずかしくて嘆く。
「ドラゴンいっつも裸だよ」
「ドラゴンと人の裸は違うだろ。ああ、最悪だ……」
ヴィセが脱力し、自身の回復に専念し始めた頃、バロンは家畜達の世話を始めた。暫くすると空母へ向かったドラゴン達も戻って来る。
≪ヴィセ! おぬし、ヴィセなのか!≫
「ああ。心配を掛けてすまない」
≪油断しておった、そなただけにドラゴニアと卵を守らせるとは≫
「それより、空母はどうなった」
ラヴァニ達は空母の事など何もなかったかのように振舞う。ドラゴンにとって甲板に体当たりし、艦橋のガラスを割り、炎で包んだ事など当然の事。報告する必要があると思っていないのだ。
≪沈めた、当然だ。乗っていた者を1人連れて来た≫
「えっ?」
ラヴァニの後ろにいた銀色のドラゴンが、加えていた1人の男を地面に転がした。
≪ラーナ島で捕まえた者を生かし、我らへの攻撃をやめさせるための伝令にしたであろう≫
≪この男にもそうなってもらう。断れば命はないと伝えよ≫
ラヴァニ達は復讐だけでなく、今後の事も考えていた。憎いだけで動くのでなく今後を考え、全員とはいかないまでも生かす事を覚えたのは大きな進歩だ。
ヴィセとラヴァニは怯え切った男に向かって事情を話し、生きて帰りたいなら協力しろと言う。
「く、空母はあの1隻だけじゃない。ドラゴニアの位置も共有してしまった。先発が成功すれば、別の空母からあと8機やって来る予定だった」
「止めろ」
「は、はい!」
ヴィセが低い声で唸りながら伝えると、男は小刻みに何度も頷く。ヴィセ達が男を諭す姿を見て、ドラゴンはヴィセ達という仲間を得られた事に感謝していた。
≪人の相手は我らよりも人に任せた方が良いのだろう≫
≪ああ。大地に生きる友らよ、感謝する≫
明日はエゴール達が男を空母へ連れて行く。ヴィセは絶対安静を言い渡され、不満そうにため息を漏らした。
「まあ、年の功さ。ドラゴン達も、周囲の異常がないか警戒しとくれ!」
「そうやってすぐ仕切りだすんだから」
エゴールがため息をつくと、その場に笑いが生まれ、雰囲気がようやく明るくなった。
「大地に生きる友……か。なんか、いいな」
「ドラゴンは空の友? 土竜も大地に生きる友で、ラハヴは海に生きる友!」
「ああ。いつか人が全員ドラゴン達と友達になれるよう、頑張ろうな」
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