Rebirth-10
* * * * * * * * *
≪落ちぬよう、しっかり掴まっておれ! 行き程ゆっくりは飛ばぬぞ!≫
ラヴァニは浮遊鉱石の効果もあって、数時間で海の上へと出た。いつもならジュミナス・ブロヴニクへ寄り道をし、立ち寄ってトメラ屋に顔を出す。
しかし、今日はその少し北の山を越え、ドラゴニアへ一直線。最短距離を弾丸のように突き進んでいる。
現在地はもう深夜だ。バロンとラヴァニは夕飯も食べていない。今はそれも忘れ、ただヴィセの許に1秒でも早く着きたいと願っていた。
≪凍えてはおらぬか≫
≪だだだ大丈夫……≫
バロンは厚着をしているが、気温の低さと風のせいで歯がガチガチ鳴っている。だからといって速度を下げて欲しいとは思っていない。
≪ララララヴァニ、みみ、南、かかか雷……≫
≪雨雲が向かっておる。バロン、もっと速度を上げる、ブランケットを体に巻け。どうせ夜で何も見えぬ、頭まで覆うのだ≫
ラヴァニが速度を落とし、バロンが更に防寒出来るように準備を待つ。ブランケットを体の前から後ろに巻き、しっかりとベルトで固定した。
≪我に任せろ。ヴィセは我らにドラゴニアを再び与えてくれた友だ≫
バロンは寒さで何も話せず、鞍の手摺の下に頭を潜り込ませてじっと耐える。それから更に4時間。うっすらと空が明るくなり始めた頃、数キルテ先を飛ぶドラゴンと、その背に乗る者の姿が見えた。
もう視線の先にはドラゴニアが見えている。ラヴァニはすぐに追いつき、去り際に急げと告げた。
≪我は先に行く!≫
≪ああ、頼むよ! 僕は君ほど速くは飛べないんだ!≫
飛んでいたドラゴンはエゴールだった。背に乗っているのはジェニスとディットだ。エマの電話を受けたディットは、すぐにジェニスへ迎えを頼んでいた。
2人も寒さで震えている。バロンはもっと寒いだろう。それでもバロンが「早く」と呟いた事で、ラヴァニは速度を落とさずドラゴニアへと消えて行った。
* * * * * * * * *
「うわぁぁぁぁんヴィセえぇぇ!」
朝霧が立ち込めるドラゴニアの大地に、1匹のドラゴンが転がるように着地した。浮遊鉱石を身に着けているとはいえ、夜通し飛び続けたラヴァニは疲労で上手く降り立てなかった。
バロンは鞍ごと地面に倒れながらも、ベルトを外して起き上がる。擦り傷や汚れなど気にもならない。
洞窟の周囲には多くのドラゴンが集まっていた。バロンは岩場に苦戦しながらも洞窟の中へと駆け込む。
深さ数十メルテ、緩やかにカーブし、ドラゴンが入れる程大きな洞窟だ。夏は冷たく感じる空間も、冬にはやや暖かく感じる。
ヴィセは最深部で、アッカに守られるように卵の横に寝かされていた。アッカは卵用のブランケットの端を折り、ヴィセに掛けてくれたようだ。
≪まだ目覚めぬのだ≫
「ヴィセぇ、起きてぇぇ……!」
≪何故このような事になった!≫
「起きて……よぉ、ヴィセぇぇ……」
バロンの遠慮のない泣き声が反響し、外に漏れだす。普段はニコニコと明るいバロンを知るドラゴン達は、その悲しみに飲まれそうになっているくらいだ。
≪飛行艇と落ちたとは、どういうことだ!≫
≪我らも全ては見ておらぬ故、ヴィセの姿は捉えていないが……≫
アッカがラヴァニや他のドラゴンに自身が見た光景を伝えた。
飛行艇が浮遊鉱石を狙い、ドラゴン達へ威嚇するように飛び回っている。
その間に機関銃が浮遊鉱石の層を砕き、少しだけ表面が削れた。
≪おのれ……おのれエェェ!≫
ラヴァニが怒りを露わにし、他のドラゴン達も咆哮を響かせる。その怒りはバロンにも伝わっていたが、バロンは今、それよりもヴィセを助けたい気持ちの方が強い。
アッカとは別のドラゴンが、海上の大きな船から飛び立つ飛行艇を見たと言い、その様子の共有を試みる。
それは先程アッカが見せてくれた飛行艇と全く同じだった。
≪許さぬぞ!≫
ラヴァニがくるりと向きを変え、洞窟から飛び立った。他のドラゴン達も一斉に飛び立ち、どこかへ向かって行く。
ドラゴンが再び人を憎もうとしている。ちょうどその時、エゴール達も洞窟に着いた。
「待ちなあんた達! 坊やが何故傷付いたのか、分かっとるやろ! ドラゴンと人の争いを……止めたかったんやないかね!」
ジェニスの言葉に、何匹かのドラゴンが飛び上がるのを留まった。だがドラゴンは仲間をやられて黙っているような生き物ではない。ジェニスはそれも理解していた。
「……狙うなら元凶だけ狙いな! ……南西の海の上だよ」
ジェニスの言葉を聞き、記憶を覗いたドラゴン達が咆哮と共に飛び去った。これから飛行艇が発着できる船、空母に向かうのだろう。
「ちょ、ちょっとジェニスさん!」
「ドラゴン達の怒りは人に向かいそうだった。そうじゃない、あの子を傷つけた奴らだけに向けられるべきなんだ」
「そ、それはそうですけど……」
ラーナ島や各地の情報から、ドラゴニアを探し回る者達の事は知っていた。飛行艇がたどり着けない地域を探索するため、空母を利用している事も知っていた。
ジェニス達は昨夜、その空母を見つけていたのだ。
「さあ、あんたはそれどころじゃない、早く坊やを助けとくれ」
「は、はい……」
ディットが息を切らしながら洞窟の奥に駆け付ける。バロンの悲痛な叫びに胸が痛くなりながら、そっとバロンの横にしゃがんだ。
「バロンくん」
「は……はかせぇ……助けてえぇ!」
「ちょっとヴィセくんを診させて。言っておくけど、あたしは医者じゃない。ただドラゴンの研究のため、ドラゴンの体の構造や生態、生命力の原点を考察……」
「っく、……こう、さっ、って、何いぃぃ……」
「あーごめんごめん! あたしが診るからちょっと待ってね」
ディットがアッカが掛けてくれたブランケットをはぐった。全裸だとは思わなかったのか、一瞬躊躇い顔を赤くするも、咳ばらいをして脈と心臓の音を確認する。
「とても弱い……まずいわね」
「あぁぁぁんヴィセが死ぬうぅ!」
「……あーんもう、泣きたいのはこっちだってば! オムスカにも医者なんて5人しかいないの、みんな来れる状況じゃなかったし……あーんどうしよう!」
ディットは何をするべきか頭を悩ませる。見たところ、打撲はあるが目立った傷はない。
「脊椎が折れた? 首の骨?」
ディットが体を調べるも、骨に異常はないようだ。
「うーん……ドラゴンの回復力なら、もう自己修復で内出血くらいは消えているはずだわ。衝撃で気を失ったなら、頭部に何か……」
≪バロン。ヴィセ殿が我の呼びかけでドラゴン化を解いたと伝えてくれぬか≫
「ヴィ、ヴィセが……ふっ、ふっ……ドラ、ゴン、の、ね? はな、はなしっでね? 気がつい……って、……ね? 自分で、ひっとに戻った……て」
「自分で、戻った? 倒れた後で?」
バロンが懸命に伝えた内容を聞き、ディットは研究で得た知識の引き出しを必死に開けていく。
「ドラゴンの姿で負った傷は、人に戻った時には分かりづらいのかも……」
ディットの呟きに、洞窟の入り口からエゴールが返事をする。
「確かに、ドラゴンの姿で怪我をした時、人の姿では分からない事もある!」
「その場合、どうやって癒すのかしら!」
「もう一回、ドラゴン化する! でも、そのためには血が必要だ。沢山食べ、ドラゴン化に足りる栄養を取り、血を増やす」
「……ヴィセくんには無理ね、この状態で食事は出来ない。かといって、ドラゴンの血を輸血? ……だめだめ、そんな実験したことない」
「あっ……俺! 俺の血! 俺の血ね、ヴィセの血のドラゴンと一緒!」
「同じ……ドラゴンの血を分けてるの?」
「ヴィセくんとバロンくんは、僕が同じ血を飲ませ、傷に塗り込んだんだ」
ディットは考え込んだ後、自身の大きなかばんのチャックを開けた。中から幾つかの医療器具を取り出し、最後に注射器を取り出す。その針を見たバロンは、次第に尻尾が膨れ上がっていく。
「バロンくん。ヴィセくんを助けるためなら……何でも出来るよね」
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