Dragons' Heaven-12
海底に潜り、岩を採取する。それが出来ればもう浮遊鉱石の入手を妨げるものはなにもない。ヴィセは海底の石を使っていいのかと尋ねる。
「浮遊鉱石は、毒霧を吸収してくれるんです。貴重な鉱石だと分かってはいますけど、腐った内陸の空気と大地を元に戻すには、それしかありません」
「採ったらおこる? ダメって言われる?」
「独占しようにも、海は広いから。何よりドラゴンが許し、ラハヴが許している。この状況で駄目だとか、相応の対価を支払えと言えばただの傲慢よ」
「やったー!」
エメナは、相談次第だと前置きしたうえで、潜水艇に乗せてくれるか頼んでくれるという。
「じゃあ、作戦決行の際にお邪魔しますね!」
「ええ、歓迎するわ」
海賊を追い払ったというなら、ラハヴの存在を知る者はヴィセ達だけではない。もっとも、今の世の中で海に出られる者は少ない。海賊が陸でラハヴの存在を言いまわったところで、信用する者もいなかったのかもしれない。
「エメナさんは、俺達がラヴァニと一緒に行動していたから、尋ねてくれたんですよね?」
「ええ。逃げた後、あなた達を追ったのは分かったから。だから何か心を通わせる方法があるんじゃないかと思って。シードラの事も気になったし」
エメナ達には、もう殆ど海竜の血が流れていない。エメナはよく聞き取れる方で、雑音のようにしか聞こえない者もいるという。
出来れば島を守ってくれるラハヴ達に、自分達の考えを伝えたい、そう思ったのだ。
「みんな、受け継いだ血の量が少なかったんだね」
「海竜の血を得た人も、事故で死ぬことはある。ひょっとしたら、その子孫の数が少なくて、受け継いでいくうちに薄くなったのか」
受け継ぐ血が少なければ、自身への影響も薄まる。それはヴィセ達の体を元に戻すカギになりそうだ。もっとも、ヴィセもバロンも、もう元に戻りたいとは考えていなさそうだが。
「興味はあるな、まだ時間はあるから、遠くないなら行ってみたい
≪浮遊鉱石の掘り出しに力を貸してくれるなら、我らも手を貸すべきであろう。我らも今後、海上で休息を取れる土地があれば助かる≫
「きっとドラゴンにとっても過ごしやすい場所よ」
後は、海底の鉱脈の場所を教えてもらって、そこに潜水艇で向かうだけ。1年と少しの短い旅だったが、ヴィセ達はようやくドラゴニア復活と、毒霧の除去に近付いた。
「ドラゴニアもいいけど、魚を食べられるなら、ブロヴニクや島の方がいいかもな」
「ラヴァニに連れてきてもらえばいいじゃん!」
≪いつでも連れて来てやろう。ヴィセらがドラゴニアで過ごしたいなら歓迎だ≫
ヴィセはようやく見えてきたゴールに安心していた。命を狙われたり、悲しい言葉を掛けられた事も、もう今では昔話でしかない。
「まずは、ドラゴニアの下にある霧を晴らそう。土壌まで綺麗にするなら、マニーカの協力も必要だ」
「やる事いっぱいだね!」
≪ラヴァニ村付近に戻り、呼びかけたなら応えてくれるであろう。もうじき、もうじきドラゴニアが復活する≫
「ああ。そうすれば、後は世界を綺麗にして回るだけだ」
浮遊鉱石がどれ程残っているかは分からない。全てを使っても全て除去できない可能性もある。それでもヴィセ達は希望を抱いていた。そんなヴィセ達に、エメナは1つだけと言って警告する。
「浮遊鉱石がどれ程の価値を持つか、分かってるよね」
「はい。石1つで簡単に金持ちになれると」
「そう。手のひらほどの大きさがあれば、飛行艇の機体を格段に軽くできる。霧の除去のためと理解を呼び掛けても、自分のものにしたい人は大勢いる」
「……霧の除去が終わるまで、この事が外に漏れないようにしないといけない、って事ですね」
世界のおおよそは、霧が立ち込める世界に慣れてしまった。苦労はしているが、かつての大地を取り戻す事よりも今の自分の生活を楽にしたい、そう考える方が主流だろう。
となれば、必ず浮遊鉱石が狙われる。浮遊鉱石が出回れば、飛行艇の性能も格段に上がる。そのうちドラゴニアに到達する者も現れるだろう。
「また、浮遊鉱石をめぐって戦争が起きる……」
「歴史は繰り返すものよ。協力者は多い方がいいけれど、選ばなくてはならない。あなた達は優しくて真っ直ぐだけれど、そうじゃない人がいる事をよく覚えていて」
「シードラを飼ってたあのおばちゃんと子供みたいな奴だね」
「そうね、あの家も見栄のために何でもしそう。浮遊鉱石の在り処を知れば、どんな手を使ってでも採掘にやってくる」
≪それならば、やはり浮遊鉱石の運搬や使用は、ドラゴン、土竜、海竜が秘密裏に行うべきだろう≫
「土や水の中を運べば、人に見つかったり捕まえられる心配もないな」
エメナを巻き込み、ヴィセ達はこれからの作戦を立てる。実際にどれくらいの時間が掛かるのか、土壌はどこまで腐っているのか。確認しなければならない事がまだまだある事にも気付いた。
「ドラゴン達が安心して休める場所の確保が必要だ。長い距離を行ったり来たりはさせられない」
「食べ物もいっぱいいるよね。霧の海の周りは魚しかなかったし、飲める水もあんまりないよ」
「水はドラゴニアで確保するとして、食料……か」
ヴィセもバロンも自分達のことではなく、協力してくれるドラゴン達の心配をしている。そんな様子を見て、エメナは成程と頷く。
「そっか。私、ラヴァニさんが一緒に旅をしている理由が分かった」
「え?」
「ドラゴニアを救いたい、世界を救いたい。そうじゃないのね」
≪何を言っておる。我はそのつもりだが≫
エメナはそれだけではないはずだ、と笑う。
「ヴィセくん、バロンくん。きっとあなた達は会話が出来るから仲良しになれた訳じゃない」
「……? 会話が出来なければ仲良くなりようもなかったはずですけど」
「私の言葉はラハヴに伝わらない。あなた達がいれば別だけど。言葉は伝わらなくても信頼してる。ペットだって、飼い主と仲良しになれるわ。そうじゃないの」
これは考え方の問題だと前置きし、エメナは嬉しそうに微笑む。
「あなた達、それ自体がきっとドラゴンやラハヴ達にとって心地よい存在なのよ」
「俺達が?」
「ええ。あなた達といれば、ドラゴンにもラハヴにも幸福が訪れる。あなた達が導いてくれる。あなた達そのものが楽園と言ってもいいわ」
「ラヴァニ、そうなの?」
エメナの言葉を聞き、ラヴァニは自身の中で腑に落ちたと感じていた。仲間だから、恩があるから、そう理由を付けてはいるが、単純なことだ。
ラヴァニは、ただヴィセ達と一緒にいたいのだ。
≪そう、だな。確かにヴィセ達は我々にとってかけがえのない存在だ。我は……この楽園を手放せぬ。なんとも心地よい、気に入りの場所なのだ≫
ラヴァニがヴィセの肩に乗り、器用に座って見せる。ヴィセは笑いながらラヴァニを撫で、バロンの膝の上に乗せた。
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