11・【Confused Memories】遥かな地、対立の彼方
Confused Memories-01
11・【Confused Memories】遥かな地、対立の彼方
ブロヴニクのミナに教えられ、ヴィセ達は霧の海から南に1000キロメルテの大陸を目指していた。
ドース島。島とは言っても数千キロメルテ四方もある大陸だ。他の大陸の例に漏れず、この大陸も外輪山に囲まれ、海沿いには平野が殆どない。霧から逃れるためか、大陸周囲の崖にはびっしりと家が張り付いている。
家を建てられない場所の岩などは剥き出しだが、殆ど緑はない。
黒く崩れやすい斜面は所々崩壊しており、家が巻き込まれた形跡もある。それでもこの大陸の人々は霧と無縁な生活を求めていた。
「なんか、俺達がいた大陸とは全然違うな」
「斜面にずーっと家が並んでる!」
≪我はこのような大陸になる前しか知らぬが、随分と醜い土地になったものだ≫
ラヴァニはドース島の北西部の港町を回ったが、あまりにも平地が少なく飛行場もない。密集した低層の建物はドラゴンが降り立つことを阻み、海沿いに降りるのは無理と思われた。もう夕暮れが近く、空から探すのも難しい時間だ。
道路に降り立つにも、現地の人たちがドラゴンに好意的かは分からない。姿が見えた途端に銃撃される可能性もある。仕方なく海沿いを諦め、ラヴァニは内陸へと向かった。
「港まで建物に占領されて、本当に隙間がなかったな」
「おれ、同じ海でもミナばあちゃんの町の方が良かった」
「ああ、初めて訪れる海の町がこんなだったら、ガッカリしたかもしれないな。モスコ大陸の方がマシ」
ヴィセは自分達の住んでいた大陸の方が良いと言い、ラヴァニが降りられそうな場所を探す。
「……見事に何もない」
「外輪山以外に高いものが何も見えぬ」
「海沿いにしか人が住んでないのかな」
「そんなまさか。ミナさんは霧を生み出した町の生き残りは内陸にいるって」
≪我は流石に探し回れる程体力が残っておらんぞ≫
「だよな、こうなったら外輪山の頂上でも仕方がない。水と食べ物は2日分ある……ラヴァニの分の水さえ確保できれば」
ドース島はモスコ大陸よりも平均海抜が低いのか、霧の上に顔を出している部分が全く見当たらない。モスコ大陸であれば、上空3000メルテ付近から眺めたなら何カ所かは高原や山が顔を出していた。
このドース島で大陸の海沿いの崖に張り付くように住むは、他に土地がないからだった。
「ヴィセ、あっち雨が降ってる!」
「って事は、雨雲が去った場所なら水には困らないな、あそこにしよう。濡れるけど仕方ない」
ラヴァニは雨雲が去った後の外輪山に降り立った。岩盤が剥き出しの場所であれば、水も貯まりやすいし足場が崩れる心配もない。
「食べ物……足りるかな」
「どうだろう、まさか町の近くに降りる場所がない事までは想定してなかった」
≪恐らくこの外輪山の外側にも家があると思うが、道がなさそうだ≫
「そこなんだよな。鞍をここに隠して、ラヴァニを小さくして、なんとか町の中に入れたらいいんだけど」
「でも、食べ物買えるお店が近いかどうか、分かんないね」
「そうだな、まいったよ」
150年の間に他の大陸の情報は殆ど入らなくなった。ブロブニク地区などはまだ良い方で、このドース島北西の地域は水深が浅く、大型の貨物船などは立ち寄れない。
かつて飛行艇が発着していたような町は霧の中に沈み、近隣の町と行き来する小さなフェリーが唯一の手段だ。油田は南東部に2カ所のみ。ドース島、特に北西地域はこの150年で最も文明が低下した大陸だった。
「トメラ屋のごはん、美味しかったなー。ドーンのごはんも美味しかった、ナンイエートのおじちゃんのところも」
「どんなに言っても俺達にあるのは干し肉だけだ。明日も飯を調達できなきゃ引き返すことも考えないと」
≪我は流石にこの距離を何度も行き来出来ぬぞ。ブロヴニクまで何千キロメルテあると思っておる≫
夏とはいえ、標高が3000メルテ近いと流石に寒い。ヴィセ達は長袖とコートを出し、ラヴァニは小さくしてバロンが抱える。焚火のための薪もないため、ラヴァニが火を吐いても燃やせるものがない。
辺りは次第に暗くなり始め、空には星が瞬き始める。月と星の明かりが辛うじてヴィセ達に互いの影と形を与えるだけの世界だ。
「海には飛行艇で立ち寄れないし、来るには船しか手段がない、か。ハァ、明日からどうするか」
≪霧の中を進むにも食料が必要だ。備えが出来ぬのなら、いったん戻る事も考えねばならぬが、満足な食べ物がなければ飛んで戻れぬぞ≫
「だよなあ、どうしよう」
港町まで降りられたなら、生活用品を売る店くらいはあるだろう。眠りに就く前の何気ない会話をし、ヴィセはブランケットを羽織って岩にもたれかかった。バロンはヴィセの足の間に座り、少しでも体温を逃がさないようにしている。
「おやすみ、明日から多分歩く羽目になる」
「ねえ、ヴィセ」
「ん?」
「あれ、星じゃないよね」
「どこだ、どれ?」
「真正面、ほら何か光った」
寝る前にバロンが光を見つけた。光はついては消えを繰り返し、まるで飛行場やブロヴニクにある灯台のようだ。
「本当だ! 夕方は見えなかったけど、小さな集落があるのかもしれない」
≪明かりを灯せるのなら、完全に孤立しているとは考えられぬ。集落ならばどこか別の場所に通じる道もあろう。なにせ飛行艇が降り立つ場所がないのだから≫
「陸続きでどこかと交流してるってことだよな」
バロンが明かりを見つけた事で、明日の行き先が決まった。それだけで皆の心が少し軽くなる。
「ほら、ラヴァニ村やユジノクでは低い位置に見えていた星座が高く見える」
「えー? せいざって何?」
「昔の人は明るい星を線で結んで、物に例えていたんだ」
「どれ結ぶの?」
「俺が知ってるのは豆畑座と、家座くらいかな」
「どれ? 全部明るくてわかんない!」
ヴィセは指で星を指し示すが、星が多すぎてバロンに上手く伝わらない。そもそもヴィセだってその線を結んだものが豆畑や家の形には見えていない。
「お肉座は? お魚座はある?」
≪ドラゴン座はないのか≫
「わかんねえよ、自分でそう見えるように星と星を結んで、新しい星座を作ってもいいんじゃないか」
「わかった! じゃあね、じゃあね……」
バロンは明るい星を無理矢理繋げ、どれが魚だ、どれがドラゴンだと楽しそうに説明する。それからバロンはまた星を指で繋ぎ始めた。
「今度は何を作ってるんだ?」
「へへっ、えっとねー」
バロンの表情は見えないが、冗談でも言っているかのようにクスクスと笑っている。ヴィセが再度尋ねると、バロンは大笑いしながら答えを告げた。
「あれがヴィセ! その横にね、ラヴァニがいる! 俺があのへん!」
「ははっ、今度絵に描いてもらおうかな、空を見上げる度、楽しい気分になれそうだ」
どこにヴィセ座があるのか、バロンの指の動きでは全く分からない。けれどバロンの目にはそう見えているようだ。人工的な明かりを見つけてから、ヴィセ達はすっかり気持ちも浮上し、心にも余裕が出来ていた。
普段の旅なら星を見上げて綺麗だと呟く事すらない。
≪バロン、ではゆでたまご座と鶏肉揚げ座も作ってくれ、空腹の際はそれを見上げて凌ごう≫
「えー? じゃあね……あれがね、殻が付いてるたまご座! その横がね、殻が全部剥けてるゆでたまご座! 鶏肉って、てばさき? むね肉?」
≪我はどの部位でも良いぞ≫
「じゃあね……」
バロンは楽しそうに星を繋いでいく。新しい星座をどんどん生み出すバロンに笑いながら、ヴィセは「その前に」と言って星座作成に加わる。
「先にニワトリ座を作ってからやれよ、ゆでたまご座や鶏肉座なんて考えるのお前らだけだぞ」
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