Discovered 03
エリックの言葉に、ヴィセとラヴァニは耳を疑った。
「待った待った! 現れた大男って、黒い全身鎧を着ていませんでしたか!」
「この施設内を案内した時は、長袖長ズボンで全身黒かったけど。あ、そういえば預かるのに苦労したのを思い出したよ。確かに黒い全身鎧だった」
エリックは頷き、その男の黒い鎧を除染したという。
≪あの男が我が友と行動を共にしていた可能性が高くなった≫
「ああ、問題は何故ここに寄ったか。すみません、その人を探しているんです。どうしてこの村に来たのか、話していましたか」
「偶然寄ったみたいだよ。友達を待たせているとか、仲間を集めているとか、色々言ってたかな」
「友だちって、ラヴァニの友だちのことかな?」
「ああ、恐らくそうだ」
ヴィセ達は、黒い鎧の男の手がかりがこんな所にあるとは思っていなかった。この村の事を尋ねるよりも男の事を詳しき聞き出し、おおよその行動を把握した。
男が言った事が真実だったなら、霧の中に飛行艇が不時着したため、歩いてきた事になる。霧の中で待たせていた友人とは、あの死んでいたドラゴンの事だ。
エリックの話からするに、ヴィセやラヴァニの敵ではない。男はドラゴンがこの世界には必要な存在であると主張し、霧を消す為に旅をしていると語っていた。
「君はドラゴンを連れているね。きっとあの人も君の事を知ったら喜ぶよ」
「喜ぶ?」
「ああ、ドラゴンと人は共存すべきだと言っていたからね。霧を消すことが出来るのはドラゴンだけだって」
「ドラゴンが霧を……消す?」
ヴィセは思わずラヴァニへと視線を向ける。ラヴァニは肯定のため、ゆっくりと頷いた。
≪我が霧を吸って吐けば、確かに浄化できる。だがこの広大な大地の霧を消すとなれば……≫
「かなりのドラゴンを集めないといけないな。あてはあったんでしょうか」
「方法は分からないけど、各地を回ってドラゴンにお願いをしているって」
今度はラヴァニが驚いた。鎧の男は各地を回ってお願いをしている……つまり、この数年でドラゴンに会っているのだ。
≪ドラゴニアの場所について、何か言っていなかっただろうか! 我が仲間はどこに≫
「あの、ラヴァニがドラゴンに会いたがっているんです。どこで会ったのか、1カ所でも言ってませんでしたか。ドラゴニアの場所は」
「俺も滅多に外に行かないから、どうなっているのか分からないけど、東の山にいたから、次は北の山だ、と」
ドラゴニアという言葉を出してはいなかったというが、ドラゴンは確かにまだ各地にいる。そして、黒い鎧の男が呼びかけて回れるのなら、まだ理性的な話が出来る状態にあるという事。
ドラゴンは怒りに我を忘れていない。その情報は大きな収穫だった。
「ユジノクに来たのは、ここの後ってこと?」
「多分な。ラヴァニの友達が何故死んだのかは分からないけど、もしかしたらバロンに飲ませたのが最後の血だったのかも」
エリックに連れられて村を1周した後、ヴィセ達はエリックの家に案内された。村の事を知る機会だと思ったが、エリックの両親は外の世界を知りたがっていた。
この町の者はドラゴンをあまり恐れていない。驚きはするが、それだけだ。
霧の発生以降、この村はドラゴンの恐怖を伝え聞く事すらなかった。霧の発生当時から何世代も後のエリック達にとって、ドラゴンの話は怖い怖くないですらないおとぎ話なのだ。
「ドラゴンは何を食べるの? 外の人たちは何を食べているのかしら」
「2年に1度くらいは外に行くんだが、この村の方が技術が進んでいるようだ。外の生活の方が大変そうだし、他の村や町もシェルターを作るべきだったよなあ」
1つ聞いては1つ答える。それを1時間ほど繰り返した頃、ヴィセ達はやっとこの村の事を理解できた。
それまではドラゴンの事、黒い鎧の男の事を知りたいと思う気持ちでいっぱいで、この不思議な空間をの事を考える余裕がなかったのだ。
「外に繋がってるって事は、あの守衛室は一体何のために?」
「あれは外壁補修用の出入り口なんだよ。150年も経っていると、ひび割れも出てくる。外と村を繋ぐトンネルも、月に1度は外から点検する必要がある」
「トンネルの出口にも村があるんだよね?」
「ああ、10軒もない集落だよ。ここへの入り口を守るための集落さ」
「俺達も帰る時はそこから帰ってもいいでしょうか」
霧の中を歩かなくて良いのなら、その方がいい。霧の中で知りたかった事は一通り分かったし、ユジノクまで歩く必要もない。
「飛行艇を持っている訳ではないから、そこからかなり歩く事になるよ。出口まではワイヤートロッコで4時間、集落からユジノクまで4日、尾根伝いにネミナ村まで3日だ」
「十分です、有難うございます!」
「トロッコは連絡を入れておくよ。地上に上がっていたらかなり待つけど、詳しくは乗り場で聞いて」
「はい!」
エリックとエリックの両親にお礼を言い、ヴィセはごく普通の木造平屋を後にする。
「……やっぱり、まるで外だよなあ。壁はあるけど近くだけを見れば違和感がない」
≪新鮮な空気は送られているようだが、やはり我は外の方がいい。早く行かぬか≫
「そうだな。荷物を取りに戻って、出発しよう」
ドラゴニアにも、黒い鎧の男にも、確実に迫っている。ラヴァニは仲間がどこかにいると分かり上機嫌だ。しかし、バロンはどこか元気がない。
「どうした? 気分でも悪いか」
「……ううん。俺……多分、伯父さんに連れられて通ったと思う、その道」
「えっ?」
「ユジノクのスラムの先に伸びる道が、ネミナ村まで行く道なんだ。途中で大きな風車がある村を通ったのは覚えてる」
バロンの伯父はバロンを捨てる為ではなく、守るためにスラムに置いた。けれど幼かったバロンは捨てられたのだと思い、何度も来た道を戻ろうとしたのだという。
あまり思い出したくない道だろう。
「もし……もしさ、集落の人が俺達の事を匿ってくれたら、伯父さんも死ななかったよね」
「それを言うなら、どこの村だって町だって一緒さ」
≪悪いのはあのドナートという男だ。バロンが捕まえて仇を討ったではないか≫
「うん」
ラヴァニが励ましのつもりでバロンの肩に乗る。そんな外からの客が珍しいのか、ドラゴンが珍しいのか、すれ違う村人全員が声を掛けてくる。
「外から来たの? へえ、外は大変でしょう」
「なーんにもないけど、住み易くていいところでしょう?」
当たり障りのない返事をしつつ、ヴィセ達は守衛室に向かう。そろそろ挨拶が苦になって来た時、帽子を被り、目の前をゆっくり杖をついて歩く男の姿が見えた。
「あの人、だいじょうぶかな」
「足を怪我しているのか、それとも具合が悪いのか」
背丈はヴィセと同じぐらいだろうか。白い半袖のシャツに、草色のズボン。歳をとっているようには見えない。杖の先を時々左右に振りながら、何かを確かめている。
「ひょっとして、目が見えないのか」
「手伝う?」
「んー、どうするべきか、迷うな。余計なお世話だと思われ……あ、おい!」
ヴィセが悩んでいる間に、バロンが男へと駆け寄ってしまう。ヴィセが慌てて追いかけた時には、既にバロンが声を掛けた後だった。
「聞いた事のない声だ、どこの家の子だったかな」
男は30代後半ぐらいだろうか。声は若いが弱々しく、やはり目が見えていない。バロンのいる場所ではなく、前方を向いたままだ。
「俺ね、外から来た! バロン!」
「ほう、外から来たのかい。バロン君、ゆっくりしていきなさい」
男は心配いらないと言って再び歩き出す。バロンはその男とヴィセを交互に振り返る。
「どうした?」
「……ねえ、俺、もういっかい伯父さんの生きてた時の様子が見たい」
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