Ch.6:Out of controll,freaking guilty monster
6-1.『ほら、あたしだけ見てろって』
薄闇を貫く銀の光条は、笑みを浮かべ指を鳴らす〈セーレ〉の鼻先で急停止。
光の正体は
即座に逆手に持ち替え、四足獣の姿勢から全身のバネを用いて飛び上がる。
鼻をひくつかせたワイスは、振り返りざまに
「か――ぁはっ」
吹き飛ぶワイス。
歪む口元から漏れた白い息が背後に
「あっぶなー、シルヴィさんきゅ」
体勢を立て直したワイスの声に一鳴き返して、
一方で残心を終えた〈セーレ〉は、腰を落とした姿勢から、ゆったりと翼を広げる鶴のを思わせる動きで構えた。
「――『マッスルカンフー』ってご存知ですか? 僕、あの映画好きなんですよ」
「知ってる知ってるー。でも誰の
得物をホルスターに収めたワイスもまた、
無数のナイフが突き立ったアスファルトの上。
「そちらは……
「そーそーそれだそれ。お互い映画仕込みのニワカなんだし、しばらく
言葉の終わり際、ワイスは
左胸を狙って突き出されるブーツの爪先。対する〈セーレ〉は上半身を
「ぅうるぁッ!!」
猛犬の
拳が〈セーレ〉の顔を穿つ直前、蛇のように滑り込んだ右手によりいなされた。続く左拳を上半身を傾けて
腰の捻りまで加わった重い一撃に半歩下がるワイス。〈セーレ〉は白いレザージャケットに包まれた細腕を掴み、駄目押しとばかりに引き寄せながらの前蹴り。
鳩尾に革靴がめり込む寸前、ワイスはふくらはぎに横から拳を叩き込んで反らす。さらに掴まれた腕を振り払って間合いに踏み込み、目にも留まらぬ
しかしそれらはのたくる蛇じみた腕の動きで絡め取られていく。やがて外側へ弾かれ、晒した腹部に〈セーレ〉は両手を重ねた掌底を打ち込んだ。
よろめくワイス。指を鳴らす〈セーレ〉。
一瞬にして二人の距離が詰まる。肉薄から腰を落としての掌底が、体勢を立て直せないままのワイスを襲う。
掌が触れた瞬間、猛禽のごとく曲げられた五指が滑らかな腹を突き破った。さらに掴んだまま手首を捻る。常軌を逸した
螺旋の
アスファルトを
一瞬で眼前に出現した〈セーレ〉の蹴りに、目を剥きながらも
苦痛の呻きが
白タキシードに包まれた長駆がくの字に折れるも、指を鳴らして姿が消える。
刹那、立ち上がっていたワイスが前に吹き飛ばされた。先ほどまで彼女が立っていた場所には、
ワイスの背後に自身を移動させることで、蹴られて吹き飛ぶ勢いを
「ぅわっぁはは、 そうきたかー!!」
驚きとともに吐き出した笑い声は、白く染まり雲のように膨れ上がる。
吹き飛んでいくワイスのその先に
強引なUターン、先ほどの勢いに遠心力まで加わった跳び膝蹴りが〈セーレ〉を襲う――と見せかけて足を跳ね上げた。靴裏ではなく爪先を突き込む一蹴。伸びる仕込み刃はさながら蜂の一刺し。
切っ先がタキシードの胸ポケットに触れるか否かの紙一重。横から掌底を当てて払った〈セーレ〉はその勢いのまま身体を旋転させて手刀を放つ。
蹴りを逸らされたワイスもまた、身体を捻って裏拳へと転化。
かち合う二種の打撃。込められた超常の膂力は衝撃波へと変換され、周囲に吹き荒れた。
着地から時間差なく放たれるワイスの縦拳。受け止めた〈セーレ〉は、もう片方の手刀で細腕を撫でるように滑らせそのまま顎を掴んだ。
首が倒れて背を反らさざるを得なくなったワイスの鳩尾に、真上からの肘打ちが落雷よろしく降り注ぐ。
しかし、ワイスの足は既に床を蹴っていた。崩された体勢から、力任せの強引な宙返り――側頭と脇腹をそれぞれ左右の脚で蹴り付ける。
たまらず後退した〈セーレ〉は、追撃の
だがワイスは両肩を引っ掴んで、さらに膝蹴りの
両腕の
地に足が着くと同時、ブーツの底が
トドメの一撃。神速の
虚空を貫く。
指が鳴る音は遅れて響いた。
目を剥いたワイスが振り返りざまに放った
裏拳は、鞭のようにしなる白タキシードの袖とかち合う。
交錯する腕、陥る
その様は真剣での
「健気ですね……相棒が作戦を思いつくまで、多くの情報を引き出すための時間稼ぎ。先に
「あたしはお利口な飼い犬じゃないから、散歩の用意ができるまで待ってたりしないよ」
〈セーレ〉の双眸がアルバートの方へ滑りかけた瞬間。
ワイスは肘を畳んで肉薄。触れ合うほど近くにある鼻梁に、噛み付くフリをした。
「ほら、あたしだけ見てろって。――
碧い熱視線と蒼玉の
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