Ch.5:DANCE everybody, KILL everybody
5-1.『貴女を助けに来たんです』
五――四――
ぎゅっと目を
肉を裂く音が、
それは昼間に見た
でも、あと少しの辛抱。
三――二――
不意に、地獄の
終わったのかな。
胸の中でひとり
ゆっくりと腰を上げ、いやに静まり返ったカウンターの向こうを
「……え?」
思わずぐるりと見回した周囲の景色は、一面の砂原。
カウンターの切れ端と一緒に、道路を隔てた向こう側にいたのだ。
さっきまで、あそこにいたはずなのに。
カウンター越しに見遣った安酒場の方からは、
「……ぁ、れ?」
理解が追いつかず、掠れた声を漏らしたアナスタシアはその場にへたり込んでしまう。
緊張で汗ばんだ肌を夜風が撫でたかと思うと、不意に視界の右端から手を差し伸べられた。
「――ご無事ですか? ミス・リーガン」
すらりとした、それでも男性らしい
終着点にあったのは、あどけない顔立ちを柔和な笑みで飾り付けた美青年。
その所作に、『白馬の王子様』なんて形容詞が思い浮かんだ。
「さ、僕の手に掴まって。立てますか?」
「…………」
「?」
静止したままのアナスタシアに小首を傾げたかと思うと、美青年の顔は心配そうに
「……まさか、どこか怪我でも?」
それを見てやっと、アナスタシアは自分が呼吸も忘れて
「――ぁ、えと、だ、大丈夫です……っ!!」
弾かれたようにすっくと立ち上がる。
一瞬だけ
「そうですか。それは良かった」
「あ、貴方は一体……それに、どうして私の名前を?」
一体全体なにがなんだか……混乱する思考を無理やりまとめて問いかける。
すると、美青年は小さく震える両肩に手を置き、再び小さく笑った。
「僕は〈セーレ〉――貴女を助けに来たんです」
『五秒だけ待ってて。数え終わったら、ナターシャはもう安全』
――もしかしてワイスの知り合い?
――さっき安酒場で仲良さそうにしていたし、あの娘は『嘘つかない』とも言っていたし……
考え込むアナスタシアを
すると、二人のすぐそば――さっきまで何も無かったはずの空間に一台の車が出現。
夜闇より黒い流線型の車体が、月明かりを反射して黒曜石のように煌めいた。
「僕は貴女の味方ですよ。――さぁ、こちらに」
目を丸くしているアナスタシアを
まるで
「――あ、あのっ!!」
車を発進させようとする運転手を呼び止め、隣の〈セーレ〉にあたふたと身振り手振りで説明する。
「まだ私の友達が、お店の中にいて……あそこ、今すごく危ないことになってて。お願いです、助けてくだ「しーっ」
〈セーレ〉が急に鼻先まで顔を近付け、唇に人差し指を押し当ててくる。
絵本の中から飛び出してきたような美形が、まるで口付けでも求めるように迫る。
思考がショートする。頭の中が真っ白になる。
「大丈夫。あの二人なら、きっとすぐに追い付きますよ」
柔らかい笑みと共に諭されると、不思議と安心してしまう。
「は、はい……」
顔が赤い、見ないでも分かる。触れた頬はひどく熱かった。
ぱたぱたと手で
私は“友達”としか言っていないのに――
どうして、二人いるって分かったの?
◆◇◆◇◆◇
「やられたな……あのスカシ野郎にまんまと出し抜かれたわけだ、俺たちは」
〈セーレ〉の言っていた別件とは、アナスタシアを奪うこと。
マフィアどもの襲撃はそのための陽動だった。
その視線の先で、真白いシルエット――
ワイスが追っているのはアナスタシアの匂いだ。
さっきじゃれついたときに覚えたらしい。普段は
相棒が一度狙った獲物を取り逃がしたことは無い。
今はテールランプの軌跡どころか車の影すら見えないが……
「奴はマフィアを利用したのか、それともグルなのか……どう思う?」
「お前の名探偵ごっこに、あたしを巻き込むなー」
「悪かったよ、
「……てかバートさー、外にいたのに気付かなかったの?」
ダッシュボードに脚を載せた相棒の指摘に、意識せず眉が持ち上がる。
そうだ。ロゼとの会話に意識を
車の走行音は嫌でも耳に入る。
撃つ直前に銃の
全くの無音で成功させるなど不可能――
だが、寸前まで怪しい物音はひとつも聞こえなかった。
普通なら有り得ない。
だが、〈
「おそらく、〈セーレ〉がマフィアどもを
“移動”の能力を用いて、銃火器を構えた戦闘員を一瞬であの場に展開させたとすれば。
前兆の無い完璧な奇襲にも、一応の説明が付く。
そしてこの仮説が正しければ、奴が移動させているのは物体ではなく――
視界に入った景色への違和感に、アルバートの推測はそこで途切れた。
行く先に見えてきたのが、大規模なショッピングモールだったからだ。
おまけに、
――おかしい。
俺たちを
何故わざわざ袋のネズミに――
いや、違う。
奴らは逃げているのではなく、誘い込んでいる。
ネズミは俺たちの方で、地下駐車場はいわばネズミ捕り――十中八九、罠だ。
「“本土”のギャングはずいぶんと優しいな。……
「ハ、
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