2-4.『一晩、尻を貸すだけで良いのよ?』
「――ちょっと聞いたわよォ。アンタたち、まーた面倒事に首突っ込もうとしてるみたいね?」
マスターからカウンター越しにコーヒーカップの乗った
「相変わらず情報が早いな。一体どうやって仕入れてるんだ?」
「企業秘密に決まってるじゃない。バレたら商売上がったり……なぁに、気になるの?」
小さく肩を
アルバートは
「経営者の端くれとして、
「まぁ感心。一晩アタシの相手になってくれたら、考えてあ・げ・る♪」
「やめとこう」
「あらら、
マスターは手で口許を押さえ、くすくすと
包容力に
からかうような声はチューバのように野太い安定感。
「一晩、尻を貸すだけで良いのよ?」
ロゼ――本名ロミオ・ツァイスル。
「大丈夫だよバート。あたし、
両手で持ったマグカップから
「お前がそういう趣味でも、
「お前からの好感度なんて、もうマイナス振り切ってるだろ。いまさら増えてなんの得がある」
毒を吐いたついで、昼食代わりのサンドイッチを口に詰め込む。
新鮮なトマトとハム、クリームチーズの
「今の発言、ポイント高いよー」
「なんのポイントだよ……貯まったらなんかくれるのか?」
「
首筋に鋭利で冷たい感触。
いつの間にか、
見えなかった——ナイフを抜く予備動作も、マグカップから手を離したことさえも。
「ちなみにー、月に一度のあの日にはポイント十倍で――」
「ワーイースー?」
極めて優しい調子の声が、相棒の暴挙を
「ウチで流血沙汰を起こしたらどうなるか……分かってるでしょうね?」
細指が握るナイフへと注がれるロゼの冷え切った視線と、穏やかな笑顔の裏にある有無を言わさぬ謎の圧力。
するとワイスは毒気を抜かれたように
「
「いま俺が笑ってるのはな、明日の朝食を見たお前が泡吹いて倒れるのが想像できたからだよ。……今日は震えて眠るがいいさ」
「二人とも、あんまりバカな真似しないようにね? 度を過ぎたら……追い出しちゃうから」
冗談にしてはいくらか冷たく真剣な口調のロゼに、アルバートとワイスは
『バーソロミュー&ウルフェンシュタイン警備輸送』は、あくまで中立の
単に
ダブルブッキングなど起こした日には、商会同士の
反面、
面倒なしがらみや、組織の
アルバートは経営を続ける中で、既に
しかしそれは
いざというときに頼れる強力な
どれほど楽しく談笑しようと、冗談を言い合えるほど親密になろうと……ロゼが向ける笑顔は、客に向けての愛想笑いのまま変わらない。
腹の内を明かす
使えないと分かれば、必要ないと判じられれば、あっけなく切り捨てられる。泣きついたところで、零細事務所なんて歯牙にもかけない。
信用という糸をありとあらゆる場所に張り巡らせ、
雨が降れば、水滴の重さで
突風が吹けば、
悪意ある人間に見つかれば、
この島の
現状を改めて考えると苦行のようだが……それが不必要な敵を増やさないための安全策なのだ。
もっとも、
「――それで、今日はなにをご所望?」
言って、
本題に入れと暗に示す彼女に、アルバートは胸ポケットからスマートフォンを取り出した。
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