2-5.『夢のある話だな』
アルバートはスマートフォンを少し操作してロゼの口座に入金。本題について切り出した。
「――〈
そもそもここに来たのは、
もちろん、ロゼが豆の産地からこだわって
しかしそれを頼んだのは、社交辞令を交わす程度の意味合いしかない。
本当の目的は、ロゼのもうひとつの顔――情報屋としての力を借りるためだった。
アルバートが
「あれは『教会』の〈
ブレンダンから概要を聞いたあと、アルバートは思案する中でひとつの可能性に行き着いた。
かつての宗教特区は今や、様々な教会や寺院、極東の寺社仏閣までもが乱立する宗教の小宇宙と化した。
そこに集うのは『
彼らは戦闘に
一般人では〈悪魔憑き〉を殺せない以上、〈悪魔祓い〉の犯行だろう――
そう踏んでいたのだが、ロゼは緩く首を横に振った。
「もし『教会』の奴らが殺したなら、不浄だからと現場を清めて
なるほどと
『教会』の連中は
〈悪魔憑き〉への
なにより、商会間には休戦協定がある。
もはや形骸化して、
――
頭を悩ませるアルバートの横で、ワイスはカウンターに突っ伏してすやすやと寝息を立てていた。ホットミルクとケーキで満腹になったのだろう。
人の苦労も知らずに
「あと、“本土”の有力なマフィアが島に
「気にすることか? この島で六大商会を差し置いて台頭できた奴らなんていないだろ。
手掛かりを与えるように耳打ちしてくるロゼに、アルバートは首を振る。
さらなる勢力拡大のためか、それとも腕試しのつもりか。
“本土”で一定の影響力を手にしたマフィアどもは、どういうわけか揃ってこの島へ進出してくる。
人道を外れた魔人の
そんな
商会が飼う〈悪魔憑き〉に鼻歌混じりに
壊滅寸前で、
そうとは知らずに野良の〈悪魔憑き〉に喧嘩を売って、路地裏で
――いずれにせよ、救いようのない悲惨な結末ばかりだ。
「――それに、運送屋が次々と消えてるみたいよォ」
ロゼの口から出た意外な話に、眉が勝手に跳ね上がるのが分かった。
「へぇ、どこの誰か知らないけどありがたいね。商売敵が減るのは良いことだ」
「なんでも事務所からは、ある人物とのやり取りが発見されていて……やたら高額な報酬で依頼を請け負っていたらしいの」
「夢のある話だな」
「……アンタらも気を付けなさいよ?」
「ご忠告どうも。
警告を一笑に付して自嘲するアルバートに、おそらく本心から忠告したであろうロゼは呆れた息を吐いた。
「ごちそうさん、美味かったよ。――ワイス、帰るぞ」
「……んぁ」
懐から財布を取り出しながら立ち上がり、寝ているワイスの頭を小突く。
情報というピースは多いほど良い。帰ってから組み合わせて、今後の方針を考えるとしよう。
「あぁそうそう、アルバートの知り合いに可愛い女の子いない?」
レジに立ったロゼの突飛な発言に、紙幣を数えていた手が止まる。
「驚いたな……無性生殖から有性生殖に戻ったのか?」
「あら、知らなかった? アタシって両刀使いなのよ……じゃなくて」
ツッコミの水平チョップを胸板に叩き込まれ、アルバートは思わずよろめく。
ロゼは冗談のつもりでも、鍛え上げられた剛腕の威力は洒落にならない。
「看板娘が欲しいの。ほら、ここの従業員って男ばっかりでむさ苦しいじゃない? ま、選んだのアタシなんだけどね」
「自業自得だろ」
「新規のお客さんが寄り付かなくって困ってるのよォ――ね、お願ぁい♡」
胸の前で祈るように手を組み、ウィンクしながら小首を
「……何人か探してみるよ。代わりに支払いはツケといてくれ」
「はいはーい♪ じゃあ利子はトイチねェ」
逃げ帰ろうとしていたアルバートはぎこちなく緊急停止。舌打ちして回れ右すると、苦々しい顔でレジ横に紙幣を叩き付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます