1-7.『クソ真面目だよねー』
『
『アガリアレプト警察署』の管轄内、とある雑居ビルの最上階に居を構える事務所。
清掃の行き届いた小綺麗な室内の奥で、
後ろへ撫で付けた栗色の髪。同色の
男――ベイリーは不意に画面との格闘をやめ、腰掛けていた上質な黒革のオフィスチェアに身体を沈み込ませた。
悲鳴のように
着古してくたびれたシャツで
――“能力”を得たのは数ヶ月前。
マフィアの仕事を手伝った際にしくじり、罰として奇妙な肉塊を食わされたのがきっかけだった。
尿路結石なんかとは比べものにならない凄まじい全身の激痛を耐え抜いて手に入れたのは、『武器を生み出す能力』。
元々武器マニアであった自分に
もともと血気盛んな
当然、この能力は引く手
もっぱら取引相手は
ヴァルターとかいう同業の
つい数週間前にも、新しい客とのコネを得ることが出来た。
運送屋を営んでいるという、二十代の若造だ。
事務所名はやたらと長ったらしくて覚えていない。名刺を見れば思い出すだろうが……別に今でなくていいだろう。
不良のような見た目に反して物腰は柔らかく、軟弱そうな印象が
「こんにちは、ミスター・ベイリー」
唐突に、声が聞こえた。
少し高めで柔らかい響きだが、声質は成人男性のよく通るものだ。
声の方向――入口あたりを見遣る。
ちょうど応接間の辺りに、見知らぬ青年が立っていた。
まず目を引くのは、上品な色合いの金髪。
次に
すらりとした
ここをホストクラブやパーティー会場と勘違いしたのだろうか――そんな間抜けな感想が浮かぶほどには、彼の容姿は場違いで浮いていた。
その違和感に気付いてようやく、ある疑問が鎌首をもたげる。
“能力”を得てからというもの、五感の精度が異常なまでに向上した。
あるときは力の加減を間違えてキーボードを叩き壊した。
またあるときは部屋の外にいる人間の呼吸音まで聞こえたこともある。
だが、今に至るまで部屋の外に人の気配は感じられなかった。
当然、物音なども一切聞こえていない。
考え事に
奴は一体いつ、どうやって部屋に入った?
「……なんの用だ?」
眉間に皺を寄せて
すると青年は
「――貴方が持っている〈遺体〉を、僕に
◆◇◆◇◆◇
路肩にバンを停めエンジンを切る。
車体を微細に揺らす振動が止まると、リクライニングした
「ん、
寝ぼけ眼を
最上階の窓には、『
「ベイリーさんのとこだ。ちょうど近くだし、
「ヴァルターのとこは?」
「今日は後回しだ「えー」文句ならゾーイに言え」
「……なら、もう帰ろーよー」
「いいかワイス、俺たちが
運送屋を名乗っているが、活動の大半は地道な
それは人との
至って真面目にそう
「ほんっと、クソ真面目だよねーお前。もっと肩の力抜いたら?」
「お前が
「ねぇバート、息苦しさとか感じることない?
「お前はそこで寝てろ、ぐっすり眠れるおまじないを掛けてやるぞ」
そのこめかみに銃口を突き付けながら、アルバートは空いている左手で悩ましげに
——
「……ふわぁぉ」
睨み合いから一秒と経たない間に、ワイスは大あくびをひとつ。再び
「
「……んぁーぃ」
◆◇◆◇◆◇
「——ベイリーさん、バーソロミューです。先日のお礼に
アルバートは三回目の挨拶をドアの向こうに投げる。
しかし反応が無い。さっきから何度インターホンを押しても、ドアを叩いても、呼び掛けても……誰一人として応対に来ない。
留守ではないだろう。耳を澄ませば、室内から微かな物音がする。
――なにか妙だ。
思考にこびりつく違和感と、胸中でさざめき出す悪い予感。
ジャケットの内ポケットに右手を突っ込み、左手でドアノブを回すと、内開きのドアは
あまりの不用心さに
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