Ch.1:Livin' in a gangster's paradise
1-1.『朝だ、飯だ、食え』
『インキュナブラ』——
海上に建てられた、世界最大の都市に匹敵する面積を
そして名だたる大企業が連盟し開発した、先進医療システムを運用するための実験都市。
かつて『近未来の
ある事件をきっかけにギャングたちが流入し、血で血を洗う
唯一の出入り口である
ゴミやカスやクズを世界中からかき集めた、
世界最大規模のゴミ置き場には、流石の太陽も顔を出したくないのだろう。
◆◇◆◇◆◇
『
高層ビルの
かつては希望や幸福を想起させていたであろうその笑顔も、今となっては痛烈な皮肉でしかない――
そんなことをぼんやり考えながら、アルバートは事務所の裏口から
短い廊下の奥に押し込まれたゴミ袋たちは無視して、すぐ左のドアをノック。
……反応が無い。寝ているのだろうか。
「入るぞ」
一応の礼儀として声を掛けてドアノブを回す。開けて一歩踏み込んだ瞬間、
「――っしゃぁ!!」
嬉しそうな叫びと暴力的な轟音爆音が、洪水となってアルバートの身体を押し出した。
「…………」
一旦ドアを閉め、目を閉じて深呼吸。
空いている手で片耳を
様々なロックバンドのポスターで埋め尽くされた防音性の壁。
強盗にでも押し入られたかと思うほど物が散乱した床やベッド。
テーブルには、ピザの空き箱や開けっ放しの袋菓子、飲みかけの炭酸飲料がところ
アルバートからすれば地獄のような光景の中心。ダボダボのパーカーを羽織ったワイスが二人掛けのソファに
「あたしの勝ちー。うぃー、
高精細な3DCGが、
普段から
破壊的なラウドロックが急に沈黙。
リズムに合わせて鼻歌交じりに身体を揺らしていたワイスもぴたりと動きを止め、
――壊れた!?
みたいな顔をして、首が千切れそうな勢いで振り向いた。
アルバートは締め切られていたカーテンを破れんばかりの勢いで開け、日の光を浴びせてやる。
「ゔぇー」
「朝だ。飯だ。食え」
義務教育をまともに受けられなかったバカでも分かるような言葉を選びながら、立てた親指でドアを示す。
部屋に
◆◇◆◇◆◇
「ピザが良かったー」
「昨日も食ってたろ」
バターを半端に塗ったトーストにかじりつきながら、ワイスは不満を隠そうともせず向かいの席のアルバートを
『朝八時までに起き、朝食だけは必ず一緒に食べる』
『仕事以外の時間は、なにをしていようが構わない』
話し合いの上で取り決めたはずだが、何が不満なのか。
『次のニュースです。リーガン製薬の代表取締役、フェルディナンド・リーガン氏が、数日前から行方不明となっており――」
テレビから流れる“本土”のニュース――
その中で交わされる会話は、
「どこぞの大企業のお
「ふーん」
アルバートが振る世間話と、ワイスの生返事くらいのものだった。
誘拐、殺人、行方不明――この島では、朝になると
そもそも別に家族ではないし、父親代わりになったつもりも無い。
話の種を探そうと、
――安いスライスハムを手で
「ほら、野菜も食え」
「やだ。……父親面すんなよ」
皿を近付けてやると、幼児のように口を
……本物が飛んで来ないあたり、今日は機嫌が良いのだろう。
「
露骨に不機嫌な態度を取ってやりたいのを必死に
それでもワイスは
「俺は嫌だよ? もしお前の葬式で神父様に『彼女は野菜嫌いによる栄養失調で死んだマヌケでした』なんて言われたら。……泣くどころか、腹抱えて笑っちまう」
「ハ、〈
鼻で笑うワイスの言葉に、
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