0-3.『賭けようよ』
「あんたは荷物に許可なく触ろうとした上、銃を向けて命まで
「おまけにマジで撃っちゃったよねー。あたし
「全くだよ。俺も〈
「バート、マズい」
ワイスの声が珍しく緊張感を帯びる。
文句を遮られたアルバートも、“それ”に気付いて目を
〈
「き、聞いたことがある……こいつを体内に取り込めば、とんでもねぇ超能力が手に入るってな……ヒッ、ブフヒヒヒッ!!」
不気味で
「「おい、悪いことは言わないから止め――」」
「俺に指図するんじゃねぇ!!」
アルバートとワイスが揃って制止を呼び掛けるが、中年男は口角泡を飛ばしてさらに
「クソ、この俺をコケにしやがってッ。〈
狂った
一瞬の静寂の後、変貌は始まった。
——肉を力任せに引きちぎるような音が。
——骨をまとめて折り砕くような音が。
——血を全て一気に吸い上げるような音が。
耳を塞ぎたくなる異音が、全身から連鎖的に響く。
そのたびに、中年男は聞いたこともないような
まるで
――中年男の言っていたことは本当だ。
〈
——しかしそれは、誰も彼もが簡単に手にできるものではない。
大半は
肉体が無事に適応したとしても、激痛で正気を失い廃人となることも多い。
理性を保ったまま、真っ当な〈
――悪魔との契約が、なんの代償も必要としない訳が無いのだ。
「あーぁ、止めとけって言ったのにー」
同じく距離を取ったワイスが、変貌の様子を無感動に眺めながらそう零す。
呆れた口調と裏腹に、その
「ねぇバート、賭けようよ」
「この状況でなに言ってんだ」
「いーじゃん。
お気楽すぎる相棒の一言にうんざりと返すと、ワイスは構ってほしい子供のように口を尖らせる。
しかし目の前の光景から少しでも気を逸らしたかったアルバートは、彼女の提案に乗ることにした。
「……なにを賭けるってんだよ」
「あのおっさんが〈
「俺はあのまま死ぬ方に賭けるぞ、面倒事はもうこりごりだ。……俺が勝ったら、お前は新鮮な採れたて野菜のサラダをフルコースな」
「じゃ、あたしはおっさんが無事に仲間入りする方に賭けるー。勝ったらデリバリーピザ頼むから。……あ、バートの分は無しねー」
「好きにしろ」
そんな話をしている間に、中年男の周りは静まり返っていた。
血の海の中で
それでも、アルバートの耳には届いていた。
規則正しく刻まれ続ける――心音が。
アルバートは重い溜め息と共に頭を掻く。それを見たワイスは表情を明るくし、小さくガッツポーズ。
「いぇーい、あたしの勝ちー。こないだ出た新メニュー、ちょうど食べたかったんだよねー♪」
隣で嬉しそうに
やがてその太い指がぴくりと動くと、ヘタクソな
「――あは」
その目に理性の光は無い。
「あはふ、うはははっ」
あまりの不気味さにアルバートは自分の顔が青ざめ、全身の毛穴から嫌な汗が噴き出すのを感じた。
最もよくあるパターンで、一番見たくなかったパターンだ。
どうやら〈
「ねぇバート……あれでもまだ依頼主なの?」
「いや、ありゃもう立派な〈
小首を傾げて問うてくるワイスに、アルバートは目を伏せる。
姿形は同じでも、目の前にいるのはもう
人の皮を被った超常の存在。悪魔に魂を売った異形。
理性も正気も失い、衝動のままに暴れる怪物に過ぎない。
アルバートは心底から面倒臭そうに溜め息を吐き、苛立ちのまま頭を掻いた。
「全く、こっちの仕事にケチ付ける、銃を突き付けて
アルバートは
「あはは。クレーマー相手ならさー、もう丁重に扱う必要ないよねー」
ワイスは
「「――殺すか」」
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